6節
6
わたしは、私は、………………。
目を開けると、いつもの私の部屋にいた。
「お目覚めかな、眠り姫さん。」
優井上、さん。
「まずは突然絵の具をかけてしまったことを詫びよう。済まなかった。それで、なにか変化した点はあるかね。」
絵の具をかけられたんだっけ。
それで、赤い絵の具が私に。
「うっ。」
頭が痛い。
サササササササッと幾百の画像が目の前を通り過ぎる。
走馬灯とかはこんな感じなのかな。
私はこの画像を知っている。記憶にある。
「優井上さん。私の話を聞いても馬鹿にしたりしませんか?」
「するわけなかろう。アタシは探偵、事実を知ってそこから真なる事実を見出す役職についているからな。」
そう、だね。
優井上さんなら信用できる。
「私、親から暴力を受けていました。両親が死んだ頃はまだですが、大体の記憶は戻りました。」
俯いていた私は、何も言わない優井上さんの表情が気になって顔を上げた。
考え込んでいるのかな。
難しそうな顔をしている。
ああ、そうか。
たしかに傷は見当たらないもんね。
疑わしいのもおかしくはない、か。
今さっき言っていたもんね。
考えることが仕事だと。
ま、信じてくれなくても馬鹿にされないだけましかな。
「そのことは、後々答えを出していこう。今は情報が少なすぎる。それよりもその腕のバングルだが、USBメモリーになっているぞ。裏側に細工してあるのを見つけた。」
うん、それも知ってる。
私の心の休まる場所をそこに作って保存してあるから。
そういえば、記憶をなくす直前に見た夢はあの場所だった。
なんであの時、そのことを忘れていたのだろうか。
すでに記憶は欠落し始めていたからかな。
今も欠落はしているけど。
もしかすると、この中に隠されているかもしれない。
確認したい。
「優井上さん。この中にあるデータ、私が先に確認してもいいですか?」
「構わない。第一、君の物だろう。アタシにどうこうできる権利はないよ。」
「ありがとうございます。」
記憶が戻ったからと言って、ところどころ抜けているところもある。
だからこそ、一人で確かめたい。
自分のことだから、他人に任せたくない。
「じゃあ、アタシはリビングで待っているよ。終わったら来てくれ。」
優井上さんはそう言うと、部屋を出ていった。
さて、準備を始めよう。
確かこの中のデータは仮想空間のもの。
トランクケースを開けて、電源を入れる。
青い薔薇の腕輪を外して読み取り機の上に置いた。
メガネを外してゴーグルをつける。
ベッドに横たわった。
ゴーグルにあるボタンを押して、私は仮想現実の世界へと入った。
いつも通りの白い部屋。
机も窓も何もない。
存在するのは、電源オフの仕掛けになっている木製の扉と部屋の中央に置かれた直方体の白いデバイス。
夢に見た時とは少しだけ違う。
このデバイスから好きな世界を作れるようにしてある。
こんな世界が高校生の私に作れることはとてもすごいことなのかな。
作成時はパズル感覚で楽しみながら作れたし、この機械作った人は天才だと思う。
私は白い直方体に触れる。
欄を見ていくと、懐かしい気持ちが湧き上がってきた。
こんなことしたな、あんなことしたな、って。
スクロールしていって、やがて私は見つけた。
一番下の欄のものを。
これだけ見知らぬものだ。
そして多分、これが鍵だ。
その何も書いていない場所に触れる。
イエス、ノー、の選択画面。
息を吸って、吐く。
まあ、VRの世界だからそうした気がするだけだけれど。
私は、イエスと、答えた。




