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5節

 5


一ヶ月の時が流れた。


わたしの記憶に関しては、特に進展らしきものはない。


学校へ行ってわかったことは、わたしがイジメられていたということだ。

外からは見えない場所に暴力を振るわれたりしていることだ。


流石に驚いたよ。


学校に行った初日から呼び出されて弄ばれたことには。


それでも学校には行っている。


優井上さんにも相談したけど、行けるなら行った方が良さそうだったから。


正直なところ、怖いとか嫌だとかはあまり感じなかった。


耐性でもついていたのかな。

痛いと感じても涙は出てこなかった。


自分でも驚くぐらいに感情が湧き出てこないって、なんだか気味が悪い。

自分で自分をそう思うのは結構重症な気がするけれども。


一ヶ月暮らして、今までとは違うと思うところはいくつかあった。


やっぱり記憶失くしてんなぁ、と思い場面がいくつも。


記憶の方は、まだ戻っていない。

休みの日に一日中優井上さんと一緒に行動して、少しでも記憶と関連がありそうな場所を見て回っている。


それだけじゃなく、被害者の家族で第一発見者だから超重要参考人ということもあるんじゃないかな。


今日も調査に来ている。


「娘さん、見覚えはあるかい。」


「さすがにありますよ。」


ここはお母さんの職場。

アトリエ。


お母さんが画家として働いているのは前から知っている。


「二週間くらい前に来ましたよね、ここ。」


そう、記憶を無くしてから一度来たことがあるのだ。


いくら記憶喪失になったからといって、覚えていないわけがないのだ。


「前向性ではないかを調べたかったのだよ。アタシと最初に会ってからのことを忘れられては面倒なのでね。それにしても、珍しいな。今時アナログで絵を描いているというのは。」


「その言葉も前に聞きましたよ。」


「ふむ。やはり、覚えているようだ。どれ、今回は少し描いていってみるかね。」


そう言って優井上さんは近くに置いてあった筆を手に取った。


いやだから、紙は今高いんだって。勝手にお母さんのものを使われては困るんだってば。


「大丈夫だ。今日はきちんと紙を持ってきた。」


さて、わたしの思考は読まれたのでしょうか。


「慣れない感触だな。君も描いてみるかい?」


「わたしが所有しているはずなんですけどね。描いてみます。」


机の上から筆を手に取る。青い絵の具を筆の先につけた。


「青が好きなのかい。」


どうだろなぁ。


何も考えずに手前にあったから、というのもあるとは思うけど。


「そうだ。青といえば、気になっていたことがあるのだよ。君のメガネについている録画機能、付けっ放しだが、前からのことなのか。」


「えっ、あ、本当だ。気づかなかったです。どうしてついているんだろう。」


「まあついていたとしても、目立ちにくいからな。」


そうなんだよね。


カメラレンズの右上にある青い光が小さく灯るだけだし、わたしのメガネは青だから余計目立ちにくい。


「そうですね。それはそうと、優井上さんは何色が好きなのですか?」


「アタシは赤が好きだよ。赤は血の色。こんな風に、ね。」


スゥーッと、優井上さんは彼女の左手の指に絵の具を垂らした。

赤い色は彼女の掌を伝いながら下へ下へと落ちていく。


「ほらな。血に似ているだろう。」


「そうですね。」


わたしが半分呆れながらそう言うと、優井上さんは筆を大きく振った。


絵の具が飛ぶ。


わたしは顔を守るために、手を盾がわりにした。


「いきなりなにするんですか。」


「洗えば落ちるだろう。そこまで問題はないはずだ。」


そういうわけじゃなくて、で、し、て……、


「え、あっ、ガッ……っ!?」


アカイ。バラガアカイヨ。


目の前が、ふらつく。


ふらついて、真っ黒になった。



「娘さんっ。」


実瑚はいきなり倒れ込んだ科那を支える。


実瑚は気絶することを予測していたのだろうか。

自身のカバンから服を取り出した。


誰も周りにいないことを確認した上で汚れた服を脱がし始める。


着替えさせている途中、背中に何か違和感を感じたが、気のせいだと割り切った。


次に、青いバラが刻まれたバングルを取り外す。

もちろん、洗うためにだ。


機械はごく一部を除いてほとんどが防水性になっている。


故に、バングルなんかは水で洗えるようにはなっていた。


「……ふむ。」


彼女は何かを見つけたらしい。


実瑚は水に濡れた腕輪を丁寧に拭き取った。

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