4節
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検査に思った以上の時間はかからなかった。
医師から正式に解離性健忘症と言い渡されたが、精神が安定しているから入院をするほどでもないらしい。
とはいえ、今の今まで検査入院をしていたわけだけれども。
まあ、これから病院に通い詰めるよりかは楽かな。
今日は日曜日。
明日からついに高校へ通うこととなった。
高校生活って、どんなものなんだろう。
楽しければいいな。
生徒にはわたしが記憶を失っていることを伝えない。
上手に記憶があるように、前のように演じないといけないってこと。
出来るかは不安しか無いけど、やってみるしかないよね。
最悪バラしてもいいとは言われてるけど、なるべく前と同じ空間ですごした方が記憶が戻りやすいとも聞いている。
放課後は優井上さんと事件について調べる予定。
解決するまでは毎日。
家は警察の人が片付けてくれたらしくそこで暮らすことになる。
お母さんとお父さんが殺された家に住むのはなんか嫌だけど、他に暮らせる場所がないから仕方ない。
ちなみに、医療費は親の口座から引かれているとのことだ。
「失礼するよ。」
優井上さんだ。
今日は家に来ると前から言われていた。
彼女もいろいろと忙しいとのことで。
学校は飛び級で既に卒業しているらしい。
「五日ぶりかな、娘さん。まずは退院、おめでとう。」
「検査入院ですけどね。」
それでも退院には変わりないと優井上さんは言った。
「それで、学校の準備は終わったのかい。」
「終わりました。とは言っても、教科書とノートそれぞれの端末をカバンに入れるだけですけれどね。場所はわたしが記憶しているところと変わりませんでした。」
「では、変わった場所などは?」
んー、どうだろうな。
パッと見た感じだと違和感は感じない。
記憶を無くして目覚めた最初の日の朝も普通だと思ったもんな。
すぐに思いつく場所なんてない……あ、そういえば腕のやつ。
「場所じゃないんですけど、この腕輪でしょうか。三年前にはつけていなかったはずです。」
わたしはそう言いながら、右手を優井上さんに差し出した。
必要最低限でしか取り外していない。
多分、他の人に渡したこともないと思う。
まあ、寝ているときに取られてたりとかしていたら流石に気づかないけれど。
と、その時。
わたしの背中に何か、ゾワっとしたものが通り抜けた。
反射的に右手首を抑える。
「あ、えっと、ご、ごめんなさい。咄嗟に手が出てしまって。」
わたしがそう弁明すると、優井上さんは手を引っ込めた。
いったい、わたしは何をやっているのだろう。
見せるために右手を出したのに。
「体調も良さそうだしな。アタシは仕事へ行くとしよう。明日の放課後、忘れずにな。」
「わかりました。」
軽く手を挙げて優井上さんは部屋から出ていった。
わたしが空気、悪くしたからだよね。
ホントになんで、あそこで手を庇ってしまったのだろうか。