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10節、エピローグ

 10


「湿然科那。あっているかい。」


淡々とした口調で告げた。


《理由は。》


「まず、この一連の出来事が体験したことがあるということ。これだけで事件に関わった人に限られる。次に、アタシが鍵だと言ったこと。これでアタシが候補から外れ、アタシ近辺の人に絞られる。最後に、奇跡を求めていたこと。この行動は、事件を起こした湿然科那の行動理念に似ている。以上三つに当てはまることから、あなたが湿然科那であると断定する。」


さて、あっているかどうか。


《正解よ。》


さすがは優井上さん。


理論的に攻めている。


そしてこれは、私が感覚的に予想していた答えと同じ。


理論は絞りきれていなかったけれど。


でも、私しかいないよね。

こんなことする人間なんて。


知る限りでは他に見当たらない。


《今、現実の私は逃走の身。とある場所に身を潜めながらこの実験をしているの。自家発電で電気は手に入るし、変装すればお金がある限りは食料も買える。命をかけて行なっている実験なの。》


もしかすると私も、同じことをしていたかもしれない。


優井上さんがこの場にいなかったら、きっとやっていた。


なんせ仮想空間くらい高校生でも作れる時代なんだから。

人工知能だって、作れておかしくないはずだ。


《世界は録画した動画を基にして作った。親とか同級生とかにされていることを撮っておけば、何かしらの証拠になるのかなと思って。結局、私が罪を犯してしまったのだけれど。こっちの世界で私が優井上さんに出会った時期は記憶を取り戻して少ししてからよ。お得意の想像と論理的思考で事件を解明していった貴女は私にこう言ったの。》


でも、私の目的は違う。


奇跡がないかを証明するために実験するのではない。


奇跡が起こり得ると、証明したいから実験を繰り返すと思う。


《『なんで相談しなかったんだ』って。とても優しくて強い人だということはわかっている。けど、強すぎて弱い人の気持ちに寄り添えないところがキズ。それなのに何故私が貴女に固着するのか、疑問かな。》


そういえば、私の感情が動いていないな。


さすがに壊れちゃったかな。


それとも、諦めがついているのか。


《それはね、私から見て貴女が希望の星のようにキラキラと輝いて見えたからよ。この人なら私を変えられたかもしれないって。》


「その考えからアタシを起用したなら、あなたは希望を追い求めているようにしか聞こえない。そこのところはどうなのかね。」


やっぱり、優井上さんもそう感じたんだ。


声も静かになった。


「娘さんにも言ったが、諦めが早くは無かったりしないのか。希望がないと言いたいなら、ここで止めるべきではない。もっと先まで見て、現あなたの状態か似たような状態になるまで待つべきだった。」


優井上はあくまで冷静。少し冷たいと感じてしまうほどに。


《……うるさい。ここまで見たら無理だとわかるに決まってるでしょ。今までやった全ての実験でこのエンドになった。それに、私が希望を追求していると。そんなはずない。希望はあっちゃいけないの。希望があったら……っ。》


――報われない。


私もそう思う。


当たり前だ。


罪を負ったのに、それがただ単に不幸だったからだなんて認められるはずがない。


「そう。なら、アタシはもう何も言わない。」


《何を言われたって実験は続ける。どちらかに結果が傾くか、命尽きる時まで。》


それではさようなら、と声が響いた。


痛みも何も感じないまま、私は消えた。



 0


私は実験を続ける。

自分でもわかっている。

きっと終わりが来ることは。

奇跡が起こって終わることは。

思えば最初、奇跡を探そうとしていた。

だから結局、奇跡を追い求めているんだ。



私は今日も、奇跡を探している。

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