2-2《思い》
《部室前/18:50》
まだ空は明るく周りにいる野球、サッカー、テニス部はまだ練習をしている。
競技場にはもう誰もいない、2人を除いては。
「今までのはなんだったんですか?」
「お前たち1年の力を見るためさ。全員の完全な未来を見るにはそれなりに素材も必要だ。」
「それだけのために1ヶ月も?」
「まさかー。駆みたいな奴がいるからだよ。」
「え?」
「今の駆は焦っている。自分が見えていない。」
「そんなことはっ。」
「いや、そうなんだよ。だから少し期間をおいて初めて見ることにしてみた。今ならある程度は力がついている。」
「…。」
何も言えなくなった駆、日がどんどん沈んでいく中龍介が言葉を発する。
「お前だけが特別だと思うなよ。」
その声は1度聞いたことがある。それは入部したその日の夜だ。
今の龍介の目はいつもの優しい目と違いかなり怖い。
その表情が少し崩し今まで空を向いていた顔を駆の方へ向ける。
「友和もなー。あいつも真剣なんだよ。」
「…。」
「ミーティングをした後俺の所に来てお前と同じようなことを言ってきた。だからな、今の駆は周りを見ることが大切だ。」
「…。」
駆は何も言えない。
それは数分前の龍介の怖さからか何も言い返せないからかそれは本人にも分からなかった。
《新芽寮/21:00》
個室よりもかなり大きいこの寮の風呂場は昔は銭湯として使われていたらしい。
そのにいるのはこの寮にいる龍介と晃樹そして管理人の西村さんだ。
「いやー、どうしたもんかー。」
「お前が悩むなんて珍しいじゃねーか。」
「晃樹も何かしてくれよー、今年は部員が多い。」
「それがあんたの願いやったじゃないかい。もっと喜ばんかい。」
2人の話が大きかったせいか西村さんまで話に混じってきた。
西村さんは当時まだ出来たばかりの長野日本大学高等学校にいたと言う。
勿論西村さんも陸上経験者だ。
管理人になる前は山口県の高校の監督としていたらしい。
「そうですね。でもいざとなってみたら競技をやりながら指導は少しキツイです。」
頬を引きずりながら返答をする。
「しっかし、また無茶なことをいうな。」
「何がですか?」
「今日のミーティングの事だよ!俺がじぃさんに伝えた!」
頭を洗っていたためか少し張ったような声で目だけこちらを向ける晃樹。
「あぁ、無茶じゃないですよ。実際俺たちも去年ボコボコにしてやったんですから。」
「全員ではなかったけどのぉ。」
ピクッと西村さんの言葉に龍介の眉が反応した。
それと同時に晃樹も。
「松尾太郎、ですか。」
「今年も松尾は来るぞい。」