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ステイルメイト~黄昏の騎士たちと暁の戦士~  作者: ミズノ・トトリ
EP0 プロローグ 
2/18

久遠の空 2

予備知識

地球は太陽の周りを1年かけて周回するが、中心となる太陽自体も移動を続けており、両者の軌道はドリルのような螺旋状になっている(という異世界が舞台です)。

※※年前 仮想西暦2183年3月18日 午前

太陽系第三惑星 地球 日本 和歌山県南端の人工島

『地球連合軍 日本国(J)防衛(D)隊(F) 重力圏外特別機動隊』訓練学校 


「……ろ、……きろよおい。クオンっ、起きろ!起床時間から15秒も過ぎてるぞ!」

「んぅ?……うそぉ(ゴッ!)痛ぇ!?」


 悪友の強引な目覚ましで、文字通り飛び起きた俺は、ステンレス製の骨組みに額をぶつけ悶絶する。

 そして、自分が宇宙の戦場を駆けるコックピットではなく、狭い2段ベッドの下段で寝ていた事を思い出す。


「おいおい、大丈夫か?今日は4年間の集大成なんだぜ?『テイクオフ』の時、俺だけペア無しとか勘弁してくれよ?っと」


 俺のバディ、東雲(しののめ)八雲(やくも)はそう呆れながら、芋虫みたいに丸まった俺を引っ張り出してくれた。


「ほれ、あと3分で出ないと説教だぞ。これまでほぼノーミスでやってきた優良コンビが、卒業式の当日にやらかすとか笑えないからな」

「すまんすまん……って、俺達のどこが優良コンビだよ!不良の間違いだ、ろっ!!(バサッ)」


 とっくに準備を済ませている八雲に睨まれながら、俺も額の痛みを無理やり忘れ、散らかしたシーツをテキパキと片付けはじめた。


*****


 人類が地球と宇宙を往復できるようになって225年。

 宇宙での長期滞在が可能となって186年。

 小惑星帯との衝突を回避してから148年。

 そして、スペースコロニー建設による、宇宙での半自給自足と永住が可能になって145年が経過した、仮想西暦2183年3月18日。

 俺、香住久遠(かすみくおん)はこの日、ガキの頃からの夢を叶える。

 2世紀前は空想の産物だった、人型ロボットのパイロットになるという夢を。


 遡る事およそ190年前の、1999年7月。

 かのノストラダムスが残した『空から恐怖の大王がやってくる』という予言が、現実の物となった。

 NASAの天体観測チームをはじめとする各国の調査チームが、地球との衝突コースを取る彗星とその取り巻きである小惑星群を発見したのである。

 彼(か)の占星術師兼医師による呼称『un(アン) grand(グラン) Roi(ロワ) |d'effraye《ディフロユール》』から『ディフロユール』と名付けられたこの脅威は、テキサス州ほどの大きさの岩塊で、さらなる調査の結果、36年後の2035年に地球と衝突。地上の全ての生命が死滅するどころか、惑星その物が粉砕されるという被害予測がなされた。

 一言でいえば、地球存亡の危機である。


 だが、奇跡が起きた。


『自分の事だけを考えていれば、確実に地球が滅ぶ』


 大きすぎる脅威を前に、世界が一つになったのである。

 国際連合を中核とした対『ディフロユール』作戦、『Project(プロジェクト)D(ディ) Break(ブレイク)(通称「DB計画」)』が始まり、米国、ロシアなど、宇宙への進出を競いあっていた国々は、秘匿していた情報を開放し、新技術の開発に拍車をかけた。

 技術だけではない。地球上のあらゆる資源、資産、人員が「DB計画」に投入され、国家や人種の間で起こっていた紛争も止んだ。

 まさしく地球人類を総動員して行われた、恐怖の大王への抵抗であった。 

 

 過激な思想を持つ団体による無差別テロや、空気を読めない政治家同士の対立、自然災害といった障害がありながらも、『ディフロユール』衝突まで残り11年となった2025年。人類はついに、希望の光を生み出した。


 スペースデブリを回避又は排除しながら、彗星本体へチームを送り込む、武装輸送機<カササギ>。

 彗星表面での破壊工作作業を可能とする、全長10mの人型高機動重機<ケンギュウ>。

 そして、これらを『ディフロユール』へと輸送する、惑星間の移動と内部での居住が可能な宇宙コロニー<ミルキーウェイ>と、その護衛を担う宇宙戦艦や宇宙巡洋艦等々。

 20世紀以前はフィクションの産物であった数多の存在を、人類は現実にして見せたのである。


 そして2030年1月、「DB計画」の最終段階として、人類の未来を背負った有志達を乗せた<ミルキーウェイ>は『ディフロユール』へと出発。同年3月には小惑星群に到達し、5年という長い時間と少なくない犠牲を払いながらも、これを爆砕・無害化する事に成功した。


 こうして滅亡の危機を脱した地球はその後、培った技術を基に太陽系の外側へ向けて開拓を推進。<ミルキーウェイ>の技術を発展させた『アカデメイア』型コロニー3基を建造。、さらに火星や月の表面には永住可能な都市を構築した。

 そして、2183年現在、その活動領域は、まもなく木星圏へ届こうとしている。

 

 だが、こうした発展と比例するように、新たな対立や紛争も勃発してしまう。

 世界を救うための情報共有が一転、テロ活動や抵抗運動を過激にしてしまったらしい。

 国連加盟各国の軍も、形だけは『国連軍』という一つの組織に統合されたものの、実際には旧来の勢力図のまま、再び不毛なにらみ(・・・)合いを始めた。

 <ケンギュウ>や<カササギ>も、その存在意義を『国家の防衛』、即ち戦闘兵器へと書き換えられ、新たに人型機動兵器<アクィラ>、無重力戦闘機<リィラ>、他脚式戦車<キグヌァス>へと姿を変えた。

 日本においては、自衛隊(JSDF)が日本国防衛隊(JDF)へと改編。陸海空の精鋭を集めた『重力圏外特別機動隊』が新たに組織され、紀伊半島南端に専門の訓練学校も設けられた。


 俺こと香住久遠と、相棒である東雲八雲は、その訓練学校の学生である。

 第110期生として4年間の訓練課程をこなし、本日3月18日、見事に卒業するのだ。


*****

校内 食堂 


 ギリギリで朝の点呼に間に合った俺とヤクモはその後、4年間繰り返してきた日課をいつものようにこなし、いつものように朝食にありついていた。ヤクモは和定食に持参のふりかけ、俺は洋定食のハンバーグだ。

 俺達にとっては変わらぬ日課だが、同期の中には、この場所での最後の食事という事で、すでに涙ぐんでる奴がちらほら見える。調理員のおばちゃんに、きっちり45度のお辞儀をしつつ大声で感謝を伝える奴もいた。


「しっかしクオンよぉ。いつも起床時間の10分前には起きてるお前が、寝坊とは、緊張しすぎて悪夢でも見たか?」


 漫画でしか見たことないような盛飯をがっつきつつ、ヤクモが訊いてきた。こいつも内心、いつもホカホカで旨かった飯を惜しんでいるのだろう。

 俺はその向かいに座り、プレートの上で16分割したハンバーグの1つを飲み込むと、悪友の問いかけに返す。


「まぁ、変な夢ではあったなぁ。なんか、すっげぇ現実っぽい夢だった」


 付け合わせのウスイエンドウをライスと共に口へ運びながら、夢の中身を語る。


 俺は<アクィラ>に乗りこみ、宇宙での戦闘の真っただ中にいた。

 上下左右前後、全ての方位で敵味方が入り乱れ、無線からは悲鳴ばかりが聞こえた。

 そして、一番記憶に残っているのは、目覚める直前のあの光景。

 戦火を掻い潜り駆ける、腕が蒼紅(そうこう)2色に塗られた機体。 


「……『Let's(さぁ) get sta(宴を)rted carnival(始めよう)』」

「ん?それって、お前の姉さんの決め台詞だよな?額縁に殴り書きしてるアレ」

「ああ、どこで何やってんだろうなぁ、アネキの奴……」


 夢の中で聞こえたあの言葉を、俺は無意識の内に呟いていた。

 俺より先に<アクィラ>のパイロットになった姉、第104期の主席でもある香住八音(やつね)が小学校で覚えてから、お気に入りにしている言葉だ。

 歴代の首席を称えるギャラリーの一角に飾られた彼女の写真にも、顔が隠れてしまうほどデカデカと、直筆の落書きがされている。


 『Let's get started~(~を始めよう)』。単なる提案ではなく、強引に周りを巻き込むという、ガキ大将が使うような表現だ。

 昼寝の最中だろうが、ママゴトの最中だろうが、取っ組み合いの喧嘩中だろうが、試験の勉強中(それも高校受験のっ!)だろうが……(中略)、相手の都合を考えずに自分のやりたいことに巻き込む、『生まれた時から女番長(スケバン)』と称された彼女らしい口癖だった。


「お姉さん、今どこに配属されてるのか解んねぇんだっけ?現場で会えるといいな」

「別に会いたくはねぇよ。唯一の身内を、7年もほったらかしにするようなバカ姉なんだから」


 時間に余裕のない訓練時代はともかく、今のご時世、大きな紛争やきな臭い地域もほとんどない。またJDFは、専守防衛を旨とするその性質から、そういった鉄火場にはまず派遣されない。

 3年前にどこかの宇宙コロニーで大規模なテロがあった際には、邦人救助の名目で国連軍の混成鎮圧部隊に参加したが、その時も、姉の名前が聞こえることはなかった。

 

 ことわざ曰く、『便りが無いのは、良い便り』らしいが、両親の死後、たった1人の家族である俺に安否を知らせるくらい、してくれたって良いのではないだろうか?


「思い出したら、急に腹が立ってきたっ!」


 俺は残りの朝食を自棄(やけ)食いし、姉へのいら立ちを麦茶で飲み下してから席を立つ。

 そして、盛飯を3分の2ほど平らげ、自前のふりかけの小袋と格闘している悪友に声をかける。


「俺、先に教官たちに挨拶して回るわ。ヤクモはどうする?」

「パス。最後の日まで、おっさんたちの説教聞くのはごめんだよっ……とぉあーー!?」


 本当は涙腺が緩くなるからだろうに。と、テーブルにノリタマをぶちまけて涙目になっている、実はおセンチな悪友を残し、俺は食堂を後にした。

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