Dear.
大好きな人からのメール。
それは、何よりもの宝物。
だから、たった二行のメールだって、大切なの……。
夜の9時、お風呂上り。
いつも時間きっかりに、いつものメールが届く。
差出人は、見なくても分かる、その人。
件名はいつもなし。
そして、本文には……。
『明日、放課後生徒会室に集合。会議なので今日渡した書類持参。以上。』
……念のため、『以上』と書かれているのにスクロール。
しかし、やっぱりそれ以外のことは書かれていない。
――私はそのまま『わかりました』と、たった一行打って送信。
そして、ため息をつきながら、となりのベットに倒れこむ。
私の、大好きな人。それは――生徒会長。
……そして、私は副会長。
意外とまめな生徒会長とは、いつもこうやって、翌日の予定をメールで打ち合わせする。
……とはいっても、一方的に送りつけられるだけなんだけど。
しかも、簡潔に仕事の用事だけが書かれているだけ。
『がんばろうね』とか、『また明日』とか、一言もない……二行だけのメール。
それだけなのに私は、大切にそのメールに保護をかけてしまう。
私が副会長に立候補したのは、会長に近づきたかったからって理由じゃない。
成績、運動神経抜群。クールで知的な印象の生徒会長は、学校でもカッコいいと女子に大人気。
確かに、私だってカッコいいかなって思ったけど。
ただ、純粋に学校をもっとよくしたいと思ったから立候補した。
……だけど、知り合ううちに、どんどん彼のことを好きになっていって。
気づいたら、たった二行の。しかも、全く無愛想なメールでさえ、大切にしてて。
「私って……馬鹿だよね……」
会長にとっては、ただの仕事の一部に過ぎないのに。
それを大切に、宝物なんて言ってる自分が、時々寂しくなる。
そのたび、今まで保護してある、大量のメールを消してしまおうかとも思うが……。
……やっぱり、諦められなくって。
たった二行のメールで、私と生徒会長は繋がってるから。
――そんな、ある金曜日の夜。
明日は土曜日、ってことで、休日。
急ぎの書類とかの連絡がないかぎり、金曜日は滅多に生徒会長からのメールはない。
私からも用事はないので、今日はこないだろうと思っていた。
そして、お風呂上り。
着信の確認をしようと、携帯を取ると。
……突然、メールの着信音が響く。
「ん……誰だろう?」
時計を見れば……、9時。
この時間なら……生徒会長?
急いで見ると、やっぱり差出人には生徒会長の名前。
何か、急ぎの書類でもあったのかな……。
何気なく、本文を見ると。
『明日、昼1時に公園集合』
「え……。公園……?」
確かに、明日は土曜日だから学校も開いてないけど……。
でも、目的は? 書類とか、いらないの?
……生徒会長はいつも、二行で簡潔に提示してくるのに……。
私は、たった一行になってしまったメールを前に、戸惑うばかり。
メールで聞こうか。
……でも、そんなことしたら面倒だと思われない?
ただでさえ、毎日メールさせて面倒かけているから、手間取らせたくなかった。
しかたなく……いつもの通りの返事、『わかりました』。
これで、今日のメールは終わり。
いろいろ聞きたいことは、明日会ったら聞こう。
……怒られるかもしれないけど、それは覚悟のうえで。
私はなんだか疲れてしまい、ベットに向かおうと立ち上がった。
すると――。
再び鳴った、メールの着信音。
慌てて見ると、差出人。……やっぱり、生徒会長。
なんだか珍しいことばかりだ。
……生徒会長からの返信は……初めてだから。
いつも二行のメールに、『わかりました』と返すだけ。それ以上のやり取りはない。
私はなんだか不思議な気分で、メールを開いた。
……件名はなし。
そして、本文は。
『本当に、わかってる?』
「え……?」
私の心を読んだような、その一言。
初めての返信。
だけど、なんだか責められてる気分だった。
……確かに、何も分かってない。明日公園で、何の仕事をするのか。何を持っていけばいいのか。
それは、私も副会長なんだし、自分で考えなきゃいけないとも思う。
だけど、私に思い当たるところはないし、そんな話聞いてないから。
思い当たらなくて……素直に、聞いてみることにした。
『明日は何の仕事をするんですか? 書類は何を持っていけばいいんですか?』
……私なりに、簡潔なメール。
ゆっくりと送信すると、返事はすぐに返ってきた。
『やっぱり、わかってない』
……わかって、ない……?
たった、一言。
私はその返信に……なんだか泣きたくなってきた。
……たった一行のメール。
私に、何をわかれっていうの……?
すると――。
再び鳴った、携帯のメロディー。
だけど、それは、メールの着信音じゃない。
……電話……?
気づいて、慌てて通話ボタンを押す。
急いでいたので、相手の確認をしてないけど。
でも。きっと。
……携帯を持つ手が、震える。
「もしもし……」
『……もしもし。……俺だけど』
耳に残る、その低く澄んだ声。
――……生徒会長……だ……。
混乱する頭で、必死に答える。
「会長……、どうしたんですか……急に、電話なんて……」
『……メール打つの、面倒だったから。今、電話大丈夫?』
「あ、はい。……大丈夫、です」
――……メール……面倒……。
たった一言なのに、ずしりと。……生徒会長の、電話越しの声がのしかかる。
「それで……なんのご用件ですか?」
『うん……まぁ、さっきのメールのことなんだけど』
それっきり、黙り込む生徒会長。
どうしたんだろう……伝えにくいこと?
そして。ふと。
ある考えが過ぎった。もしかして。
電話口に落ちた沈黙。
私は、そのままぐるぐると考える。
送られてくる二行のメール。……たった二行でも、毎日ともなるとさすがに面倒だよね。
……だから生徒会長は、一行のわかりにくいメールを送って。
そして……私を呆れさせて……メールを止めるつもりだったんじゃ……。
一つの考えが、確信に変わっていく。
生徒会長は、私に『メールはもう送らなくていい』って言わせたかったんじゃない?
なのに、私が『わかった』なんて言うから、『わかってない』って言ったんじゃ……?
――ということは。
『……ねぇ、聞いてる……?』
「あ、はいっ……。すいません……」
しばらく、止まっていた思考回路。
……何話してたっけ。
普通なら、きっと、この電話の向こうの生徒会長の声を、一つ残らず聞こうとするのに。
なのに、今は……。
「……会長……?」
『何……?』
中々、話を切り出さない生徒会長。
……私は、震える声で、話しだした。
だって……これ以上、生徒会長に迷惑、かけたくなかったから。
「私……さっきのメールの意味……わかりました……」
『…………っ』
電話の向こうで、息を呑む音が聞こえた。
……やっぱり、そうなんだ。
自然と、目いっぱいに涙が溢れ出す。
だけど私は。
涙を懸命に堪えて。
生徒会長に見えるわけないけれど。
でも、堪えて。
……小さく、呟いた。
「――……生徒会長……メール……もう、送りたくないんですよね……?」
……思わず、堪えきれなくなった涙が零れ落ちた。
電話の向こうは、相変わらずの静けさ。
……私が、毎日楽しみにしている、二行のメール。
仕事の内容だけでも。気遣う言葉がなくってもいい。
ただ、あなたが私のために、くれたメールだから。
……だから、私の宝物だった。
けれど。
――そう思っていたのが……私だけだったとしたら。
毎日仕事のことばかり考えてて、面倒な女。
そう思われてるのにも気づかないで、馬鹿みたいにメールを『宝物』なんていって大事にして。
そう……思いながら、送られたメールだったとしたら。
それはすごく寂しくて。
そして……すごく、悲しい。
……それに、生徒会長にとっても。
――だったら、もう、……送ってこなくても、いいです。
……そう、言おうと、口を開いた時。
『やっぱり……わかってない』
「……え……?」
生徒会長の、呆れたようなため息。
思わず、息が止まる。
……わかって、ない?
答えを待つと、生徒会長はいつもの低い澄んだ声で話し始めた。
『君……俺がなんで、毎日面倒だって思いながらもメールしてるか……わかってる?』
「……いいえ」
ふるふると首を振ると、伝った涙が飛ぶ。
そういえば……なんでだろう。
生徒会長はまめな人だから、って思ってたけど……聞くからには理由があるんだろうか。
私の答えを聞いて、生徒会長はため息をついた。
『やっぱりね。……俺は……
――君からのメールが欲しくて、ずっとメールを送ってたんだよ』
「私からの……メール?」
私からなんて、メール送らないけど……。
仕事のことでも、事前に生徒会長が説明してくれるから、聞くこともないし。
もちろん、私情のことなんて相談しない。
……送るとすれば、生徒会長のメールに対する返信だけ……。
「って……もしかして……」
私が思わず呟くと。
……電話の向こうから、薄く微笑む音が聞こえた。
『……わかった?』
「でも……私っ……っ!」
『そう。――君からの『わかりました』。……それだけのメールが欲しくて、俺は毎日君に送ってた』
――そんな。
そんな、嘘。だって、『わかりました』って。
生徒会長の、二行のメールどころじゃない。
……たったの、一言。
しかも、いつも変わらない、ありきたりな言葉。
なのに……私のその一言のために……?
……私が呆けていると、生徒会長はそのまま続けた。
『……俺がメールを送り始めた時から……
……いや、最初会った時から、かな。俺は、ずっと、君の事を見てた』
そんな……生徒会長が……私を見てた?
私が生徒会長を好きになる前から、ずっと……?
「で……でも、会長、そんなそぶり一度も……」
ようやく、しぼりだせた声。
だって……生徒会長は、私に対しても、みんなと同じように接していたし……。
『だって君、俺を生徒会長としてしか見てないようだったし。
……生徒副会長として頑張ってるみたいだったしね』
「……そんな……」
……仕事をこなそうと必死だったのは認めるけど。でも。
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
だって、でも。
そんな言葉しか、いえない。
『で……さっきのメールの意味……わかった?』
何も言えない私に代わって、生徒会長が問いかける。
「さっきのメールって……『明日、昼1時に公園集合』ですか?」
『うん。……よく、考えて』
……もう、さっきからわからない。
生徒会長が、私のたった一言のメールために頑張ってくれてたこと。
生徒会長が……私を、ずっと見てたってこと。
そして、突然、メールの意味を考えろって……。
次から次へと詰め込みすぎてわからない……。
って……もしかして……。
『……わかった……?』
しばらく経って、生徒会長は楽しそうに尋ねてきた。
……もしかして。……たぶん、そうだとおもうけど。
でも。
「〜〜……わかりませんっ」
……恥ずかしくて、いえない。
生徒会長は、そんな私の心を読んだのか。
電話口でもわかるほど。……嬉しそうに、微笑んだ。
『……デートの誘いに決まってるでしょ。……来るよね……?』
――初めての、一行のメール。
それは……二行のメールより、もっと思いのこもったメールだった。
――夜の9時、お風呂上り。
今でも時間きっかりに、メールは届く。
差出人は、見なくても分かる、その人。
件名はいつもなし。
そして、本文には……。
『明日、昼休みに生徒会室集合。アンケート集計なので書類を集めてくること。』
……相変わらずの、簡潔な仕事内容メール。
面倒だけれど、もう習慣化してしまったので続けると言っていた。
でも、変わったことがある。
それは。
二行のメールをずーっとスクロールした、下の下。
……一番最後に、もう一行。
『大好き』
……思わずこぼれてしまう、心の底からの微笑み。
たった一行増えただけ。
だけど。
――私の宝物は……もっと大切になった。
Dear――親愛なるあなたへ。
『私もあなたが大好きです』
お読み下さりありがとうございました!
はじめての投稿なので緊張で手を震わせながら書いてます。
なので、アドバイスや指摘などありましたらよろしくおねがいします。
……特に感想などいただけたら、それはもう、ものすごく喜びますので、どうぞよろしくお願いします!




