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目が覚めた時、僕の傍に居て  作者: 松井 美和
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1話

中間考査が終わり、久しぶりの休日に同級生の有紗と真帆の三人でカフェに寄った時のことだった。


いつも明るくて元気な有紗が、付き合い始めたという彼氏のことで話題にしていた。


「えっ、告白もないのにエ○チしたん?!」

「それって、付き合ってるん?」


控えめに声を抑えつつ、驚きを隠さない真帆と咲良。


訪ねる二人に、有紗は軽くあしらった。


「やぁね~、相性が合って初めて盛り上がるんやんかぁ」


肘を着いた手を振りながら返す有紗に、何故にこのメンバーで出掛けてるんだろうと、秘かに胸中で疑問に思いつつも、咲良は真帆と共に呆気に取られていた。


カフェテラスというお洒落な場で、何故卑猥な話をしているのかも解らず、咲良は周りの目が気になって恥ずかしかった。


「そ、そうなん……?」

「付き合ってから、性の不一致なんてゴメンやし。それで離婚なんてあるしなー」


何か違うと思いつつ、口にすればややこしい展開は目に見えているので、二人は敢えて沈黙を選択した。


いつか必ず痛い目にあうぞと、心の中で助言しておく。


本人は間違ったことをしていないと思っていることは解っているが、何かしらいい気分ではなかった。


何しても、何も解らない子どもではあるまいし、義務教育も終えている。


成人式も終えたばかりでもある。


そこまで踏み込むつもりもなかった。



*†*:;;;:*†*:;;;:*†*:;;;:*†*:;;;:*†*



「じゃあ、またねー!」


この後彼氏とデートがあるとのことで、有紗は二人に大きく手を振って去っていった。


見た感じでは、相手から連絡が来て会うことを決めたらしい。


咲良から見れば、都合のいい女になってるような気がした。


それでも、有紗が選んだ相手だ。


他人がとやかく言ったところで、聞く耳を持つはずないのは目に見えている。


一度痛い経験してみなければ、本人に自覚は生まれないのだ。


「有紗、忙しそうやねー」

「……ねー」


その後駅までショップを見ながら歩き、別れて帰路に着く途中大きな公園を通り抜けようと歩いていた時だった。


真帆と楽しんだ余韻もあり、今夜の夕飯はオムライスにしようかと考えていた咲良の耳にくぐもる声が聞こえた。


「あっ、だめ……」


すぐに、男女の営みであることを頭で理解する。


聞きたくも想像したくもない咲良は、急いでその場から立ち去って帰ろうと歩幅を大きくした。


「んっ、あ……っ」


チラッと茂みを見ると、見覚えのある背格好の男が、木に手を付いている女に覆い被さっていた。


(……っ、うそでしょ……っ?)


まだ夕暮れだというのに、女は恍惚な表情をしている。


その女を振り向かせてキスをしていた男を目にした瞬間、咲良の足は何処へともなく駆け出していた。


運動音痴で、何よりも陸上競技が大の苦手だったのに、咲良の足は止まらない。


(あんなとこで……っ、あんな……っ!)


泣きたい気持ちと憤りが入り交じり、さっきの光景が頭から離れてくれない。


顔を見るのは数年ぶりだったが、今もこれほど胸が張り裂けるくらい辛いのかと自覚する。


とうとう足に限界が来て止まった咲良は、喉が痛くて息をするのが苦しかった。


「大丈夫?」


膝に手を着いて息を整えていると、目の前に男の靴が霞む視界に入る。


「はあっ、はあっ、はあっ」

「こっち」


咲良の手を取って、その足は進みだした。


見上げると、少し背が高いルーズグランジショートの後ろ姿。


咲良は、手を引かれるままに連れていかれ、やがてベンチに座らされると、男はまた立ち去った。


(なんなん……?)


咲良の頭の中は、さっきの公園でのシーンが脳裏に蘇る。


さっきまでは真帆と歩きながら喋っていて楽しかったのに、今では泣きたい気分で仕方なかった。


「はい」

「……っ」


目の前にピーチティーのペットボトルを差し出されて、咲良は初めて男の顔を見た。


表情は薄いが、ぱっちりとした大きな瞳で整った可愛らしい顔立ち。


色素の薄い髪は、癖っ毛なのかパーマ充てたようにうねっている。


一言でまとめると、小動物のようだ。


「ありがと……」

「一口でも飲んで」


状況が飲み込めないまま、蓋を開けようとするが、手に力が入らない。


「貸して」

「あ……っ」


蓋が回ったところで「はい」と手渡された咲良は、何故こんな風にしてくれるのか疑問をぶつけてみた。


男は少し呆気に取られたかと思えば、思い出したように自分でも改めて疑問に思ったらしい。


眉をひそめて、人差し指でポリポリと頬を掻く。


「んー……、咲良が辛そうやったから?」

「……っ?」


見知らない男に名前を言われて、咲良は息を呑んだ。


「なんで、名前……」

「知らん。

 なんか、今パッて出てきた」

「え、ちょ、は?

 あたしを知ってんとちゃうの?

 てか、誰?」


男は少し考え込むも、思い出せそうにもなく、とりあえず名前だけは伝えた。


橘 大樹――。


それでも、咲良にはピンとも来ない。


「多分、ずっと昔に会ってんやろな」

「……?」

「俺、小さい頃事故ってそれ以前の記憶なくしてんやわ。

 それに……」


大樹が言いかけ止まる仕草に、咲良は気になって小首を傾げる。


その時、咲良を見る大樹の目が、何かを訴えたいように見えた。


しかし、大樹はへらっと笑った。


「目の前で辛そうな人居ったら、放っとかれへんやん?

 俺、この後仕事あるから行くけど、落ち着くまでゆっくりして行き」


大樹は立ち上がって、咲良の頭を撫でる。


あまり慣れてない行為に、少し照れくさくなった。


「ありがとう……」

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