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Prolog
時々、夢を見ることがある。
真っ白で何もない世界、上下どころか、前後左右の感覚機能さえも狂わせるほど何もない空間。
最も古い記憶は、確か夏やった。
半袖を着ていたから、それは覚えている。
その空間の中に、ただ一人大人の男が立っていた。
ーーそれが、志樹やった。
志樹は、なんでも話を聞いてくれた。
“兄”という人が、ほとんど家に居ないから、いつもは家政婦さんが来てくれていること。
時々近所のお姉ちゃんも、遊んでくれること。
一緒に行った遊園地や水族館、キャンプ場、プール。
兄たちは、俺に惜しみ無く愛情を注いでくれた。
交通事故で亡くなった、両親の代わりに……。
兄たちの話を聞いている時の志樹は、殊更興味深そうやった。
逆に、悲しい顔も見たことある。
身体が弱くて、体育や身体を使う授業には参加できず、いじめに遭っていたことを話した時。
「俺なんか、生まれて来やんかったら良かったんやっ」
こんな自分の身体がイヤで、愚痴った時には大きな手が肩を抱いてくれた。
「そんなん言うたら、お母さん悲しむで?」
泣きそうな顔をして言ったのを今もよく覚えている。