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第五十五話 俺とルネのこれから

 住んでいたアパートが完全に崩壊してしまった。破壊工作を行った犯人である『黒いやつ』も、元いた白黒の世界へと戻っていった。


 脅威も去ったことだし、これでまた平穏な日常が戻ってくると締めくくりたいところだったが、住む場所がなくなってしまった訳だからな。これからのことを考えると、頭が痛む。


 明日も仕事だっていうのに、どうしたものかねと、眠っているルネの寝顔を見ながら、想いを巡らせた。そういえば、仕事に行っている間、ルネはどこにいてもらおうかな。


 どこか他人事のように思えてしまうな。苦笑いしつつ、横を見ると、いつからそこにいたのか、おかっぱ頭の幼女が、同じようにルネの寝顔を覗き込んでいた。


「いつからそこにいた?」


 ルネからわずかに視線をずらして、おかっぱ頭のおかっぱを横目に聞いた。


「たった今やってきたばかり。この子、とっても気持ち良さそう。私も寝たくなってくる」


「眠ればいいさ。ただし、俺の質問に答えた後でな」


 幼女に話しかけるにはふさわしくない低い声を出した。おかっぱ頭が、視線をルネから、俺へと変化させた。


「質問? 私に?」


 無言のまま、そうだと首を縦に振った。


「さっき車がこっちに突撃してきたのは、お前の仕業ということで間違いないな?」


 おかっぱ頭は、俺の観察を続けながら、こくりと首を縦に振った。こういうのって、あれだよな。悪びれもせず……って、やつだよな。


 自分のしたことに反省していないのは丸分かりだが、表情を窺っても、邪気が漂ってこないことも気になった。幼い子供が、大人に特撮物の合体ロボットをぶつけるのと同じ感覚というか、遊び感覚で車をぶつけてきたように、思えなくもない。


 罪悪感を持ち合わせていないとは思わないが、こうも邪気を感じないと、拍子抜けするものすらあるな。


「ここには何をしに来た?」


 普通に考えれば、シロに止めを刺しに来たのだろう。あと、シロの仲間だと間違えられて、俺が殺される危険も想定したが、おかっぱ頭の様子を見るに、それはなさそうだ。俺への興味は薄らいたのか、またルネの顔をじっと観察している。


 俺に危害を加える気がないのなら、改めてさっきの蛮行のことを避難させてもらうとしようか。いかに相手が幼女といえど、やっていいことと悪いことがある。


「お前とシロが対立しているのは知っているがね。やり方ってものがあるんじゃないのか? 危うく無関係の人にまで危害が及ぶところだったんだぞ」


 住む場所を失ったという点では、十分危害が及んでいると言えなくもないな。おかっぱ頭は、うんともすんとも言わずに、俺を無表情で見つめていた。そっちが黙ったままなら、こっちが話し続けさせてもらうと、口を動かす。


「それとも、アレか? 正義のためなら、何をしても許されるとか思っているタイプか? そういうの、やめた方が良いぞ。周りから孤立するし、そういうやつって、ろくな死に方をしないもんだからな」


 こいつらのパーティは、一度魔王相手に全滅している。そういう意味では、ろくでもない死に方をする危機もある訳だがね。


「無関係のやつには当たらないように配慮した。問題ない。車が落下した際も、下にいた人間を強制的に吹き飛ばして、落下地点から離した」


 問題ないって……。俺たちが当たりそうになっていたじゃないですか! それに下のいた人たちだって、車の下敷きよりはマシだが、強制的に吹き飛ばした際に、怪我を負っているんじゃないのか? こいつなりに、被害が拡大しないように配慮しているみたいだが、肝心なところがお留守になっている気がする。


「まあ、いいや。俺とルネに用がないのなら、お前はもう帰れ。こっちはしなくちゃいけないことが山積みで、遊んでやっている暇がないんだ」


 仮にしなくちゃいけないことがなくても、あまり関わりたくないがね。とにかくシロがこっちに来る前に、どこかに消え去れ。今夜において、これ以上のトラブルはたくさんだ。住処を失っただけで、もうお腹いっぱいなんだよ。


「用はないけど、興味はある。特にこの子」


 ルネのことか。また一段と顔を近付けて凝視しているな。今、ルネが起きたら、ビックリして飛びのくぞ。


「今回はいつになく覚醒が早い。遅い時は一年かかったのに」


「おい……、何の話をしているんだ?」


 シロもそうだったが、こいつもルネに対して何かを知っているようだ。それなのに、出し惜しみして、話そうとしない。


「相当好かれている。二人の相性は良い。ラブラブ」


「だから、何の話をしているんだ?」


 それはどうもと返してやりたいところだが、どうも冷やかされている気もするんだよな。


「お前は、この娘が手に負えなくなって、直に捨てることになる。それは仕方ない。だが、あまり乱暴に捨てるのは駄目。捨てる時は、紳士的に。私が言いたいの、それだけ」


「何だ、それは。忠告のつもりか?」


 俺がルネを捨てるだと? 確かに、歴代のご主人様たちが、ルネを捨てた話は聞いたよ。だが、俺にはルネを捨てる気など、これっぽっちもない。捨てると断言しているおかっぱ頭の話は、気分が悪くさせた。


「ん……」


 ルネの顔色を窺うが、特に異常がある訳ではなさそうだ。手当の必要等はないと、改めておかっぱ頭の方を見ると、既に彼女の姿はなかった。


 ルネに視線をやった一瞬の間に、立ち去った……?


 おかっぱ頭と叫んでみようかとも思ったが、そんなことをする必要はないと、喉まで出かかった声を引っ込める。もうどこにもおかっぱ頭の気配はしないのだ。立ち去ったとみて、間違いない。


「現れる時といい、立ち去る時といい、一方的だな」


 あいつ、絶対にパーティメンバー以外で友達いないだろ。いや、パーティ内でも、扱いづらいキャラで通っていた可能性すらある。


「とにかく! これからのことを考えないとな」


 いなくなったやつのことを言っていても仕方がない。早急に、今後の対策を練らないと。そっちの方が急務だ。


 まだ寝ているルネを、お姫様抱っこで抱えると、とりあえずアパートを出ることにした。外では、まだ野次馬と警察と、俺と同じく住処を追われた住人達が、元気に騒いでいた。悲嘆にくれている人もいるが、怪我人はいないみたいで、そこだけは救いだった。


「お兄ちゃ~~ん!!」


 俺も人の波の中に入ろうかなと思っていると、はぐれていたシロが、俺に駆け寄ってきた。一番派手に動いたというのに、ピンピンしている。


「無事だったか」


「ふふん! あの程度で怪我を負うほど、柔じゃないよ! お兄ちゃんと一緒だね!」


「お前と一緒にするな。怪我こそ負っていないが、俺は常人だ」


 互いに再会を喜んだが、それも束の間に過ぎなかった。すぐに真顔になると、話題も真面目なものになっていった。


「アパート……。壊れちゃったね!」


「ああ……」


 お前も一緒になって壊していたような気もするが、そこは流してやろう。追及したところで、テヘペロで誤魔化されそうだ。


「まあ……、代わりの部屋が見つかるまで、ホテル暮らしになるな。出費を考えると痛いが、どうにかなるだろ!」


 落ち込みそうになるのを堪えて、努めて笑顔でシロに話す。だが、シロが言いたいのは、俺の次の住居のことではなかった。


「いや、そっちも重要なんだけどね。それより、賞金探しはどうなるのかな~って! 例の部屋も、跡形もなく破壊されちゃったでしょ!」


 シロが何気なく発した一言に、俺の笑顔は、脆くも崩れ去った。というか、どうしてそんな重要なことを、この瞬間まで失念していたのだろうか。


「そ、それは……、場所を改めて、新たに開催し直すんだろ?」


「どうかな。私も気になって、確認を取ってみたんだけど、魔王様、別に楽しいおもちゃを見つけちゃったみたいだし」


「おもちゃ……?」


 ハッと気付いた。自分に懲りもせずに楯突いてきているおかっぱ頭たちを始めとした勇者たちのことか!


「えっ……。じゃあ、賞金稼ぎは……」


「中止になるかもしれない」


 ふざけるな! 簡単に言ってくれるがな。そうなると、ルネを買うための一億円はどうなるんだよ。支払いの見込みがなくなるじゃないか。


 俺の心境を知らないルネが、腕の中で幸せそうに唸っている。このままじゃ……、ルネが俺の手から零れ落ちていってしまう……!


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