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第四十五話 仕事が早く終わった日は、彼女と街へ繰り出そう

 初日から怖い思いをすることになったが、どうにか無事に一日を終えることが出来そうだ。というのも、修理作業が終わって、部屋に戻ったところで、交代の人間がやってきたからだ。


 時計を見ると、ちょうど午後五時になったところだった。今日だけたまたま早いのかと、パンクに確認してみたところ、いつもこの時間だと言われ、思わず自分の耳を疑ってしまった。


 建物の外に出ると、まだ太陽が空にあった。もうオレンジ色に染まっていたが、仕事の後に見たのはいつ以来だろうか。


「この仕事の良いところはな! 高い給料と、仕事の後に見られる夕焼けの二つだ。お前もそう思うだろ?」


「ああ、確かにな」


 認めたくないが、確かに格別だった。これで、手に缶ビールでもあれば、言うことはないね。


 素直に感動を口にして、これから沈もうとしている太陽を見ていると、パンクに尻をまさぐられた。やられた……! 俺に太陽の話をしたのは、隙を作って、セクハラをするためか。


 しかも、それにとどまらず、俺の股間に向かって、手が動いてくるではないか。思わず乱暴にはたくと、パンクは愉快そうに、肩をすくめた。


「もうちょっとだったのに。惜しいな」


「セクハラ止めろ……」


 俺が遺憾の意を表明すると、一応は謝ってくれたが、この様子だと、またやってくるんだろうな。


「でも、確実に距離は狭まっている。目的の物まで到達するのは近いな」


「到達なんぞさせん! 一人で勝手に盛り上がっていろ」


 ハッキリと言い切ってやったが、内心はちょっと不安だったりもする。


 バイクで通っているというパンクとは、ここで別れて、俺はまた爺さんの運転する車のお世話になることとなった。


 心なしか、来る時よりも速度アップしているリムジンに乗りながら、今日一日のことを思い出していた。施設を襲撃してきたフードの子……。昨日、賞金探しに乱入してきたおかっぱの子の仲間の気がした。根拠はないが、どっちもシロのことが嫌いみたいだしな。敵の敵は味方みたいな?


「どうでしたかな?」


「ああ、仕事ですか? ええ、朝からビックリすることの連続でしたが、どうにかなるものですね」


 物思いにふけっていたら、爺さんから話しかけられた。送ってもらっていることもあり、言葉には注意を払った。


 そういえば、この人は、あのフードの子について、どれくらい知っているのかな。さすがに全く知らない筈はないと思うが。


「この仕事は身の危険が伴いますが、定時に帰ることも出来ますので、彼女さんとのデートや習い事など、充実した生活を送る上では便利ですじゃ」


「ははは……」


 出来れば、身の安全を優先してほしいんですがね。


 それにしても、デートか……。そういえばルネに服を買ってやる約束をまだはたしていなかったな。今日は時間にも余裕があるし、誘ってみるか。あまり待たせるのも嫌だし、ポイントも稼いでおきたいしね。




 帰宅すると、いつもより元気な声で、「ただ今」と言った。ルネの声を聞きたかったのだが、聞こえてきたのは、シロの「お帰り!」という声だった。


 何かすっかり俺の家に居ついたな。泊まっていいと許可した覚えはないんだがな。いや、それよりも、気になることが……。


「何だ、これ……」


 ドアを開けてすぐのところに、剣が突き刺さっていた。見た感じは、高級そうだが、そんなことはどうでもいい。


「ルネは今お昼寝中だから、静かにね!」


 口元に人差し指を添えて、犯人と思われる幼女が近寄ってきた。早速質問をさせてもらおうか。


「ふっふっふ……。それは選ばれた者のみが抜くことが出来るという邪悪な剣……。腕に覚えがあるのなら、引き抜いてみるといいよ!」


「いいよ……」


 こういうのって、普通は魔王の打倒を目指している勇者が引き抜くものじゃないのか? しかも、サラッと邪悪な剣って呟いていたしな。手にした途端に、呪われてしまいそうだ。


「ていうか、イタズラなら、さっさと片付けてくれよ。これじゃ、部屋に誰も呼べないだろ」


「ぶ~!」


 俺のノリの悪さに、頬を膨らませていたが、要求には素直に従ってくれた。力のある者にしか引き抜けないとか抜かしていたが、シロは右手だけで、あっさりと引き抜いていた。思わず、ただの剣じゃないのかと突っ込んでしまいそうになったが、引き抜く瞬間に聞こえた悲鳴のような声を聞いて、考えを改めた。


「おい……。引き抜く時に断末魔の叫び声が聞こえたぞ。ゴキブリでもうっかり真っ二つにしちまったのか?」


「ム! この芸術的な音を、ゴキブリの断末魔呼ばわりするなんて!」


「芸術……」


 おいおい。魔族の連中は、今の悲鳴を聞いて、うっとりするのか? だとしたら、シロたちとは、美的感覚がかなり違っている訳だ。


「な、何があったんですか? 今すごい声が……」


 今の騒ぎで目覚めてしまったルネが慌ててやってきた。どうやらルネも詳しいことは聞かされていないらしい。掃除機を武器代わりに、恐る恐る顔を覗かせた。


「ああ、ルネ。ちょうどいいところに!」


「えっ、ご主人様ですか? もうお帰りになられたんですね!」


「そうだよ。仕事をクビに……。痛い!」


 シロが悪質な冗談を口ずさもうとしていたので、強めに頭をはたいてやった。クビという単語が聞こえなかったらしく、ルネはきょとんとした顔をしている。うん、それで良し!


「まだ明るいし、これからデー……、じゃなかった。買い物に行こうぜ!」


「? はい」


 うっかりデートに行こうと言いそうになってしまった。ルネには通じていなかったみたいで、大きな瞳をパチクリさせていたが、シロの顔がにやついているのが目に入った。


 ちょっとイラッとしたが、まあ、いいや。ルネのことは、いずれ落とすつもりだし、気を取り直して、街に繰り出そう。


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