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第三十四話 元は勇者の仲間、今は幼女、そんな子が三人いるらしい

 おかっぱ頭に連行されていった筈のシロは、自力で俺の部屋に逃げ込んでいた。全身を包帯で巻いていたので、大怪我を負ったのかと思ったら、話している内に、そんなたいしたダメージは受けていないことを知った。


 シロは語る。あのおかっぱ頭の幼女が、呪いをかけられているとはいえ、元は勇者の仲間だったということを。


 シロの存在からして、何でもアリなところがあるので、その話も嘘ではあるまい。だが、勇者の仲間というのは……。


「勇者の仲間? あれが?」


「うん!」


 俺たちの前で、平然と電撃をぶっ放す辺り、俺のイメージしている勇者の一団とはかけ離れたものがあった。


「……お前の話を信じない訳じゃないけどさ。世界を救うご一行の一人には見えなかったぜ。まあ、実力は認めるがね」


 あれじゃ、勇者というより、ならず者だ。訝しる俺を説き伏せるように、シロが優しくたしなめてきた。


「お兄ちゃん……。仮にも武力で世界を征服しようとしている魔王様に喧嘩を売ろうとしているんだよ? そんな連中に、まず求められるのは、何だと思う?」


「え?」


「生まれの良さ? 品行方正な性格? 違うよね。まず求められるのは、実力でしょ!」


「実力があれば、魔王から世界を救う勇者になれるっていうのか?」


 ボソリと口にした疑問に、シロが当然といった顔で、首を縦に振る。理屈は間違っていないが、どうも味気ない。それは違うんじゃないかと反論したくなってしまう。


「だいたい呪いをかけているのなら、どうしてその時に、力を封じておかないんだよ。姿が幼女になっても、力がそのままだったら、反撃されるだろうが!」


「あ……!」


 俺からツッコまれて、ようやく気付いたというような声を出した。いや、この反応は……、マジなのか?


「テヘペロッ!」


 可愛くおどけても無駄だ。力を封じるのを忘れていやがったな。魔王の一味って、力はあるが、俺が思っているよりアホばかりなのかもしれないな。言い方を変えるなら、詰めが甘い!


「コホン! そんなことは今ツッコむことじゃないんだよ!」


 あ、自分に対して、不利な話題だから、強引に話をすり替えようとしている。このまま追及するのも面白いが、へそを曲げられて、話を打ち切られても困るからな。素直に話題変更を受け入れてやろう。


「で? あのおかっぱ頭は、これからも乱入してくる可能性があるのか? また賞金が灰になるのは勘弁だぞ?」


「これだけ派手に動いた後だからね。しばらくは大人しくなると思うけど、保証は出来ないかな。だから、しばらくは、怪我を負うことになっても構わないっていう希望者だけの参加になりそうだよ」


「欲にまみれた連中ばかりだからな。誰も欠席することなく、全員参加だろうよ」


 身の安全より、金を優先する当たり、それでいいのかという疑問もなくはないが、俺はとにかく金が欲しいのだ。


「私が言うのも何だけど、お兄ちゃんたちって長生き出来ないね」


「お前には言われたくない。それより……、勇者の仲間ってのは、他にもいるのか? 賞金探しに乱入されて、モンスターと間違って挑みかかって、返り討ちに遭うのはごめんだから、早めに教えてくれよ」


「む~、幼女と、モンスターを間違える訳はないけど、せっかくだし教えてあげようか」


 お代わりのコーヒーを一気飲みすると、もったいぶった咳払いをしてから話し出す。


「勇者のパーティの編成はね。男の勇者に、お供が女性三人。以上!」


「少なっ!」


 てっきり百人くらいいるかと思っていれば、それだけかよ! ていうか、説明短っ!


「ずいぶん寂しい一団だな。それで? お前ら魔王側の戦力はどれくらいなんだ?」


「ふっふっふ! 私に魔王軍のことを尋ねるなんて、いい度胸をしているね。一晩語り明かすことになるけど、いいのかい?」


「いや、それは困る。軽い気持ちで聞いてみただけだから、長くなるならいいや」


 要するに、膨大な数に上るって言いたいんだろう。シロの自慢話を延々と聞かされるのは堪えられん。俺が断ると、シロは残念そうにしていた。


しかし、たった四人で、そんな魔王軍に喧嘩を売った勇者たち。勇気というより、暴挙だな。その怖いもの知らずの神経は、ある意味で尊敬に値する。


 腕を組んで、考え込む俺を見て、シロがにやついた。その顔は、俺をからかおうとしているな。


「今日私を襲ってきた子だけどね。今は幼女の姿をしているけど、本来の姿は、かなり巨乳なんだよ!」


「だから?」


 興味ない風を装ったが、実は心臓がドクンと反応しちゃったりしていた。


「他の二人も、スタイルが同年代の子に比べて飛び抜けていたな! 私が思うに、夜は相当楽しいことになっていたんじゃなかろうか!」


「幼女らしからぬことを口走るな」


 今日見ないふりを装いつつも、ついつい頭を、いらない想像がよぎってしまう。時間帯が深夜に差しかかっているというのも大きい。


 シロの話をまとめると、勇者は女三人をはべらせて、ハーレムな旅路をエンジョイしていた訳だ。それで魔王に挑んで、返り討ちに遭いましたと。この話だけ聞いていると、勇者ざまあと思ってしまうな。俺って、心が狭い。


「あ、そうだ! 良いことを思いついた。勇者以外の女性三人を、お兄ちゃんの色気でメロメロにしちゃうっていうのはどうかな? そして、ハーレムメンバー……じゃなかった。仲間が全員寝返って、孤立した勇者を、私たちが再度叩くの!」


「それは素敵な作戦だな」


 自分につき従ってくれた三人が自分の元からいなくなれば、勇者は精神的にもかなりのダメージを負うことになる。場合によっては、二度と立ち直れないかもしれない。


 だが、その作戦には、致命的な難点があるのを、シロは分かっていない。


「もしもその作戦が現実になったら、ルネを含めて、四人の女性と同居出来ることになる訳だ。彼女がいない時間の方が多かった俺にとっては、夢みたいなことだが、残念なお知らせがある。この部屋に、そんなに女性を収納する余裕はないということだ」


 自分で言うのも悲しいものがあるが、避けようのない事実なのだ。本来一人で住むことが前提になっている部屋なので、ルネを住まわせた時点で、かなりスペース的に余裕がなくなっているのだ。これ以上の増員など考えられない。


 だが、シロは、俺がそう言うのをあらかじめ読んでいたかのように、次の言葉を紡いだ。


「なんなら、私から口添えしてあげようか? 例の富豪さんに。哀れなお兄ちゃんに、もっと広い住処をお与えくださいって」


 シロが俺の反応を探るような目を向けてくる。


「富豪って……、ルネを買おうとしていたやつのことか?」


 ベッドで寝ているルネが、不快そうな声を出して、寝返りを打った。俺たちの会話を聞いている訳はないのだが、拒否反応を示されたような気になってしまう。


「そう! その富豪さんだよ。お兄ちゃんは知らないかもしれないけどさ。結構富豪さんに気に入られているんだよ? 自分の女に手を出した勇気のある男としてね……」


「そうですか……」


 あまり喜んでいいことじゃない気がするな。感心されている一方で、睨まれている気がしなくもない。なるべくなら、魔王と同じくらいに、その富豪とも、あまり関わり合いになってはいけない気がする。自分の動物的本能が危険を知らせているのだ。だが、実際は自分の意思に反して、どんどんはまり込んでしまっている。その内、抜け出ることが出来なくなる気がして怖い。


「どうする? 上手くいけば、美女に囲まれて、豪勢な生活が出来るかもしれないよ!」


 これまた分かりやすい揺さぶりだな。俺が金と女に弱いことを知った上で、確信を持って攻めてきているとみて間違いない。


 本音を言うと、シロの話にはかなり興味を惹かれるものはあった。成功すれば、一生縁がないと思っていたハーレムが、俺のものになる……。面倒な勇者たちを叩くために、シロもバックアップをしっかりしてくれるだろう。


 だが、おかっぱ頭の電撃を思い出せ。失敗した場合、あれで丸焼きにされるんだぞ。せっかくルネという可愛い同居人がいるのだ。欲張るのは止めて、堅実に生きるべきだという心の声も響いてくる。


 一体、俺はこの話を受けた方が良いんだろうか。無難に断った方が良いんだろうか。シロの前ということも忘れて、いつしか本気で悩むようになっていた。


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