第三十三話 第二の幼女の正体と、連れ去られたシロの行方
いつも通り、楽しくも壮絶な賞金探しを繰り広げていたら、ハプニングが発生した。
シロとは別の、おかっぱ頭の幼女から襲撃を受けることになってしまったのだ。彼女の素性は不明だが、異能の力を持っていることから、異世界から来た子なんだろうと推測出来る。彼女の狙いは、シロのようで、俺たちを無視して彼女の方を攻撃してきたが、俺たちも強力な力のとばっちりをしっかり被る結果になってしまった。
壮絶な喧嘩の末に、シロが敗れて、拉致同然で連れて行かれてしまったのだ。置いて行かれた俺たちは、仕方なく自力で帰り道を探すことになってしまった。
シロが攫われた上に、賞金まで燃えてしまい、意気消沈でするも、どうにか帰還に成功すると、力なく座り込んでしまった。
「やれやれ。シロちゃんが攫われた時はどうなるかと思ったけど、こっちの世界に戻ってくることには成功したわね」
「探してみたら、こっちに戻ってくる魔方陣を見つけることが出来たからな。一時は、あの屋敷に缶詰めにされるかと思って、冷や冷やしたよ」
未練がましく拾ってきた福沢諭吉の残骸を、泣きそうな顔で見ながら、藤乃が呟く。
「これ……、銀行に持って行っても、別のお札と交換はしてくれないわよね。は~、本当にくたびれ損の骨折り儲けだわ」
「お前はまだ身軽だから良いだろ……。人間を二人担いでいる俺の身にもなれっていうんだ……」
異世界に置きっ放しという訳にもいかないので担いできたのが、せめて同じ重さの金だったら、テンションも上がるんだがね。
「はあ……、風邪をおしてまで参戦したっていうのに、こんなことになるなんて、本当に気分がブルーだわ」
そういえば、こいつ、風邪をひいていたんだっけな。賞金のことで頭がいっぱいで、すっかり忘れていた。というか、俺も風邪をひいていたんだっけ。いつの間にか治っていたので、こっちも忘れていた。
風邪をひいている時は、あんなに早く治ってほしいと思っていたのに、いざ治ってしまうと、もう少し長引けば明日の仕事も休めたのにと残念がってしまう。複雑なものだな。
「明日以降はどうなるのかしらね。頼むから、中止というのは勘弁してほしいわ」
「シロの頑張り次第だな」
体勢はシロにだいぶ不利だったが、加勢しようにも、俺たちじゃ戦力にならない。だが、俺とルネの幸せな未来のためにも、是非とも頑張ってもらわないと。
ん? だが、あいつがこのまま戻ってこなければ、一億円の支払い義務も発生しなかったりするのか? ……あ、駄目だ。黒い感情が湧き上がってくる。シロに悪いから、頭を振って打ち消さないと。
「間宮と城ケ崎はここに置いていこう。ここまでくれば、目を覚ませば、あとは自分でどうにか出来るさ」
「でしょうね。死んだ訳じゃないし、ガスの効果もじきに切れて目を覚ますわよ。その時の反応を見てみたい気もするけどね」
「悪趣味だな」
間宮と城ケ崎を部屋に残していくのも気が引けたが、こいつらを担いでいくのは、骨が折れそうなので勘弁させてもらおう。それに、同居人に顔の落書きのことを聞かれても、返答に困ってしまう。幼女が勝手にやったと言っても、信じてもらえなさそうだしな。
「帰って寝るか……」
「お互い仕事が控えている身ですものね」
嫌なことを思い出させるなよ。テンションがさらに下がるだろうが。
「ただいま……」
帰りの挨拶を呟きながらドアを開けたが、返事が来ることは期待していない。同居人のルネは、ベッドでおねんねしている筈だからな。ルネを起こさないように、物音に注意して、部屋へと入る。
寝静まった部屋は、やはり静かだな。物音一つしない。……筈だった。テレビの音が聞こえてくるまで、そう思いたかった。
「何をしているんだ、お前は?」
「痛いよ……、お兄ちゃん……」
「……みたいだな」
全身包帯姿のシロが、ソファに寝転がって、テレビを見ていた。見た目はかなり痛々しいのだが、おかっぱの幼女に拉致られてからのわずかな間に何があったのかが、気になってしまうな。とりあえずテレビを楽しむ余裕があるのなら、命に別状はないとみて良さそうだな。
「……このテレビ番組、つまらないな」
発掘されたばかりのミイラみたいな姿のくせに、テレビ番組に難癖をつけて、チャンネルを変えている。もっと別のことを気にした方が良いと思ったのだが、どことなく気晴らしをしているようにも思えたので、やりたいようにやらせることにした。
ベッドを見ると、ルネが安らかそうな寝顔で、時々寝返りを打っている。
夕食はしっかり食べたのだが、その後に運動したことで、小腹が空いてしまった。昼間に買いこんだベーコンとチーズが冷蔵庫にあった筈だ。どっちを食べようか考えた末に、まずベーコンを食べることにした。飲み物は熱いコーヒーで良いだろ。冷蔵庫から取り出す際に、シロにも食べるか聞いてみたら、機嫌よく即答してきた。どうやら見た目ほど、怪我を負っていない様だな。
ベーコンとコーヒーで腹が落ち着いたところで、本題に入ることにした。
「なあ、お前がこんな状態の時に聞くことじゃないんだが、あのおかっぱ頭は何者なんだ? 仲間には見えなかったが」
「あいつね……」
テレビ画面を凝視したままで、不愉快そうにシロが呟く。
「あいつは、私たちが全滅させた勇者の仲間だよ。呪いの力で、今は幼女の姿にさせられているけどね!」
「……ずいぶんと一部の特殊性癖の人に好評そうな呪いがあるんだな」
「勇者の仲間には、精神的に幼いやつもいたからね。そういう人たちには大好評だよ!」
お前が言うなと思ったが、敢えて口にはせずに、会話を続行する。
「お前の話をまとめると、昔しばいた勇者の仲間に、今晩襲われて、やられそうになった。そういうことで間違いないか?」
やられそうになったことを指摘すると、シロは一瞬だけ不機嫌そうに顔をしかめたが、すぐに取り繕って、愛らしい笑顔を浮かべた。おまけにガッツポーズまで見せてくれた。負けたのが悔しいのなら、正直に言ってくれて構わないんだがね。
俺が言いたいのは、お前が報復されるのは良いんだがね、賞金探しはどうなるんだよということだ。一度倒した上に、呪いまでかけているのだ。魔王が敗北するとは思えないが、賞金探しが中止になるのだけは勘弁だ。そうなると、俺は一億円の負債を抱えたまま、給料から返済していくしかなくなる。
ただでさえ一億円を稼がなければいけなくて、結構余裕がないのに、妙な乱入者まで出てきてしまった。あのおかっぱにしてみれば、世界を救うために、魔王一派に一矢報いたいのだろうが、俺がルネを救うまでちょっとの間で良いから待ってほしい。




