第三十二話 二人の幼女と、彼女たちの喧嘩に巻き込まれてしまった俺たち
今回は、「!」や「?」が、いつもより多めです。
賞金をめぐって、シロが率いる狐軍団とバトルを繰り広げているところに、謎のおかっぱ頭の幼女が乱入してきた。彼女は、電撃を発生させると、俺たちを苦戦させていた狐たちを、あっという間に瞬殺してしまった。
いきなりの展開に、唖然とする俺と藤乃の横で、シロとおかっぱ頭。二人の幼女の間で火花が散った。完全に臨戦態勢だ。
「よくも私の可愛い狐さん達を灰にしてくれたね」
自慢のモンスターたちを灰にされたシロは、目を大きく見開いて絶叫した。そして、電撃を放った幼女を、キッと睨んだ。
「私を怒らせると、どうなるか分かってんの!?」
「知らない。それに。お前、たいしたことないから、大丈夫」
「キイ~~!!」
同じ幼女に馬鹿にされたことが悔しかったのか、自分よりも数倍の大きさを誇る鎌を出現させると、大きな動きで振り回しながら、突進していった。
鎌を振り回すって、首でも刈るつもりなのか? 幼女が鎌をぶんぶん振り回すというのも、なかなかホラーな光景だが、まずいだろ。だって、相手は電撃を使ってくるんだぜ? どう見たって、不利だろ。シロのやつ、頭に血が昇って、見境がなくなっているんじゃないのか? ほら、こんなことを思っている間に、電撃によって返り討ちに遭ってしまったよ。
「ぷぎゃあ!!」
可愛い悲鳴を上げて、後ろに吹き飛ばされてしまった。俺の予想通り、まるで相手になっていない。
「シロ!!」
彼女のことが心配な訳ではないが、思わず叫んでしまう。咄嗟に声が出てしまったのだ。だが、シロは俺のことを顧みることなく、笑い出した。
「ふ、ふっふっふ……! やっちゃったね。私を本気にさせちゃったね!」
セリフだけ聞いていると、これから怒涛の逆転劇が待っていそうだが、声が震えている。しかも、涙目だし、思い切り追い込まれている。
おかっぱ頭が何者なのかは分からないが、とりあえず逃げた方が良いんじゃないのか。藤乃にも相談しようとすると、彼女は既にこの結論に至っていたらしく、俺をじっと見つめていた。こいつ……、いざとなったら、俺を盾にするつもりか……。
藤乃との間に微妙な空気が流れる中、シロが自分の体を中心にして、炎を発生させた。というか、部屋中に炎を発生させた。シロの意のままに動くらしく、おかっぱ頭を時折けん制している。これで、電撃に対抗するつもりなのだろうか。
「もう許さないんだから! これで黒焦げにしてあげる!!」
「ちょっとタンマ! 俺たちはどうなるんだ?」
「そうよ! 私を焼いても美味しくないわよ!」
思い留まるように叫ぶが、頭に血が上ったシロは止まらない。おかっぱ頭に向かって、思い切り炎を向けた。部屋のあちこちで、寝殿造りの屋敷が燃えて、パチッと爆ぜる音が聞こえてくる。熱い……!
それに対抗して、おかっぱ頭も、さっきより強力な電撃を呼び出して、向かってくる炎をめがけてぶつけた。
「うおおおおお!」
「キャアアアア!!」
二つの巨大な力がぶつかり、俺たちの悲鳴と共に、爆発が発生した。木製の屋敷は、見るも無残に崩れていく。さっきまでのほのぼのとした賞金探しの空気は、もう残っていなかった。
とにかく爆発に巻き込まれないように、体を丸くして、衝撃に備えるしかなかった。
「あいたたた……」
「た、助かったの? 私たち」
爆発から少し経ってから、俺と藤乃は体を起こした。さっきの爆発で天井に穴が開いたのか、空に浮かぶ月が見えていた。
崩れ落ちてきた天井にぶつけたせいで、体のあちこちが痛むが、命に別状はないみたいだな。
辺りを見回すと、シロがぐったりと倒れていた。どうやらおかっぱ頭との勝負に、敗れてしまったらしい。気を失っているのか、ピクリとも動かない。
シロとは対照的に、ピンピンしているおかっぱ頭が、軽快な足取りでシロへと歩み寄っていくと、彼女の足を掴んだ。そして、そのままズルズルと引きずっていく。
「お、おい……! そいつをどうする気だ?」
おかっぱ頭が何者かは分からない。敵なのかもしれないので、声をかけるのも怖かったが、このまま蚊帳の外にされてたまるかと、なけなしの勇気を振り絞って尋ねた。
「こいつは回収していく。お騒がせした」
おかっぱ頭は、俺に興味のなさそうな顔で淡々と答えた。たどたどしい言葉だが、口答えは許さないという迫力を含んでいた。
「ちょっと待ってよ。回収するって、今夜の賞金はどうなるのよ!」
この期に及んで、まだ賞金の心配をしている藤乃には、少し呆れた。今は身の安全を確保する方が先だろう。だが、おかっぱ頭は、気分を害した訳でもなく、やはり淡々と答えた。
「回収すればいい。そこに落ちているから。あんな紙切れに、何の価値があるのかは、分からないけど」
適当な回答だな。だが、回収していいというなら、そうさせてもらうだけだ。多少の問題は発生していたがね。
今まで気が付かなかったのだが、三十二枚の福沢諭吉が燃えていた。さっきの爆発で、引火してしまっていたのだ。
「あああああ!!!?」
「いやあああ!!!!」
大事な金が燃えていることに、藤乃と一緒に悲鳴を上げて、消火に走った。だが、陽の勢いは強く、鎮火する頃には、紙の切れ端がほんの少し残るだけになってしまっていた。
「ああ……、一か月分の給料が……」
「もう少しだったのに……」
あれだけ醜く争って、こんな結末かよ。涙目で、振り返ると、もうおかっぱ頭の幼女は、どこかに消えていた。
「あの子、行っちゃったな」
「シロちゃんも連れていっちゃったしね。くそ! シロちゃんさえいれば、お金を元に戻してもらえたかもしれないのに……!」
藤乃が怒りに任せて、近くにあった柱の燃え残りを蹴った。崩れる寸前だったのか、藤乃に向かって柱が倒れてきて、さらに散々な目に遭うことになってしまった。
結局、シロも別の幼女に拉致されていってしまったし、今夜の賞金探しは失敗ということなのか!?




