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第三十話 漫画って、暇つぶしにもなるし、下手な教科書より良いと思うんだよね

 城ケ崎からメールで共闘の申し入れが提案されたので、素直に受けることにした。もちろん本気で組む気などない。最初から裏切るつもりだ。


 狙いは、城ケ崎が所持している今夜の賞金。それを騙し取ってから、隠れさせておいたシロに渡して、賞金探しは俺の勝ちというのが、理想のパターンだ。


 汚いことは、百も承知だ。だが、それでも勝ちを優先させてもらう。とにかく金が欲しかった。


「いいか? 俺が先行するから、お前は後から隠れながらついてくるんだぞ?」


 作戦の成否を左右するシロに念を入れる。返事はないが、首を縦に振るので、分かってくれてはいるみたいだ。


「作戦が上手くいって、賞金が手に入ったら、お前の好きなイチゴのパフェを好きなだけ食わしてやるから」


 この寒い季節に、無尽蔵にパフェを頬張る姿は、こっちには心臓に悪い光景だが、これで賞金探しが有利に進むのなら、安いものだ。


 早速、城ケ崎の元へと向かって、意気揚々と出発する。だが、そこで違和感に気付いた。


「あれ? 開けっ放しにしていた筈のふすまが閉まっているぞ?」


 それも、一つだけではなく、全て閉まっているのだ。おかしいな。さっき閉めたばかりのものまで閉まっている。というか、いつ閉まったんだ? それよりも不気味なのは、閉まった音がしなかったことだ。俺なりに、意識は集中していたのだ。ふすまの閉まる音に気付かないなんてことはない筈なのだ。


「これもお前の仕組んだ罠なのか?」


 シロに問いかけてみたが、やはり無言。だが、他に心当たりがない。こうして黙っているのを、俺が不思議に思っている内に、誰かに閉めさせたんだろうか。悪いが、この程度で、ビビると思ったら、大間違いだ。ふすまをもう一度開けたら、別の場所に出ちゃいましたっていうのなら、ビビるがね。


 だが、開けた先で罠が仕掛けられている可能性は否定出来ないので、開ける時は慎重に行うようにした。


「む!」


 しばらく何もない部屋が続いたが、何枚目かのふすまを開けたところで、部屋の真ん中で漫画を読んでいる狐と遭遇した。さっきの狐と同じやつだろうか。漫画を見ると、今度は、死神が縦横無尽に暴れまわるバトル漫画に変わっていた。十二単とのバランスが全く合っていない。


「漫画ばかり読んでいないで、少しは勉強しろよ」


 相手が反応してこないことを良いことに、無神経な軽口を叩いてやった。こいつが俺たちに対して無関心なことは、もう知っている。さっきまでは警戒していたが、もう見つけても、何の興味も湧かない。


 そのまま素通りして、反対側のふすまへと手をかける。ひょっとして、ただふすまを閉めただけなのかと、鼻で笑う。


「いてっ!?」


 そこで、いきなり後頭部を殴られた。頭をさすりながら振り返ると、狐が漫画本の角で、俺を攻撃してきていた。文句を言ってやろうとすると、もう一回殴ろうと漫画を振り上げてきたので、後ろに飛びのく。


 この狐……、と怒りの声をあげようとしたが、ある予感が頭をよぎった。格好こそ狐なのだが、動きが誰かさんに似ていた。


「お前、シロか……?」


 試しにぼそりと呟いてみると、狐はビクリと身を震わせた。怪しい……。


 ということは、俺が今手をつないでいるシロは……。


 シロを見ると、いつの間にか狐に変わっていた。目を丸くしながら、今度は襲ってきた狐を見ると、シロの姿になっていた。


「渾身の変装を、よくぞ見抜いたね。さすがお兄ちゃん!」


「違和感がかなりあったぞ。それで渾身とはよく言ったものだな」


「でも、お兄ちゃんは騙されていたよね。私だと気付かずに、少しは勉強しろよだって!」


「ぐ……!」


 俺の失言をしっかり聞いていやがったか。おそらく笑いを必死にこらえながら、後ろを狙っていたに違いない。そう思うと、ひどく恥ずかしい思いがした。


「なるほど。俺を化かすために、姿を変えていたのか」


「正解! お兄ちゃんは察しが良いねえ!」


「狐には自分に化けさせておいて、自分は狐に化けるか……。ずいぶん面倒くさいことを考えついたもんだな」


「チェンジだよ、お兄ちゃん!」


 だから、それに何の意味があるんだ? 賞金の獲得が、遅れるだけにしか思えないんだがね。


「こんなことをしないで、ひたすら隠れるのに専念した方が良かったんじゃないのか?」


「だって~! お兄ちゃんをからかうの、楽しいんだもん!」


 理由はそれだけか。効率より、俺をからかうのを優先させている辺り、頭の中は外見相応のようだ。だが、それに引っかかってしまった以上、あまり馬鹿にも出来ない。


「む! お兄ちゃんと遊んでいる間に、他の人も来たようだね!」


「遊ぶって……」


 真面目に行動していたのを、遊びで片付けられるとはね。真剣に行動していただけに悲しい。


「確かにドタバタと音がするな。未だに賞金の奪い合いに熱中しているようだな」


 あの喧騒の中に割って入るのは、骨が折れそうだ。


「さ~て。争いを制して、私に賞金を届けてくれるのは、一体誰かな~?」


「お前、絶対に楽しんでいるだろ……」


 案外、魔王よりも、こいつが楽しんでいるのかもしれない。そう思っていると、シロの顔が豹変した。笑顔ではあるが、邪悪なものだった。


「でも、そう簡単にはいかせないよ……」


 何をする気だと聞くよりも先に、四方のふすまが一斉に開いた。そして、十体の狐がどかどかと侵入してきた。


「こいつら、こんなにいたのか」


「そう! 屋敷のあちこちで待機してもらっていたの。それを、今一か所に集めた訳さ」


 集めて一体何をする気なのか、悪寒が止まらない。そう思っている内に、城ケ崎たちが、勢いよくふすまを開けて、室内になだれ込んできた。


「あっ! シロちゃん。やっと見つけた。ついでに宇喜多さんも!」


「ていうか、この狐軍団は何っすか?」


 俺はついでかよ……。


 気分を悪くするが、俺のことなど興味なしで、矢継ぎ早にシロへと質問が集中する。シロは、それに答えることなく、強引に話を進めようとしていた。まるで、話すまでもなく、これから分かると言っているかのように。


「じゃっ! 本日のメインイベントを始めますか!」


 シロは控えている狐軍団に目配せをすると、指示を待っていた連中は一斉に動き出したのだった。


投稿する時間が、また遅くなってきてしまった……。

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