表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/201

第二十四話 答えは身近なところにあるものなんだよ

 妙にリアルな夢の世界で、『黒いやつ』に再び襲われることになってしまった。恨みを持たれるようなことはしていない筈なんだかね。向こうは俺に危害を加えたくて仕方がないらしい。


 川まで引きずってこられたかと思うと、そのまま水中に押し付けられてしまった。息継ぎのために、顔を出すのも許してくれない。


 夢の中なのに、どんどん苦しくなって、このままじゃ死ぬというところで、意識がプツリと途絶えてしまった。


「ご主人様……?」


 誰かが俺を呼ぶ声が聞こえる。あと、温かい。さっきまでいた水の中とは、正反対の温もりを感じる。


「え……。ルネ……?」


 ルネが、俺を心配そうに覗き込んでいた。ここは俺の部屋で、さっきまで俺を掴んでいた『黒いやつ』の姿は見えない。


 戻ってきたのか。また唐突だな。


 何であんな夢を連続で見るのかと寝返りを打つと、全身が痛む。前回と同じだ。夢の中で痛めたのと、同じ傷を負っている。叩きつけられたところがズキズキと痛んだ。


 水中で息が出来なかった苦しみが甦ってきて、つい咳き込んでしまった。ルネが心配そうに顔を近付けてきたので、問題ないと強がる。本当は、体中が痛んで、全然大丈夫じゃないのにね。


「ご主人様! 体のあちこちに、痣が出来ているじゃないですか!」


「う……!」


 見つけられてしまったか。ルネには心配をかけたくなかったから、隠しておきたかったんがな。


 この痣は寝相が悪かっただけで、心配する必要はないと口にしたところで、喉も痛くなっていることに気付いた。いや、それどころか声も変だ。頭もぼんやりして、鼻水まで……。これは風邪だな。


「全身は痛むし、風邪まで引くし、本当に何なんだよ。昨日寝るまでは、あんなに幸せだったのに……」


 一睡しただけで、ここまで状況が悪化するものなのかと、情けない声が漏れてしまう。とりあえず今日は仕事を休まなければいけないな。


「ごめんなさい……!」


「いや、ルネのせいじゃないから、謝らなくていいよ」


 自分が一緒に寝たせいで、俺が体調不良になってしまったとでも思っているのだろうか。気遣いは嬉しいが、自分と関係のないことでまで謝るのは、感心しないな。


 ティッシュを一枚とって、鼻をかむと、ルネの横から、無神経な笑い声が聞こえてきた。俺を心配するルネと、見事なまでに対照的だ。


「アハハハ! 寝起きと痣と風邪でひどい顔!!」


 人が散々な目に遭ったというのに、神経を逆なでするような笑いだな。この声は、シロ……!


「よう……、来ていたのか」


「お兄ちゃん、おはよう!」


 ちょうど良かった。シロには問いただしたいことがあったのだ。向こうからやってきて、待機していたのはありがたい。


 俺の体調が芳しくないのを気にしたルネが、お粥を作るためにキッチンへと歩いて行ったのを見計らって、シロと話すことにした。


「なあ……、お前に聞きたいことがあるんだが……」


「うん?」


 神妙な顔で話し始める俺を、きょとんとした顔で見つめてくるシロ。もし、とぼけているんだとしたら、相当のペテン師だな。


「ふ~ん。やけにボロボロだと思っていたら、そんなことになっていたんだ」


 夢の話を聞き終えると、わずかばかり表情を引き締めた。どうやら何も知らない訳ではない様だな。


「単刀直入に聞くぞ。お前が仕組んだことなのか?」


 不躾なことを聞いていると自覚はあったが、こいつが犯人に決まっていると思ったので、はっきりと聞かせてもらった。


「う~ん。私は関与していないけど、無関係って訳でもないんだよね」


「何だ、そりゃ。回答になっていないぞ。関係があるのかないのかハッキリしろよ」


 要点をぼかされているように聞こえたので、つい語調が荒くなってしまう。シロは、それも楽しんでいるようで、さらに曖昧なことを言ってきた。


「言葉の通りだよ。それに、もっと関係がある人間なら、他にもいるよ」


「何?」


「思い返してみて。妙な夢を見るようになった前後で、お兄ちゃんの周りで変化したことはないかな?」


「変化したこと?」


 また回りくどいことを言ってくるものだ。そんなことをしないで、さっさと明確な言葉を聞かせてほしいのに。だが、何かを知っているのは間違いないな。


「……ないな」


 頭を捻って考えてみたが、心当たりはなかった。だが、その答えは、シロをひどくガッカリさせてしまったようだ。


「やれやれ。もう答えを言っているようなものなのに、それで分からないなんてね。お兄ちゃんって、結構鈍くさいんだね」


「な、何だと!?」


 失礼なことを言われてしまい、思わずムキになって、声を荒げてしまった。


「まあまあ、そんなに怒らずに。私が仕返しをしてやると言ったのは事実だけど、ちゃんと今夜の賞金探しで仕掛けるから」


 今夜の賞金探しでやり返してくると、予告してきやがった。それはそれで、嫌な予感がするんだよな。


 結局、あやふやに流されただけじゃないか。シロの説明じゃ、全然意味不明だ。もう一度聞き返そうとしていると、ルネがお粥を持って戻ってきた。


「ご主人様、お粥が出来ました」


 キッチンに行ってから、そんなに時間が経っていないのに、もう完成とは。相変わらずルネは、仕事が早い。


「おっと! ルネちゃんが戻ってきちゃいましたか。それなら、今の話も、いったん終了だね。二人きりの時に続きを話そう」


「え?」


 ルネが来た途端、一方的に話を切りやがった。彼女が同席していたって構わないだろう。続きを促すが、シロは頭を横に振って聞かない。本当に、何なんだよ。


「あの……。お粥が冷めてしまいますので、お早めにお召し上がりください」


「ああ」


 本当はお粥どころではないのだが、会話が続かないのなら仕方がない。今は、これを食べて、安静にするか。


 ルネの作ったお粥は、梅干しも添えられていて、よだれと食欲を誘発させてくれた。美味しそうだな。それじゃ、早速いただきますか!


「という訳で、いただきます!」


「えっ?」


「お、おい……!」


 俺の手に渡る筈だったお粥を、何故かシロが受け取った。そして、遠慮することもなく、口に流し込み始めた。


「なっ、何をしやがる! それは俺のお粥だぞ!」


「へっへ~ん! 早い者勝ちですよ~だ!」


 お粥で声を荒げるのはいかがなものかと思ったが、シロにはいろいろとフラストレーションがたまっていたので、つい爆発させてしまった。


「ふ~! 美味しかった~!」


「こ、の……、食いしん坊が!」


 ほぼ一気飲みでお粥は、シロの胃袋へと消えていってしまった。唖然とする俺に、ルネが新しいお粥を作ってくると言って、またキッチンに向かってしまった。俺は横取りされたことを根に持って、シロをずっと睨んだ。


「ルネちゃんは、全身全霊でお兄ちゃんに尽くしているね。そして、お兄ちゃんもルネちゃんのことを気に入っている。二人の関係は良好といえるね!」


「お前に言われることじゃない」


 朝っぱらから恥ずかしくなるようなことを言うな。ただでさえ、調子が悪いのに、よりいっそうおかしくなるじゃないか。


「こうなると、ますます夢のことは話しにくくなるな」


「は!? あの夢と、どんな関係があるんだよ。完全に別物だろ!」


 シロの説明は本当に分からない。自分で勝手に納得しているようなところがイラつく。


「そんなにカリカリしなくても、いずれ分かるよ。ま、分かったところで、手を打とうとは思わないだろうけどね。お兄ちゃん、女性のためなら、火の中にでも喜んで突っ込んでいきそうなタイプだもんね♪」


「勝手に話を締めくくらないでくれる? ちゃんと説明してくれるまで、しつこく聞き続けるよ?」


 眉間に浮かぶ青筋が顕著になってきた。本格的に起こりそうになっていると、困った顔でルネが戻ってきた。


「あの……、すいません……。もう、お米が……」


「……残り少なかったからな」


 さっきのお粥で、米が尽きてしまったらしい。体調は悪いが、買ってこないとな。


「あらら。ちゃんと買い置きをしておかないと、駄目なんだよ!」


「全部お前のせいだろ。いい加減に出ていけ……」


 他人事みたいに言われたので、厳しめにツッコんでやった。


「なくなった物は仕方がない。病院の帰りにでも買ってこようか」


「そんな……! 買い出しには、私が行ってきます。ご主人様は、家でゆっくりと休まれてください」


 そうしたいのは山々だがね。薬の買い置きも切らしちゃっているんだよ。シロも行ってくると言っていたが、何を買ってくるかが知れたものではないため、冷たく断ってやった。


 ただ俺一人だと荷物を持つのがしんどそうだ。もう一人いた方が心強いか。


「そういえば、ルネはまだ外に出たことがないよな。これを機に、外出してみるか」


 試しに言ってみると、喜びで顔をいっぱいにして、嬉しがった。犬なら、しっぽが振り切れんばかりに振っているところだろう。ルネは、外の世界に、興味津々な様子だ。そんなに見て面白いようなものがないのが、何か申し訳ない。


 ルネからお礼を言われる横で、シロが面白くなさそうに、頬を膨らませていた。


「ぶ~! 私だけ置いてけぼりにする気だね。いいよ! そっちがその気なら、私だって意地になってついていくんだもん!」


 え? そんなに外に行きたいの? お前なら、一人でも出歩けるから、勝手に行けばいいじゃん!


 くそ……! シロを本気にさせてしまった。こいつに付いてこられると、トラブルの匂いしかないっていうのに。


 しかし、本人はすっかり行くつもりのようで、もはや何を言っても、聞く耳は持たないだろう。


 やれやれ。早くも、トラブルを抱えた気分だ。え~と……、保険証はどこにやったっけ。いや、それよりも、会社に欠勤する旨を連絡しないと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ