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第二十話 引き際の悪いやつと、見た目のグロいやつは、好かれない

 賞金探しが行き詰まりつつあったので、状況を打破するためにシロへお願いしてみたら、案外あっさりと通ってしまった。部屋のどこかにスイッチを出現させたので、それを押せば、かなり楽になるという。案外、言ってみるものだ。


 幸いスイッチはすぐに見つかった。俺たちに見つからないように、たんすの引き出しの中に隠してあったが、所詮急ごしらえで作った代物。落ち着いて丹念に探せば、何ということはない。


「も、もう見つけちゃったの……?」


 あまりにもあっさり見つかってしまい、困ったという顔をしている。どうやら見つけてほしくなかったみたいだな。俺たちが汗を流して魚を叩きまくっている中、涼しい顔で寛いでいることに、内心でかなりムカついていたので、密かにほくそ笑んでしまった。


 早速押してみると、プールの水が面白いくらいに抜けていった。水はどこに行ったのかという根本的な問題は置いておいて、賞金探しが格段に楽になったのは事実だ。


「水がなくなって気付いたんですが、たいした深さじゃないですね」


 城ケ崎が怪訝な顔でつぶやいた。無理もない。市民プールくらいの深さしかないのだから。


「そんな筈はない。俺が潜った時は、もっと深かったぞ?」


「それは……、シロちゃんの力で、深くなったり浅くなったりしているんじゃないすか? その程度なら、簡単に出来ると思いますよ」


 確かにシロならやりそうだ。さっきから全然俺と顔を合わせようとしてこないし。俺をからかって楽しんでいたんだろう。とことん性格の悪いやつだ。


 さっきまで水中だった部分にいる魚は、思ったほど多くはなかった。嬉しかったのは、俺に噛みついてきたピラニアっぽい魚の姿が確認出来なかったことだ。どうやら全員で特攻を仕掛けて、全滅したらしいな。


「今、残っているのを見ると、お世辞にも食欲をそそられないやつらばかりですね。空中を泳いでいる魚だったら、慣れてくれば食べられそうでしたけどね」


「だが、こっちの方が異世界っぽいな。前の魚は、こっちの世界の魚の色違いという感じが拭えなかった」


「俺はそっちの方が好きっす」


 同じ異世界出身でも、こんなぐろい魚共よりも、ルネの顔の方が見たい。とっとと終わらせようと見回すと、隅っこでばたついている魚が目についた。


 白い蛇を頭の部分だけ水ヨーヨーのように膨らませている。お世辞にも可愛いとは言えない外見だ。俺たちの視線を避けているのか、隅の方に寄っているが、特異な外見のせいで、どうしても目立ってしまっている。いや、他の魚たちも、十分にユニークだが、あれは群を抜いていた。だって、真っ白の球体にオセロみたいな目が二つと、口しかないんだぜ?


 気になったことはもう一つある。シロがしきりにあの魚から興味をそらすような言動を繰り返しているのだ。さっきまでのふてぶてしいまでの余裕が消えている。当然、怪しいと思うよな。


「とりあえずあれも天秤に載せてみるか……」


「載せちゃうの? あんな怯えているのに……」


 あからさまに載せるのを嫌がっている。これで、あれが当たりだったら、シロの演技力は大根レベルなのが確定するな。ていうか、俺がひどいやつみたいに言っているが、異世界から強引に連れてきたお前に比べれば、たいしたことないから。


 シロの制止を振り切って、俺が近付くと、必死に逃げようとしているのだが、悲しいことに遅い。魚がまな板の上で、往生際悪く抵抗している姿に似ていた。きっと水中だったら、かなり速かったのだろうということだけは察した。こいつは、地上には対応出来ていないらしいね。


 水さえあれば、面倒くさいことになっていたのがこの様だ。挑発に乗って、シロは難易度を下げ過ぎてしまったらしいな。


 幼女のミスを笑いながら、ターゲットに手を伸ばそうとすると、足元が冷たいことに気付いた。これは……、水が戻っている?


 間違いない。さっきまで引いていた水が戻ってきている。魚もどきは、まさしく水を得た魚といった動きで、俺から離れていった。……なかなか速いじゃないか。


「おい……、また水が増えてきたんだが……」


 それも結構な勢いだ。あの魚もどきを守るように、不自然な戻り方をしている。これにはたまらずに、無関係を装って口笛を吹いている幼女に、抗議をさせてもらった。俺から睨まれると、隠そうともしないで開き直ってきた。


「……スイッチはね。一定の時間が経つと、元に戻っちゃうんだよ。そうすると、水かさも元通りになっちゃうの。言い忘れていたよ、ごめん」


 何て説明だ……。少しは申し訳なさそうにしやがれ。


「お前……。そのルール、絶対にたった今思いついただろ。思いつきで、ゲームの難易度を変更するんじゃねえ」


 こいつめ。自分が、都合が悪くなったからって、また俺たちを不利な状況に追い込む気だな。


「と、とにかく! また水を戻してほしかったら、もう一度スイッチを押すことだね!」


「そのスイッチですが……、さっきあったところから消えていますよ?」


「い、いつも同じ場所にあるとは限らないんだからね!」


 移動しやがったな。さっき可愛いと思ってしまったツンデレ口調も、今は甚だ憎たらしい。


「お前! どこまで大人げないんだよ! ここまできたんだったら、潔く十六万円を盗らせろ!」


「うるさい! 私を騙すお兄ちゃんたちが悪いの! ほら、早くスイッチを押さないと、どんどん遠くに行っちゃうよ?」


 まだシロに言いたいことはあったが、スイッチを見失ったら洒落にならないので、口論を中止して駆け出す。すぐにもう一度見つけたのだが、操作されているように、俺たちから逃げていく。


「あのスイッチ……。あからさまに僕たちを避けていますね。一定の距離をとって逃げています」


「どこまで姑息な真似をするんだよ」


 舌打ちしながら、逃げていくスイッチを追う。男三人が必死の形相で、深夜に室内を走り回る光景は、さぞかし笑えるものに違いない。


「魔王がどんなやつかは知らないっすけど、たぶん手を叩いて爆笑しているような気がするっす」


 だろうな。立場が逆なら、俺だって、笑いが止まらねえよ。魔王の退屈を紛らわせるという目的だけは、大成功だろうね。


「くそ……。挟み撃ちだ。俺が真正面から攻めるから、城ケ崎と間宮は反対側から回り込んでくれ!」


 単純な作戦だが、意外に成功した。俺から逃げようとしていたスイッチを、間宮が見事に掴んだのだ。


「よし! 城ケ崎はシロが妙なことをしないように見張っていてくれ。その隙に、俺が魚を捕獲する!」


「頼みましたよ!」


「ああ、任せろ……」


 間宮も城ケ崎も、俺が魚もどきを取ることに、反論してこない。あれが当たりだったら、俺が十六万円を手にすることになるというのにな。


 二人を内心で馬鹿にしつつ、さっきのプールのところまで戻ると、また水が引いている。魚もどきも底で見苦しく跳ねていた。今度は油断することなく、がっしりと掴んだ。遠くから、シロの絶叫が聞こえてきたのが、何とも爽快だった。


「さて。当たりであってくれよ。散々体を動かして、もうクタクタなんだから。早くルネともいちゃつきたいしね」


 俺の手でじたばたともがいている魚もどきに願ったが、やつは苦しそうに呻いただけだった。


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