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近況報告、そして乙

最終回です。この作品を書き始めたのが一昨年だったことを考えると、長く続いたな~という感じです。連載初期に比べて、投稿間隔が次第に空いていったのが原因ですが……。無駄にお待たせしただけな気もして、なんか申し訳ないです。まあ、愚痴ばかり延々と話すのもなんなので、とりあえず本編を。

 前回の話から一年が経過した。とりあえず無事だ。俺は生きている。それだけではいくらなんでも素っ気ないだろうから、現状について簡単に説明させてもらう。


 激しい戦い、というより一方的なリンチが続いたせいで、捨てられる寸前の雑巾よりボロボロになった俺の身体は、丁寧な治療のおかげでかろうじて快復した。心配した後遺症もなく毎日を元気に暮らすことが出来ている。治療の方だが、一般の医者に診せると根掘り葉掘り聞かれて面倒くさい展開になりそうだとの判断から、シロに頼んで異世界の医者に診てもらった。もちろん鶏頭ではないやつね。異世界はやはり医療に関しては、魔法を使える分こちらより発達していて、知っている限りのどの名医よりもスムーズに傷を治してくれたのだった。


 治療があっさり済んでくれたおかげで入院せずに済み、その日の内に元の世界に戻って来ることも出来た。余談だが、その時点でゼルガと黒太郎たちはまだ戦い続けていたらしい。むざむざボコられるために戻るような愚を冒す筈もなく、もちろん放っておくことにした。本当に戦うことが大好きな哀戦士たちだよ。


 戦いに明け暮れる馬鹿共に背を向けた俺は待ち望んだ日常に戻ることにした。ゼルガが勝手に勝負を放棄したので、自動的にゲームも俺たちの勝ちということで文句あるまい。襲われる心配のなくなった亜美もすぐに解放してやった。とはいっても、本人はずっと寝ていたので、自分がどれほど命の危険に晒されていたのかについては死ぬまで知ることはないだろうがね。とりあえず彼女を担ぎ続けた人間として、ダイエットしろとだけは言ってやりたかった。


 それからは細かいごたごたは多少あったものの、人並みの日常は取り戻せたといえる。もちろんこのこともありがたいのだが、個人的に嬉しかったのは、やはりルネが戻ってきてくれたことだ。彼女を取り戻すために、どれだけ痛い思いをしたのかと考えると、本当に涙が止まらなくなる。


 そのルネだが何事もなかったように、つつがなく日々のメイド業務をこなしている。魂が抜かれたことによるブランクや後遺症は微塵も感じさせない。今日も元気に雑用や家事の数々に精を出している。すごいのは普通なら顔をしかめてしまう雑事の全てを頼めばキスくらいならしてくれそうな素敵な笑顔を絶やすことなく難なく片付けてくれていることだ。彼女は笑顔のプロだね。あ、作り笑顔って意味じゃないぞ。


 関係も順調で、何も知らない人間からは相思相愛と間違われそうなくらいだ。実際にカップルにたびたび間違われる。交際や結婚は考えていないがね。ここで調子に乗らずに、ルネとの距離感もしっかり考えることこそ、幸せな時間が長く続くポイントだというのが持論だったりする。……だが、もしかしたらその内に恋心も芽生えて気持ちが抑えられなくなるかも。


 もっとも結婚しようとしたところで、ルネにはこちらの世界に住民票がないので、無理な話だろうがね。ただルネとよく二人で買い物やデートに出かけたりしているので、ご近所からは夫婦と思われているかもしれない。


 あと、シロだな。断りもなくいつの間にか部屋に居つくようになった異世界からの刺客は相変わらず居ついたままだ。俺の周りをこちらの世界における拠点とでも考えているのかね。なんか同情のつもりで餌をやった野良犬に懐かれた気分だ。たまに異世界に帰ったかと思っても、翌日の朝にはソファで図々しく寛いでいる。もしかしなくても他人の家に転がり込む才能があるのかね。


 傍から見ると、これで大人の男女が一組に子供が一人で、完全に家族の形式を取ってしまっている。さすがに家族と間違われることはまだないが、一方で、幼女を玩具にしていると誤解されたらどうしようと今更ながら不安に感じ始めている。俺とシロは顔つきも髪の色も似ても似つかないのであり得なくはない。


 さらに、城ケ崎ね。


 何故かこいつまで俺の部屋に転がり込んできたのだ。恋人でも、兄妹でもないというのにだ。俺もその場で追い出せばいいのに、これまたどういう訳か押し切られる形で同居を許す形になってしまった。つくづく肝心な時に押しが弱い……。


 城ケ崎には似合わずに強引な行動に出た理由について気になったので、シロを通して調べたところ、どうも俺とルネが同じ屋根の下で生活するのが気に入らないというのが理由らしい。嫉妬か? 俺とルネに妬いているのか!? ていうか、だからといって、自分まで同居しようなんてするなよという話だ。だが、そう言って追い出すのも面倒くさいので、結果的にずるずると今に至っている。


 上手いこと部屋に転がり込むことに成功した城ケ崎はしめたものとばかりに毎朝、部屋を出てから夜に帰ってくるまで、付きまとうように行動を共にしてくるのだ。部屋にいる間も、何かにつけて側にいようとする。ほとんどすっぽんかストーカーのような粘着ぶりだ。


 ん? 城ケ崎も含めると、男一人に女が二人、騒がしいお子様が一人か。そうなると、家族の形態から離れてしまうな。ご近所さんからも、家族と間違われる可能性が減ってしまうね。代わりに、俺が変な目で見られてしまう危険が増大……。


 同居人の話はそんなところだ。独り暮らしだった数年前を思い出すと、だいぶ賑やかに……、いや騒がしくなったと言える。ため息が出そうになってきたので、次は仕事の話にでも移ろう。


 仕事といっても、新しいことに手を出している訳ではない。以前までと同じように、異世界の魔王を楽しませるために、余興としての賞金探しゲームの運営スタッフを続けているだけだ。これが世の中において何の役に立つのかとしょっちゅう疑問に思うが、稼ぎは良いので辞めようとは考えていない。


 金に困っていそうな人を見つけるたびに頑張って勧誘しているのだが、実際に部屋へ案内して札束を見せるまでは誰も信じてくれないがね。みなさん、懐が寒くなっていても、そう簡単に警戒心を緩めてはくれないようだ。とりあえず消費者金融より信用がないことは確か。たいていは人を変質者扱いして去っていくのみ。この時に感じる心理的ストレスだけはどれだけ場数を踏んでもなかなか慣れないね。いろいろと心無いことを言われて、夜に帰宅する頃には城ケ崎と仲良くクタクタになっているのが常だ。そういう時は、ルネとの楽しい団らんもそこそこにベッドに倒れ込むことが多い。


 そのまま安眠コースに入ることが出来れば申し分ないのだが、ここで問題が発生する。いつもルネと寝ているせいで、悪夢の世界に誘われてしまうのだ。


 疲れてまぶたを閉じると例の白黒の世界に立っているのだ。そして、目の前には黒太郎たちの群れ……。


 そう……。未だに悪夢を見ているのだ。あれだけは完全に振り払う方法が判明しない。シロにも丸っきり分からないらしい。本気でどうにかしようとした場合、魔王に退治をお願いするしかないと最近密かに思うようになってきた。


 ルネと別のベッドで眠ればいいだけなんだが、人懐っこい目で頬を赤らめながら一緒に寝たいとお願いされたら……。俺も歳相応の男なので、断るのはまず不可能だ。


 一応断っておくが、一緒に寝ようと先に行ってきたのはルネの方だ。こちらからそれを誘発するような行動は一切行っていないので、そこを間違えないでいただきたい。


 そんな訳で、確実な対抗策を実行することなく、未だに朝立つのが辛くなるまでボコボコに殴られていますとさ。その状態で仕事に出るのはかなりきつく、平気な訳では決してないが、分相応なリア充生活を送る代償だと思っているので、もし俺に対して「リア充爆ぜろ」という人がいるのなら、どうぞ「ざまあ」と笑ってほしい。


 さらに起きている間にも脅威はあった。ゼルガだ。あいつ、俺のことなんか忘れたと思っていたのに、ちゃっかりまだ命を狙ってきているのだ。黒太郎と散々遊んだから、俺はもう良いやということにはならなかった。


 認めたくないことだが、やつのおもちゃの一つとして、既に決定してしまっているらしい。これは動かしようのない事項で、今は黒太郎たちとじゃれ合うのに夢中なようだが、飽きたらまたこっちに狙いを向けてくるだろうとのことだ。疫病神同士がぶつかり合って消滅してくれればいいと願っていたのに、儚く露と消えてしまった。なかなか思うようにはいってくれないものだね。重いため息が止まらないよ。


 そんな訳で、無駄とは思うが、賞金稼ぎゲームを一回やるごとに、土地を移動しながら日本中を回るという旅芸人のような逃亡生活を強いられる羽目になってしまった。平穏な生活のためとはいえ、数か月単位で引っ越すために落ち着かない気分が続いているのだが、ルネとシロはこの生活がかなり気に入っているようだ。彼女たちの眼には、各地で見聞きするもの全てが新鮮で珍しいものに映るらしい。よくデートに連れて行けとせがんでくる。俺は命の危険を割と感じているので、回りの弛緩した空気が真剣に羨ましい。


 最初の方で、今は平和みたいなことを言ったと思うが、こうして整理してみると、あまり平和と言い難いものがあるな。というより、断然戦闘中といえる。


 得していることといえば、定期的にサラリーマン時代を大きく上回る金が懐に舞い込んでくることか。強いて言うのなら、この仕事を始めて、道を歩く有象無象の中から、金に汚そうな人間を選別するのが上手くなったことくらいかね。あまり人に自慢できそうなものじゃないな……。


 仕事の報告もこんなところで十分だろう。長くなると思ったが、話してみると意外に短く済んだ気がする。さて。現状の話を一通り終えたところで、そろそろさようならを言わせてもらいたい。


 さようならといっても、今回の話が終わるというだけではない。もっと重い話……。この作品自体が終わるというものだ。


 なんか唐突な気もするが、人生なんてそんなものだ。重要なことほど唐突に訪れるのだ。俺の人生が平穏になったとは言い難いが、新しいことがあまり起こらないのだ。同じことの羅列ほど作品にとって致命的でつまらないものはない。毎晩痛い思いをする俺には、ちっともつまらなくはないんだがね。


 という訳なので、……乙!!


次回作はまだ未定です。締め切りがある訳でもないので、マイペースで仕上げていくことにします。いつになるかわかりませんが、またお会いできれば幸いです。とりあえず異世界とハーレムは避けましょうかね……。

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