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第百七十話 城ケ崎の孤独な戦い

 シロの劣勢を見かねた城ケ崎は、渋るミルズに、執拗に助力を請うていた。その甲斐があったのか、とある条件を提示された。


 ミルズの乗っている巨大なハエと仲良くできたら、考えてやらないまでもないと言われたのだ。


 戸惑う城ケ崎に、スキンシップのつもりなのか、ミルズの巨大ハエが、城ケ崎の顔に肉薄する。顔をくっつけると、試すように頬ずりを始めた。


 気持ち悪い。全身の毛孔が開くような感覚に捕らわれて、城ケ崎は思わずハエを払いのけそうになってしまった。込み上げる嗚咽を懸命にこらえて、額に脂汗を浮かべながらも渾身の笑みを浮かべた。


 この悪夢のような時間が一秒でも早く終わってくれることを願いながら、正面のミルズの顔を盗み見た。


 ミルズは、城ケ崎を品定めするような目で、ジッと見つめていた。頬ずりを続けているハエも、表情は窺い知れないが、城ケ崎の反応を待っているかのような気配が漂ってくる。


「どうやらハエも、君のことを気に入ったらしいね。表情が生き生きしているさ」


「そ、そうなんだ……」


 ハエの表情の変化なんて知ったことではないし、詳しく知りたいとも思わない。それよりも、いつまでこの拷問が続くのかということの方が、城ケ崎には重要だった。


「世の中の連中は、こぞってハエを気持ち悪いと抜かすけど、こうして接してみると、意外に可愛く感じないかね?」


「え……」


 気持ち悪すぎて、城ケ崎の意識は朦朧としていた。いきなり同意を求められても、頭が回らない。返事も停滞してしまう。


 城ケ崎の反応が芳しくないことに、ミルズが微妙に顔をしかめて、再度同じことを聞いてきた。


「どうも返事が遅いね。面倒くさいけど、もう一度聞くことにするさ。私のハエ、可愛いよね?」


「う……」


 ここで意地でも可愛いと言わなければ、ミルズは味方になるどころか、即座に敵として襲ってくるだろう。ここまで引き留めておいて、円満にさようならとなるとは考えにくい。


「シ、シロちゃんには敵わないですね……」


「……」


 ハエは、城ケ崎と戯れることに満足したのか、ようやく離れてくれた。大きな息が無意識に漏れてしまう。


「……考えたね」


 無理に可愛いと言えば、嘘だとすぐに見抜かれてしまうだろうし、可愛くないと正直に言えば、袋叩きにされてしまう。追い詰められた末に出した苦渋の結論が、回答を濁すことだった。これはミルズの気に召さなかったらしい。


「都合の悪いところはぼかして、愛想笑いで誤魔化すとはね。政治家がよく使いそうな手さ。でも、私としては、もっとハッキリと答えてほしいところかね」


 そうは言っても、ハエが気持ち悪かったなどと正直に言えるものでもない。城ケ崎は、テストは合格なのかどうかが気になり、ミルズの顔色を窺った。


 だが、ジッと見ている内に腑に落ちないものを、城ケ崎は感じ始めていた。自慢のハエがお気に召さなかったというのに、ミルズはあまり気を悪くしていないようなのだ。どことなくやっぱりそうかという顔に見えなくもない。不可解に思いながらも、城ケ崎はある仮説を口にした。


「ひょっとして質問に答えるまでもなく、私がハエを気味悪がっていたことを知っていたんですか?」


 城ケ崎自身、大胆なことを聞いてしまったと思ったが、ミルズはほんの少し申し訳なさそうに頷いた。


「この子はね。人の発汗具合で、そいつが嘘をついているかどうかが分かるのさ」


 嘘をつくとごく微量だが汗をかくという話を聞いたことがある。それを計測して、嘘をついているのかを診断する機械もあるそうだ。この巨大ハエは、それを感知する能力をお持ちというのだ。


「つまり最初から私の本心を見抜いていたということですね。その上でわざわざ質問するなんて、人が悪いです」


 頬ずりしていた時点で城ケ崎が拒絶していたことが分かっていたのなら、その後の質問の意味はない。いくら助けを請う側とはいえ、これはひどいと、城ケ崎の顔がほんのりと赤く蒸気したのは当然のことだった。城ケ崎に怯んだ訳ではないだろうが、ミルズは素直に非を認めた。


「意地の悪いことをしたと反省はしているさ。私のハエがあまりにも気持ち良さそうだったんで、つい直接聞いてみたくなってね。だけど、嫌いながらも、私の愛しいハエと頬ずりしてくれたことには感謝しているさ。お礼という訳ではないけど、攻撃することなく私は静かに去ることにするね」


 何もせずに去るなんてそのままではないかと思いがちだが、ミルズとは敵同士なのだ。手を貸してくれないまでも、何もせずに去ってくれるだけでありがたいのかもしれない。


 頭を垂れて落ち込む城ケ崎に目を背けるミルズ。彼女のハエも、心なしか心配そうに城ケ崎を見ていた。そこに小さな何かが飛んできた。


「ふぎゃん!」


 可愛い悲鳴を上げて、ミルズと城ケ崎の間を、シロが通過していく。いや、吹き飛ばされていくと表現した方が正確か。


「う……!」


 シロは弱々しく城ケ崎を見た後、すぐにガクリとノックアウトしてしまった。もう立ち上がる気力も残っていないようだ。


「シロちゃん……」


 駆け寄って、シロを介抱すると、再び城ケ崎を見つめて、弱々しい声でぼそりと呟いた。


「お……、姉ちゃん……。私を置いていこうとせずに、担いで……、逃げ……、て……。ガクリ!」


「シロちゃん!!」


「……最期の一言が、私を置いて逃げてだったら、高評価だったんだけどね」


 最期の力を振り絞って、城ケ崎に身の安全の確保を訴えた後、シロは意識を失った。ミルズもぼやいていたが、確かに最期のセリフが私を置いて逃げてだったなら、かなり涙を誘ったことだろう。いや、決して強要している訳じゃないぞ。


 もっとも城ケ崎には、そんなことを気にしている余裕は一切ない。震える体で、顔を上げると、近衛兵が得意満面の不気味な笑みを浮かべて、彼女の元へと歩み寄ってきているところだった。


 健康診断を受けてきました。断食作戦が功を奏したのか、減量に成功して、

体重は減っていました。これで、三連続で体重が落ちたことになります。

 それなのに、BMIは増加していました。こちらも三連続だったりします。

 不可解な結果に、納得のいかない思いを抱きつつも、久々のコーラで喉を潤しています。

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