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第百六十七話 激悪トライアングルの形成

シノ視点からの話はまだ続きます。

 落とし穴の底で体力の回復を図っていたシロと城ケ崎。そんな二人の頭上から、二体の化け物が揉み合う喧騒が聞こえてきた。


「黒太郎と近衛兵のおじさんだ! 無限ループが解けたから、あいつらも落ちてきちゃった!」


 やっと休めると思ったのに、招かれざる連中のせいで台無しにされてしまったという不機嫌さが、シロの顔にしっかりと刻まれていた。


「もう少ししたら、ここに落ちてくるんだよね。その後、懲りもしないで戦い続けるだろうから、その隙を見て逃げ出せないかな?」


 無限ループのせいで、かなりの距離を落下してきた錯覚に捕らわれてしまうが、実際はそんなでもない筈だ。上手くやり過ごしてしまえば、余分な体力の消耗を避けることが可能だ。だが、シロの表情は険しい。


「難しいね! 空を飛ぶのって、お姉ちゃんが思っている以上に目立つんだよ! 腹いせに狙われたら、私もプッツンきちゃうな!」


「それでも……、努力はしてみてね。もう……、争いに巻き込まれて危険な目に遭うのはたくさんなんだから……」


 一応は頷くシロだったが、出来たらやる程度の認識しかしていなさそうな顔だ。そうこうしている間にも、揉みあう音は激しくなってきた。


「来るよ!」


「もう少し……、休んでいたかったかな?」


 最初は米粒くらいの大きさだったのに、徐々に大きくなってきていて、もう二人の姿が目で確認出来た。黒太郎も近衛兵も、戦闘に夢中になっていて、地面が迫っていることなど知る由もない。これで急に激突して、この人たちは大丈夫なのかと、他人事ながら城ケ崎が心配する中、二人は地面に激突した。


 かなりの速度でぶつかったため、激突の瞬間の衝撃は凄まじいものがあり、地面が割れんばかりに揺れて、その際に舞い上がった土煙で視界が遮られてしまった。常人なら即死は免れないが、こいつらは間違いなく起き上がっていることを、シロたちは理解していたので、土埃に咳き込みながらも煙の先を睨んでいた。


「激しい爆発ですことで……」


「ゴホゴホ……! でも、死者は出ていないね! どっちもピンピンしているよ!」


 土煙の向こうから、何者かが歩いてくるのが聞こえてきていた。


 まず土煙の中から姿を現したのは黒太郎だった。あらゆる物理ダメージを無効にする特殊能力は相変わらずらしく、途方もないほどの高さを降下してきたというのに、全く堪えた素振りを見せない。とことん不死身という言葉が当てはまるやつだ。


「ねえ、黒太郎、こっちのことを睨んできていないかな。顔が真っ暗だから、そんな気がするだけの話かもしれないけど」


「気の話じゃないよ! 明らかに殺気を向けてきている。あいつの脳内は、私を肉塊に変えることでいっぱいだろうね!」


 黒太郎は全身が隈なく真っ黒なので、感情の起伏を視認することは出来ない。だが、放たれる殺気は一般人の千倍なので、破壊衝動だけは容易に察することが可能だった。


「さっき火球をぶつけたことを根に持っているんじゃないのかな」


「ぶ~、やれやれだよ! その後、シロのことを、思い切りはたいたくせに! むしろキレたいのは私の方なんだからね!」


 黒太郎を奴隷にする鎖を持っているのは俺なので、シロたちには平然と襲い掛かってくる。逃げるという手段もあったのだが、休んだおかげで体力が大分回復していたこともあり、挑戦を受けて立つことにしたのだった。


 だが、シロたちが警戒すべき敵は黒太郎だけではなかった。自分を射抜くように睨む視線がもう一つあることに、シロは気付いた。視線の先には槍を力強く握った近衛兵が立っていた。


「黒太郎はともかく……、あのおじさんまで立っていられるなんて……。落ちてきた距離を換算すると、高層ビル何階分か分からないくらいなのに……!」


「一応人間だけど、あのシャロンの近衛兵を勤め上げるほどのやつだからね! 体の構造が常人離れしているんだよ! 俗にいう脳みそまで筋肉の戦闘馬鹿ってやつさ! 打たれ強さには定評があるのだよ!」


 シャロンは人体改造も平然と行う性格なので、言葉のあやではなく脳みそが本当に筋肉化している可能性もゼロではない。縁起でもないことを考えて、城ケ崎は足がガクガクと震えてきた。だが、彼女が怯えている理由は、それだけではなかった。


「あの鎧を着たおじさん……、すごいこっちを睨んできているよ」


「そうだね!」


 近衛兵の射殺すような眼力に、思わずたじろいでしまう城ケ崎。対照的にシロは奇妙なほどに落ち着き払っていた。


「あのおじさんには、落ちる時に睨まれるようなことはしていない筈だよね。なのに、どうしてあんな親の仇でも見るような眼差しで睨んできているの? まさか知り合い?」


「……そんなんじゃない。ただの顔見知りだよ! 話したことはないけどね!」


「ただの顔見知りにしては、かなり睨まれているよ。シロちゃんの知らないところで恨みを買っていたんじゃないの?」


「だから、そんなんじゃないって! あのおじさんが怒っているのは、私がシャロンを裏切ったからだね! 良い歳をして、シャロンに首ったけだから!」


 そんな馬鹿みたいな理屈で睨まれるかと思いたくなるところだが、それくらいの忠誠心を持ち合わせていなければ、シャロンの側近など務まらないだろう。それを考慮しても、シャロンに首ったけというのは納得出来ないが。


「お前……、シロか……」


「だったら何だよ……!」


「シャロン様を守る立場にありながら、こともあろうに刃を向けた不心得者……。殺さでおくべきか……」


「へんだ! 口を開けば、シャロン様、シャロン様……! あの女への盲目的な中世は相変わらずだね! でもね、度を過ぎているよ! 傍から見ていたら、ハッキリ言って、キモい!!」


「何だと……?」


 無言になって睨みあう二人。城ケ崎は巻き添えを食わないようにと、シロの配慮で後ろに退かされていた。だが、その時間は唐突に強制中断させられる。


 隙ありと黒太郎が近衛兵に殴りかかったのだ。


 鍛え上げられた屈強な右腕で黒太郎の攻撃を受け止めると、近衛兵は不敵にほくそ笑んだ。


「ここにもいたか……。死にたがりが!」


「……」


「違うよ! 私は死ぬ気なんて全くありません! 勝手に死にたいなんて、おめでたい思考の持ち主は、お前だけで十分だよ!」


「ふん……。その発言が、死にたがっているようにしか聞こえないというのが、分からんのか。どこまでも哀れなやつめ」


「ああ言えばこう言う! 鬱陶しいな!」


 良い争いでは埒が明かないと、近衛兵に火球をぶつけようとするシロだが、そこに黒太郎がまたも襲いかかってきた。


「だから、貴様は……!」


「すっこんでろって言っているんだよ!!」


 これから殺しあうとは思えない。シロと近衛兵の息の合ったパンチが黒太郎に命中する。だが、黒太郎も負けてはいない。強烈なダブルパンチに吹き飛ばされるも、空中で反転して、すぐに体勢を立て直して着地する。そして、お返しとばかりに、シロたちに、カウンターとして翼に一撃をお見舞いする。


「おおっ!」


「ぬう……!」


 黒太郎の一撃に数メートルほど後方に引きずられるも、すぐに踏みとどまって、反撃に転じる。


「あ……、あ……」


 傍らで城ケ崎が息を飲む中、激戦は開始された。誰が勝手も無事では済みそうにない激しい三つ巴が始まってしまったのだ。


先日、某書店にPS2のゲームを売りに行ったら、10円しか値が付きませんでした。10円って……orz

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