表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/201

第百三十七話 幼女狩りの開始

 モールにて、ミルズと接触することに成功したが、そこで何者かの襲撃を受けてしまった。犯人は、ミルズたちを変態富豪に売って、一儲けを企んでいるハンターで、天井を落としてくるという暴挙に出たのだ。


 落ちてくる天井を見ながら、今から逃げていたのでは間に合わないと、黒太郎を出して、粉々に粉砕させた。


 黒太郎のパワーは凄まじく、天井を難なく砕く。だが、その際に、膨大な量の土煙が舞いあがった。


「ゴホゴホ! ひどい土煙だが、これで俺たちの姿を隠すことが出来る。今の内に逃げ出すぞ!」


 むせりながらも、他の連中に指示を出す。攻撃してきたということは、向こうにこちらの位置がばれているということだ。逆に、こちらは相手がどこにいるのかが分からない。絶対に倒さなければいけないという訳でもないの、こういう場合は逃げるに限った。


 だが、そこでミルズから待ったの声が上がった。


「ちょっと待ちたまえよ。このまま逃げるよりも、待ち伏せして、敵を叩くというのはどうさ? きっとやつは私たちをちゃんと生き埋めにしているか確認しに来る筈だからね」


 そんな迂闊に顔を出してくれるとは思わなかったが、せっかくミルズの方からコンタクトしてきてくれているのだ。申し出を断って、関係を悪くすることもあるまい。という訳で、提案に快く応じることにした。


 コンクリートの残骸に身を潜めるために、早速黒太郎にさらに落ちてきた天井を破壊させた。そして、丁度いい隠れ場所を確保出来たところで、黒太郎を引っ込めた。


「しかし、ひどいな。俺たちは助かったが、このフロアと、上にいた人たちは無事では済まないぞ?」


 四人で身を寄せ合いながら、沈痛な胸の内を呟いた。自分たちの身を守るのが精いっぱいで、結果的に彼らを見殺しにすることになってしまった。自分が招いたことではないとはいえ、吐いてしまいそうな胸糞の悪いもやもやが、とめどなくせり上がってきた。敵は、ミルズ一人を捕まえるために、どれだけの人を犠牲にするつもりなんだろうか。


「中にはこういうやつもいるよ! 自分の利益のためなら、他の人のことは顧みないっていうやつがね! 主に、強大な力を持ったやつに多い傾向にあるね! 力を持つと、ろくなことを考えなくなっちゃうのかな!」


 シロの意見には同意する。子供の頃から出会った強いやつの中で、周りのために力を使おうとしていたやつは、あまり記憶に残っていない。逆の場合ばかりだったしな。


 さっきは逃げることばかり考えていたが、こうして冷静になってくると、だんだん腹が立ってきたな。何も正義の味方を気取るつもりはないが、惨事を引き起こしたやつをブッ飛ばしたいという意欲は湧いてきた。




 しばらく隠れていると、ミルズの予想通り、敵が姿を現した。


 そいつの姿は、一見すると、取り立てて問題のあるようには見えない、どこにでもいるビジネスマンだった。上から下まで、スーツでビッシリと決めている。だから、生存者と勘違いして、うっかり声をかけてしまいそうになったくらいだ。


 声をかけるのを止めたのは、スーツ男が、変わり果てた店内を見回して、愉快そうに高笑いしたからだ。こんな状況を笑い飛ばすとは、犯人でないにしても、まともな神経な持ち主ではないと、接触するのをためらわせたのだ。


「あいつ……! スーツで誤魔化しているけど、私たちの世界の住人で間違いないよ! 天井を崩落させたのもあいつだね!」


「自分の招いた事態を目の当たりにして、高笑いなんざ、なかなか良い趣味をしているじゃないかい」


 俺たちが息を潜めているとは、夢にも思っていないような間抜けな顔だ。こいつが惨事を引き起こしたのだと思うと、改めて腸が煮えくり返ってくる。


「とりあえず今はあのおじさんを、私の正義の火球で叩きのめすよ! 幼女をお金儲けの道具にする悪い大人には、お灸をすえてあげないとね!」


「すっこんでいるのさ。君の攻撃は目立ちすぎるからね。私が、静かに、かつきれいに仕留めて見せるさ」


「にゃ、にゃにを~!」


 前に出ようとするシロを、ミルズが制す。なんだかんだ言いつつ、今は共通の敵を倒すために、手を貸してくれるらしい。シロは面白くなさそうな顔をしているが、頼りになる存在だ。


「上のフロアごと、天井を崩落したところまではお見事だが、姿を晒したのは、大幅減点だね。私の能力のサンドバックになって、昇天するといいさ」


 ミルズのフードから蜂軍団が、一斉に飛び立つ。これもこれで目立つとは思うが、全部叩き落とすのは容易ではない。確実であるのは違いなかった。


 だが、蜂の羽音はやはり耳に付くので、スーツ男も笑うのを止めて、当たりをきょろきょろと見回し始めた。


「む~ん!? 蜂の飛ぶ音がするぞお? ブーンブーンとな! ……反応がないと、なんかつまんねえ」


 蜂が迫っているのに気付いても、ガードしようともせずに、独りでのんびりとノリツッコみに興じている。拍子抜けするほど、危機感がない。このまま刺されて昇天したら、末代までの恥だな。


「さあ! 私の可愛い蜂に刺されて、間抜けな面を晒して、寝転がるがいいさ!」


 ミルズの掛け声と共に、蜂がスーツ男を、一斉に突き刺した。あれだけの蜂に刺されれば、無事では済まない。やがて聞こえてくるだろう男の悲鳴を期待していたが、刺される間際に、スーツ男の体がカメレオンのように変色したのだった。


 スーツ男の全身が無数の手や足、顔や背中などの誰かの体の部位が敷き詰められている映像へと変化したのだ。


「うわっ! 何、あれ! きもい!」


 シロも思わず口を抑える中、蜂が奇妙な映像の塊を刺す。刺した瞬間、悲鳴が聞こえたような気がした。


 映像は、蜂が攻撃している最中、変わることはなかったが、終わると同時に元のスーツ男の姿へと戻ったのだった。


 あれだけの蜂に刺されたというのに、スーツ男はダメージを受けたような素振りは見えない。やせ我慢しているという訳でもない。呆気にとられる俺たちの前で、スーツ男はまた笑い出した。


「くすすす……! 身代わりをたてなかったら、今頃はあの世だったな。危ない、危ない!」


 身代わり……? よく分からんが、自分の代わりに蜂に刺させたのか?


「お兄ちゃん! 身代わりってひょっとして……!」


「まさか……!」


 最初はやつの体に浮き出た体の部位が、誰のものか見当もつかなかったが、だんだん読めてきた。


「くっくっく! くすすす……! 確か愛しのミルズちゃんは、昆虫を操って戦う幼女だったなあ! 攻撃をしてきたっていうことは、近くにいるって訳だ! 俺、超ラッキー!!」


 攻撃したことで、こちらが潜んでいることも、スーツ男にばれてしまった。


「まあ、いくら不意を突かれたところで、自動身代わりの能力で、俺が痛みを感じることはないけどね~! しかも、身代わりは大量に確保したから、尽きる心配はない。これは、もう俺の勝ちっしょ!」


 あいつの能力が徐々に判明してきた。特殊な雨を降らせる。浴びてしまったら、その個所が透明になる。そして、スーツ男がピンチに陥った際は、透明にされた部位が、代わりにダメージを肩代わりする羽目になる。何という極悪な能力だ。


「ということは、今、外を歩いていた通行人の誰かが、やつの代わりに、蜂に刺されたということか……」


 能力と共に明らかになったのは、スーツ男が、今までの敵よりも下衆だという事実だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ