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第百二十九話 あるお人好しの発掘作業

 サーベルの折れたベルガとの戦いは、こちらのワンサイドゲームで進んでいた。


 攻撃手段がサーベルしかなかったベルガは、既に打つ手がなく追いつめられていて、ほとんどサンドバックと化していた。一方的に、シロと黒太郎が攻撃を加えていく様子は、戦いというより、いじめだった。


 戦いは終盤に差し掛かっているといえた。ゼルガは表情こそ余裕を崩さないが、俺の目は誤魔化されない。ゼルガの足元がだんだんふらついてきているのだ。ノックアウトの瞬間は近いな。


「くくく! 君たちは本当に強いなあ! 一人だけ余分なのがいるけどねえ!」


「黒太郎! そいつのよく回る口を重点的に攻撃しろ。二度と口のきけない体にしても構わん!」


 虫の息になってからも、俺への挑発は止めないのか。もしかしたら、やつの心臓が止まる方が先かもしれないな。


 そっちがその気なら、こっちも心を鬼にして仕留めさせてもらう!


「お兄ちゃん! これから最大火力をぶつけるから、タイミングを合わせて!」


「良いね! 俺も、そろそろ決めたいと思っていたところだったんだ!」


 お互いの最大出力による攻撃を、同時に、それも挟み撃ちで食らわせる。


 ゼルガも、今度ばかりは焦るかと思っていたが、ふてぶてしいまでの余裕は、依然変わらなかった。食らってやるから、さっさと放って来いとでも挑発しているかのようにも思えてしまう。


 あまりに余裕に、何か企んでいるのかと緊張が走るが、そんなことはなく、攻撃は二つともクリーンヒットした。攻撃を食らったゼルガは、その場に力なく崩れ落ちたのだった。


「クハハハ! もう限界だよ。僕もここまでみたいだね~」


 出来ることなら、こいつの人を食ったような態度も、バキッとへし折ってやりたかった。ここまで態度を改めないということは、きっと性格がそういう風に出来てしまっているのだろう。


 更生が見込めないのなら、もう話していても仕方がないな。俺は黒太郎に、止めを刺すように命じた。黒太郎は会釈もしなかったが、命令には忠実なので、ゼルガに止めの鉄拳を放ったのだった。


「う……、ぐ……、良いパンチだ! はい、ゲームオーバー。目的を達成することは出来なかったけど、敵はたくさん殺したから、シャロン様も褒めてくれるかな~」


 最後に黒太郎の鉄拳を賛美すると、ゼルガの体はそのまま黒い霧と化していき、消滅してしまった。


「嫌にあっさり倒されたな。ひょっとしてやられた振りとか?」


「ん~! でも、やつの気配は感じないね。あれで倒したとは思えないけど、この場にいないってことは、上手いこと、逃げたのかも!」


「そう考えるのが妥当だろうな」


 いくらなんでも殺される寸前まで笑い続けたやつの話など、聞いたこともない。やせ我慢にしたって、限度があるのだ。


 とりあえず脅威が去ったのは事実なので、大きく息を吐くと、全身の力を緩めたのだった。


「やったな……」


「ふむ! たいしたことなかったね!」


 俺は結局最後まで何もしなかったが、無時にゼルガを撃破することに成功した。


「結局何だったんだろうな、こいつか。挑発するために出てきたようなやつだったな」


 敵を撃破したのなら、もう黒太郎を出している理由はない。右腕に収納した。側で見ていたシロが、物珍しそうに声を出す。


「なかなか斬新な収納方法だね!」


「そうだろ。おかげで、どこにでも持ち運べるぞ」


 下手な武器よりも強力で、折られて困るというようなこともないのだ。地面に転がったままの折れたサーベルの刀身を眺めながら、薄く笑った。




 魔王の居城のあちこちで起こっていた戦火も、徐々に静まりつつあるようだ。あんなに聞こえていた魔物たちの怒声が、にわかに大人しくなってきているので、戦況を聴くまでもなく、分かってしまう。


「お姉ちゃんを早くお医者さんに診せてあげないとね」


「それなんだがな……。鶏頭のところを素通りして、いきなり回復の泉を利用することは出来ないのか?」


 城ケ崎を背負いながら、それとなく聞いてみるが、シロはどうしてそんなことをするのかと、不思議な顔をしている。シロたちの鶏頭への信頼の深さは、どこから湧いているのかね。俺がひどい目に遭わされているところを、目の前で見ているだろうに。


「これからもう一度痛い思いをすることになるが、我慢しろよ……」


 城ケ崎に、そっと呟く。意識がない筈なのに、城ケ崎の顔が苦悶に歪んでいだ。


「そういえばアルルのやつは、お仲間を助け出すことが出来たのかねえ?」


 あいつもゼルガに騙された、哀れなやつの一人なんだよな。敵には違いないのだが、俺の前から去る時の顔を見てしまうと、どうにも同情を誘われてしまうんだよな。何と言っても、外見が幼女だから。


 シロは、俺の話を苦い顔で聞いていたが、止めようとはしなかった。ただし、返答もしなかったがね。


 通路は、ところどころ崩落で崩れている中を、時折魔物とすれ違いながら進んだ。しばらく進んだところで、一際大きな崩落のあった箇所に、魔物たちがたむろしている場面に出くわした。何やらぼそぼそと話し合っているが、近付くにつれて内容が聞き取れるようになってきた。


 何でも、敵がついさっきまで、ここで半狂乱になって、土砂を掘り起こしていたというのだ。


 アルルだ。ここに埋まっているアロナを、必死になって探していたんだ。だが、敵の魔物が押し寄せてきて、多勢に無勢で泣く泣く引き上げていったのだろう。


「お兄ちゃん! 分かっていると思うけど、忠告! 変な気を起しちゃ駄目だよ! あいつは敵なんだからねっ!」


 俺の表情から、何をしようとしているのかを敏感に察したシロが、抜け目なく釘を刺してくる。


「忠告されなくても分かっているよ。城ケ崎を刺したのも、俺を騙そうとしたのも、あいつだからな。助けてやろうなんて思わないさ」


 そう言って、アロナの埋まっている場所を素通りして、鶏頭のところへと向かった。しかし、俺も甘いと痛感する。城ケ崎の手当てをしてもらった後、結局は舞い戻ったのだから。鬼になりきれない性分らしいね。


「全く! 釘を刺したのに、始めちゃうんだから、お兄ちゃんもとんだお人よしだよね!」


「お前もな……」


 ぶつくさと文句を言いながらも、シロもアロナを掘り起こすのを手伝ってくれていた。こいつもこいつで鬼になりきれないらしいね。


 魔物たちが奇異な眼差しを向ける中、俺とシロは、手を土まみれにして、アロナの掘り起こしに邁進した。


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