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第百二十六話 再会、そして、果たし合い

「ねえ! どうしてお兄ちゃんがアルルなんかと一緒にいるの?」


「そ、それはな……」


 シロが不思議そうに、且つ怒ったような口調で、俺に叫びかけてくる。お前と間違えて、行動を共にしていたなどとは言えない雰囲気だ。


 代わりに、騙そうとしてくれたお礼も兼ねて、アルルに向かって蹴りを入れた。一言でいえば、都合の悪い展開を誤魔化しているだけだったりする。幼女に向かって攻撃するというのは、画的に不味い物があるかもしれないが、相手はただの幼女じゃないので構わないだろう。


「ぐっ……!」


 俺の蹴りをギリギリで躱すと、アルルは飛び退いて、そのまま食堂の入り口にいる黒装束のところへ駆けていった。


「お兄ちゃ~ん!」


 対照的に、本物のシロが、こっちに向かって駆けてきている。


「シロ……!」


「アルル!!」


 二人の幼女が、すれ違いざまにお互いをキッと睨む。何か火花のようなものが散ったような気すらしたよ。外見が瓜二つだが、不仲なのは明らかだった。


 俺のところにやって来ると、シロが矢継ぎ早に質問してきた。


「災難だったね! アルルなんかに付きまとわれて! 変なことをされなかった? 痛いところはない?」


「いや、特に何も」


 ほんの少し前まで、シロに成りすましたアルルに、完全に騙されていたことはやはり黙っていよう。アルルなんかと間違えるなと、怒鳴られる面倒くさい展開になるのが目に見えている。


 とりあえず俺は無事だが、城ケ崎が負傷してしまい、応急処置だけしたことを伝えると、シロが目を丸くして驚いた。


「あれれ!? お姉ちゃんが怪我しているよ! 誰にやられたの? 例の泥棒猫にやられたの?」


 本物のシロは、城ケ崎が負傷していることをまだ知らない。俺は頷くと、アルルから刺されたことを伝えた。


「お前が持っている、そのナイフで刺されたんだよ!」


「ええええええ!?」


 ビックリ仰天して、腰から例のナイフを投げ捨てた。柄の模様や刀身の形が、城ケ崎を刺したものとそっくりなのだ。血が付着しているのも、同一のものだという決め手の一つだ。


「そんな物騒なものをどこで手に入れたんだ? 道端に落ちているのを拾ってきた訳じゃないだろ。まあ、お前ならありそうだがね」


「あの黒いお兄ちゃんにもらった……」


 シロの指差す先には、アルルと話し込んでいる黒装束が立っていた。成る程。俺がシロのことをアルルと間違いやすいように、城ケ崎を刺したナイフを渡したのか。用意周到なことで。


 文句を言ってやろうとすると、アルルと黒装束が言い争っているのが聞こえてきた。


「アロナの姿が見えないけど、どうしたの……?」


「ああ、あいつなら、荷物になると困るから、放置してきた」


「な!? アロナを連れたままだと疑われるから、道に置いていけって言ったのはあなたでしょ? その後で、ちゃんと保護するとも言っていたよね……?」


「そうは言ったんだけど、よく考えてみれば、シロちゃんと一緒に歩いている訳だろ? そんな状態で、アロナを前にしたら、止めを刺そうっていうことになると思ってね。なあに、心配ない。こいつらをさっさと始末して、アロナのところに舞い戻ればいいだけだ」


「だからって……!」


 会話から察するに、俺たちを騙すために、あの電撃ビリビリ幼女をここまでの道中に放置してきたらしい。作戦のためとはいえ、気絶した状態で放置されるのは、気持ちのいいことではあるまい。


「なあ。お取込み中のところを申し訳ないんだが、俺たちの方にも目を向けてくれてもいいんじゃないか? その間に去っても良いっていうのなら、喜んでそうするがね」


 俺は黒装束とアルルに向かって、話しかけた。アルルはさっきまでの人懐っこさは跡形もなく、別人のような冷たい目で睨んできたが、黒装束はノーリアクションだった。


「あれれ? 本当に去ってしまっていいのか? ていうか、お前もシャロンの手先ということで良いんだよな。もっとも、この期に及んで、とぼけたところで、信じることはないがな」


「……」


 何度か声をかけるのだが、黒装束はこっちを見ようともしない。横のアルルが睨んできていることから、声が届いていない筈はない。


「おい! 聞こえているんだろ? 何か言い訳の一つでも口にしたらどうだ?」


 一方的に人の命を付け狙っておいて、無視を決め込むなんて、どういう神経をしているのだと、さすがに声を荒げる。だが、黒装束の反応に変化はない。ひょっとしてこれも作戦の内なのかと思っていると、アルルが説明してくれた。


「無理だよ……。そいつ、自分が必要だと判断した時にしか話さないから。お兄ちゃんとの会話は不要と判断したから無視しているんだよ……」


「何だと?」


 アルルの説明を聞いて、さらに声が荒くなり、もう怒鳴り声に近くなっていた。というより、胸倉を掴んでやりたくなってきた。


「ふざけ……」


「ほら……。気持ちは分かるけど、怒っている暇なんて、ないよ……。こいつが無視を決め込んでいる時は、たいてい獲物を始末する時だから……」


 アルルが言い終わるより先に、黒装束がこっちに向かって突っ込んできていた。手にはたった今抜いたばかりのサーベルが握られている。その刃先からは、殺気がとめどなく放出されていた。


「おお!?」


 不意を突かれそうになったが、黒装束の突き出してきたサーベルを、寸でのところで黒太郎にガードさせた。


 感心したように微笑んだ後、黒装束はまたサーベルを振り下ろしてくる。ここに来て、俺はようやく理解した。こいつは俺たちのことを、もう殺すつもりだから、会話するのを止めたのだと。これから殺す相手と話しても時間の無駄だと判断したのだ。


「おい! お前、無駄を省くのが好きらしいが、俺は簡単には殺されないぞ。たいそう骨を折ることになるから、覚悟しな!」


 黒太郎に命令を出して、黒装束の相手をしばらく続けるようにさせた。その隙にアルルの相手をさせてもらおう。


 そう思っていたら、既にシロがアルルに向かって、火球を放っていた。


「ふっふっふ! 相変わらず実戦は苦手のようだね! 頼みのお仲間も、手が空いていないみたいだし、年貢の納め時だね~!」


 姉が相手だというのに、全く躊躇する気配がない。対するアルルも、命乞いしそうなそぶりは全く見られない。


「シロ……」


「アルル……!」


 互いの名を叫び、憎しみを惜しみなく相手に向けている。生まれた時は一緒だった筈の彼女たちに、何がそこまでの憎しみを駆り立てさせているのだろうか。


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