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第百十六話 増援、到着

 俺たちを始末するために、シロの部屋に侵入してきていたクリアを、すったもんだの末に、確保することに成功した。


 確保したといっても、クリアは気配を断つのが驚くほど上手い。また姿をくらまされたら堪らないので、俺の目で確認出来ている内に、がっしりとやつの体を掴んで、動けないようにした。彼女は尚も暴れていたが、力は俺の方が上で、拘束を解かれることはなかった。


「年貢の納め時だよ、泥棒おばさん」


「ぐぐぐ……」


 悪あがきは止めろとシロが呼びかける。しかし、呼び方がどんどん雑になってきているな。こうなってくると、ただ「おばさん」と呼ばれているだけの方がマシに聞こえてきてしまう。


 シロに虚仮にされたことが悔しかったのか、一度逃走を諦めかけていたクリアは、再び俺の腕の中で、抵抗を再開した。諦めが悪いというだけでなく、魔王の居城で捕まった後のことを考えると、無理もないか。


 だが、これ以上の抵抗は無駄だと言わんばかりに、シロがクリアに何かしらの結界をかけた。結界の力で、自身の体が青白く光ると、さすがの彼女も動揺を隠せない。


「こ、この結界は、なんだい!? おい、チビ! あたしの体に何をした?」


「おっと! また雲隠れされたら敵わないからね! 魔法で動きをと~ってものろくさせてもらったよ、泥棒おばさん!」


 半信半疑でまだ動く腕を上下させて、シロの言う通り、動きがかなり制限されていることを確認し、クリアは愕然としていた。拘束するために体を密着させているので、彼女の震えが直に伝わってきた。


「な、なんてことだい。あたしの持ち味が封じられるなんて……!」


 確かにこいつで厄介なのは、毒ガス攻撃よりも、気配を消しての逃げ足の方だからな。偶然の力がなければ、侵入されていたことにすら気付かなかったに違いない。


 自力での脱出が困難だと悟ったのか、クリアは次の手を打ってきた。振り返って俺を見ると、悩ましげな視線を出し惜しみすることなく向けてくる。距離が近いので、吐息もかかってきて、男としての本能がいやが上にも刺激されてしまう。「お兄さんって、とっても力が強いのねえ……」と、あからさまなお世辞から、彼女の誘いは始まった。


「な、なあ……、お兄さん。ものは相談なんだけど……」


「俺に泣きついても無駄だぞ。色仕掛けも不可!」


「ぐ……!」


 服に手をかけているクリアの先手を取ってたしなめる。俺がちょっとでもたじろぐようなら本気でやるつもりだったらしく、危ないところだったと密かに安堵の息を漏らした。


 クリアは年頃の女性らしく妖艶な魅力はあるからな。色仕掛けされたら、野暮な男でしかない俺はかなり不利だ。もちろん、そうなると、シロや城ケ崎からかなり白い眼で見られることになってしまうがね。


 これ以上変なことをしでかさない内にクリアを確保してしまおうと、魔物の一匹が彼女に近付く。


 だが、突如壁が轟音と共に崩れて、巨大な何者かが侵入してきた。


「ゴホゴホ……。い、一体なんだよ!?」


「敵襲の可能性もあるから、油断しないで、お兄ちゃん。間違っても、泥棒おばさんを放しちゃ駄目だよ!」


 城の部屋を教習してきたのは、鎧を思わせる装甲で表面を覆われた巨大な芋虫みたいな化け物だった。それが外から壁を突き破って現れたのだ。


 グロテスクな外見から、魔物の一匹が寝ぼけて乱入してきた可能性も頭をよぎったが、明確にこちら側に敵意を向けていることから、すぐに敵だと認識した。


「しまった! 増援か!」


 巨大な芋虫は魔物の群れを突っ切って、クリアの元へ一直線に向かっている。彼女を救出しに来たのか。


「は、あははは! ジャストタイミングだよ、アルル!」


「アルル!」


 最悪の事態を覚悟していたクリアは、さっきまでの辛気臭い顔から一転して、希望に満ちた生き生きとした顔で叫ぶ。


 アルルといえば、シャロンのお抱えのマッドサイエンティストと聞いている。確かミルズたちと一緒に勇者と魔王に喧嘩を売ったこともあるやつだ。


 あまりにも堂々とした来週に、上等だとシロの知り合いたちが、芋虫に向かって一斉に襲い掛かった。


「お兄ちゃん! こいつは私たちが片付けるから、泥棒おばさんとどこかに隠れていて!」


「ああ、分かった!」


 俺も手を貸すと言いたいところだが、日常的に戦闘をこなしている魔物たちの手助けなど出来るとも思わなかったので、言われたとおりに足手まといにならない内に大人しく退散することにした。


「私たちも後から追いかけるから! 頼んだよ、熟女キラー!」


「人に向かって、妙な呼び方をするな。広まったらどうするつもりだ!」


 いや、ひょっとしたら、もう広がりつつあるのかもしれない。シロが俺のことを熟女キラーと呼んでも、誰もクスリともしない。周囲に定着しつつある、嫌な予感を衝動的に感じてしまった。


「全く……! お前のせいで変な仇名が定着しそうだ。どうしてくれるんだよ?」


「うるさいねえ。あたしなんか泥棒おばさんだよ。男のくせに細かいことをぐじぐじというんじゃないよ! お~い、アルル~! あたしはここだよ~! 早く助けておくれよ~!」


「だあ~! 声を張り上げるな! 場所がばれるだろうが! お前はこれから俺と隠れるんだから、大人しくしていろ!」


 叫ぶクリアの口を塞いで、シロの部屋を後にしようと奮闘する。だが、助けが目前に迫っている以上、易々と連れ去られてたまるかとクリアも必死で抵抗する。


「あんまり抵抗すると、手が滑って、変なところを騒ぐことになるぞ。お前もそうなったら、嫌だろ? だから……」


「ふん! そうしたら、あんたに痴漢されたって、大声で喚いてやるよ! あんたのあだ名は変態熟女キラーにバージョンアップさ!」


「上手いことを言ったつもりか!?」


 クリアと格闘していると、城ケ崎が後頭部を強打して、昏倒させた。あんなに抵抗していたのが嘘のように静まり返って、楽に運べるようになった。


「城ケ崎、サンキューな!」


「いえいえ。いい加減、その人が鬱陶しくなってきていましたし、気にしなくていいですよ」


 確かに、クリアを叩く時、全く躊躇していなかったものな。鬱陶しく思っていたことは事実だろう。


「さて! じゃあ、増援が増えない内に、さっさと、この泥棒おばさんを隠しちゃいましょうか」


「あ、ああ。そうだな……」


 泥棒おばさんという呼び名は、城ケ崎に手も定着していた。俺も変な呼び方が定着しないように用心せねば。


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