第百二話 女の子の国の真相
シャロンの統治している国を見学していたら、子供が女の子しか見かけないことに気付いた。そんな筈がないだろうと、しばらく観察してみたが、これだけ人がたくさん歩いているのに、やはり男の子の姿だけが確認出来ない。さすがにおかしいと思い始めて、シロに問いただしてみると、意外そうに目を丸めて暴露を始めた。俺の口から、そんな鋭い言葉が出てくるとは思ってもいなかったという顔だな。
「お兄ちゃんにしては、良いところにお気付きだね! そうだよ! この街には子供はみんな女の子なんだよ! 数年前から奇病が流行ってね! 女の子しか生まれてこなくなっちゃったのさ! 怖いこともあるもんだよね~!」
「俺にしては」って何だよ? 顔を引き攣らせながらも、冷静を保って会話を続ける。
「……成る程。だから、お前も女の子に生まれてきたと」
「うえ!? い、いやいや違うって! 私が女の子なのは、宿命……」
「思わぬところで、シロちゃんの出生の秘密まで明らかになっちゃいましたね」
城ケ崎も俺に乗っかってきてくれた。衝撃の事実をカミングアウトするシロに対して、俺たちはあくまでクールに反応する。悪く言えば、ノリが悪いのだが、俺たちをアッと驚かせたかったシロには、不満のようで頬を膨らませている。
「……」
「……」
「嘘だよ! そんな呪いなんて存在しませ~ん! お兄ちゃんをちょっとからかおうとしただけで~す!」
追いつめられたシロが不機嫌そうに嘘をついていることを告白した。やっぱりそんなところか。説明をしている時のこいつが、時折俺を見ながら、イタズラを仕掛ける時のずる賢い目をしていたから、警戒していたんだ。
「本当だ……。男の子が全然いない……」
街に男の子がいないことを、俺から言われて気付いた城ケ崎が、辺りを見回しながら、驚いている。
「シャロンの女の子好きが高じて、魔力で生まれてくる子を女の子だけにしているかもしれないがね」
「そうじゃないんだな~! シャロンが女の子のいる家にだけ税を軽くする政策を出していることを覚えているかな?」
覚えているさ。シャロンがろくでもない君主である理由の一つだものな。成る程ね。みなまで聞かずとも、それだけで女の子しかない理由が分かったよ。やはり女装だな。目的は税を軽くするため。
「女装ですか……」
「だが、それだとばれた時、大事にならないか?」
「それでも、税を軽くしたいという庶民の悲しい感情が働いておるのだよ、お兄ちゃん!」
「悲しい感情ねえ……」
一番悲しいのは、女の格好をさせられている男の子の方だろ……。子供を金のために女装させる変態の親を被害者のように語るのは止めろ。
しかし、子供の頃から、積極的にオカマになるように教育しているのかよ。たいした国だな。
「こんなろくでもないことをしていたら、相手が魔王でなくても、後れを取る訳だ」
「ナンパする際は、本当に女の子が確認してから行わないと、痛い展開になってしまいそうですね」
「言えてるな」
ナンパした女と意気投合して、ベッドにもつれ込んでから、判明してしまった場合など、目も当てられない。
注意して観察すると、衣料品店やアクセサリー店など、女子向けの店が目立って多い。これだけ女の子ばかりだと、産業も女子寄りに変化してしまうのだろう。一つの国として、よろしくない方向に進んでいるのは明らかだ。おそらく魔王が攻めてこなくても、放っておけばこの国は衰退で、自然消滅していくと思われる。
「見えてきた……! アレがシャロンの居城だよ!」
見えてきたと言うが、そのかなり前から城は視界に入っていたよ。何せ、規模が破格だからな。あれじゃ無視する方が一苦労だ。大きさを東京ドームで例えるなら、何個分になるのかね。
「やはり大きいですね」
「ああ。無駄に大きい城を建てているもんだよ。俺たちが攻めやすいように、もっとコンパクトに造ってもらいたかったぜ」
「向こうからすれば攻めにくく造っている訳ですから、宇喜多さんが悔しがっているのは、造った人からすれば、感無量なんでしょうね。それに、きっと自分たちがどれだけ力を持っているのかを誇示する目的もあるんでしょう」
あの中に、俺の可愛いメイドと、俺たちが拉致を計画している馬鹿君主がいるのか。今日は素通りするだけだが、次にくる時は混乱の渦中に放り込んでやるよ。
「正直、私としては、規模が巨大なおかげで安心している割合が大きいですね。あれだけ大きいとなると、守る側としては大変です。どうしても、管理が行き届かず、守りが手薄になってしまう部分が出てきてしまいますからね」
そういう見方も出来るな。ただ城を守護しているのは、俺たちを襲ってきた幼女たちレベルの相手だ。気は抜けない。
「お兄ちゃん。シロの最上階から延びている離れみたいな小部屋が見える? あそこの空中に浮いているように造られている部屋」
「ああ。明らかに後から付け足したのがバレバレな部屋だろ。あそこがどうかしたのか?」
「あそこにね。シャロンがお人形と称して集めている、美少女達が暮らしているの。ルネもきっとあそこに幽閉されているね!」
「ふ~ん……。良いことを聞いたな……」
ルネの名前を聞いて、胸が熱くなった。シャロンの勝手な都合で攫われたルネが、あの空中に浮いているように見える部屋の中にいる……!
わざわざ外から確認出来るところにコレクションルームを造ってくれるとはな。おかげで作戦を決行するのがやり易くなったぜ。
「見えるところに目的の場所があるんでしたら、空から乗り込むというのはどうですか? 警戒も緩いですし、不意を突けば、敵が追ってくる前に、ルネだけでも救出出来ると思いますけどね。魔王軍にも、翼を持っている魔物はいるんでしょう?」
「空を飛べる魔物は多いよ。私も飛ぶことは出来るしね! でも、あの部屋……。な~んか嫌な空気が漂っているんだよね。侵入者用の魔力的なトラップでも敷いているのかも……」
コレクションを守るためにやっていそうなだな。つまり、今、乗り込むのは危険だと言いたいのか。OK! 本心では乗り込みたくて仕方がないのだが、我慢することにしよう! だが、当日は遠慮しないからな。派手に暴れてやるよ!




