第3話・孤立の街Ⅰ
次話投稿不明と言ったな。
あれは嘘だ。
「よしっ」
ネガティブな感情を吹き飛ばす様にボクは気合を入れ直す。
まずは、この転移で傭兵都市ヴェユスがどのように変化したのかを把握しよう。
取り合えず、自室の窓から見えた西門へ向かう。
ボクの自宅はプレイヤー居住区の中央寄りに建っている為、西門までの1kmの間は、様々なプレイヤーの自宅が建ち並んでいる。
そして、外壁へ近付くほど、表通りから離れていくほど、安価な建物が増えていく。
ま、ボクが通るのは西門までの表通りなので比較的高価な建物が並んでおり騎士の警邏もあって安全だ。
西門まで後もう少し居住区の昼時とあって、そんなに人通りはなかった。
井戸端会議中のおばさん達や警邏中の騎士ぐらいしかいない。
注意深く人間観察をしていたが、元プレイヤーと元NPCの違いは一切なく判別が出来なかった。
さて、西門までもう少し・・・。
「あれ?」
何故か西門の手前で通りが封鎖されており、四人の騎士が警備にあたっている。
「何で封鎖されているの?」
四人の騎士の中で一番手前にいる人に声を掛ける。
「ん、ああ・・・、まぁ何て言ったら良いかな。 面倒だなぁ。 いやでも別に危険でもないし・・・」
心の声がだだ漏れの騎士は、頬を掻きかならどうしようか思案する。
「おい、どうした?」
他の三人より少しだけ豪華な装備を纏った騎士が、後ろからやって来る。
「ああ、隊長。 この娘がこの先がどうなっているのか知りたいそうです」
「この先をか?」
「うん」
ボクは、騎士達を見上げながら即答する。
「まぁ、そうだな。 いや、俺達もよく分らんのだが・・・、見た方が早いだろう」
バリケードの封鎖を解きつつ、顔を西門に向けて振る。
西門へ行けという事と解釈し、騎士の誘導に従い西門を潜ってその先へ行く。
「待てっ」
「ぇ、・・・えっ!?」
ボクの口から素っ頓狂な声が漏れる。
西門から足を一歩踏み入れると、その先に道はおろか地面すらなく大きな湖が広がっていた。
本当ならウエストブレイ王国まで伸びる長い長い街道がある筈だった。
騎士に止められなければ危うく落ちていた事だろう。
どういう事?
E/Oのデータが丸々コピーされたんじゃないの?
それによく見れば、この湖以外の周辺の風景も全く違っている。
傭兵都市ヴェユス、広大な森に囲まれた都市で西と南へは、それこそ国境線まで森が永遠と続いていた。
それなのに今は目の前にいきなり湖ときている。
湖の対岸を見てみよう。
やはり、森は広がっておらず草原の中に所々林がちょこっとあるだけだ。
つまり、ここはノースブレイ王国ではないという可能性がある。
もしかしたら、オーランド大陸でもないかも知れない。
「これは驚きですね」
突然、ボクの後ろ隣から若い男の声が聞こえた。
声のする方向へ顔を向けると憎たらしいほどの金髪碧眼のイケメンが立っており、ボクと同じ様に呆然としていた。
まるで顎鬚がある様な仕草で顎を擦っている。
癖なのだろうか。
「お嬢さんもそう思いませんか?」
いきなり、こちらへ振り向き爽やかな笑顔と共に同意を求めてくる。
「はぁ・・・」
唐突だがボクは、理由が思い当たらないけど男性が苦手だったりする。
純粋な乙女ならあの笑顔を見せられたら途端に魅了されるだろうけど、ボクは魅了どころか寒気がしていた。
「何が起こったのでしょう・・・って、あっ、お嬢様をお待たせする訳にはいきませんね。 それではお嬢さん、お先に失礼ッ」
少し考え込んだかと思うと何かを思い出し、鮮やかな緑色のマントを翻してイケメンが去った。
ここにずっといても仕方がないので次は北門へと向かう。
外壁に沿って行っても良いのだけど、一部治安の悪い所も通らないと行けないので居住区を通り中央広場の順路で行く。
中央広場はその名の通りヴェユスの中央に設けられた広場で中央には時計塔と噴水が鎮座している。
噴水の周りには数多くのバザーや露店が開かれていて、時折掘り出し物も出品される事がある。
異世界転移での混乱なんてなかったかの様に盛況で店も客もかなりのものだ。
そして、中央広場の周囲には、ヴェユスでも一・二を争う有名店が建ち並んでいる。
これらの店は世界でも屈指の人数と言われる傭兵達が目当てと思われる。
実際、ボクもこの一つにお世話になっている。
ヴェユスの北側にあるのは、行政区画でここの領主が住む屋敷やら町役場や図書館など公共施設が建ち並ぶ。
他の街と比べてその規模は小規模で騎士団の人数も屋敷の警護と街の警邏に数十人いるだけだ。
それはこの街が傭兵で成り立っている街だという証拠でもある。
転移前の話であるが、他の街などでは街周辺の魔物討伐などは騎士がするものだけど、この街だけは傭兵が行っていた。
駆け出しから中堅までの傭兵にとって良い稼ぎ場と言えた。
ボクとしては転移しても魔物環境は変化して欲しくはないのだけどどうなっているのだろう。
以前はこの行政区の通りは人通りが少なく閑散としていたのだけど、北門に近付くにつれて人が増えている様な気がする。
いや、気のせいではないようで北門に人だかりが出来ていた。
人だかりの所為で外の様子が分らない。
「んん、くっ、っと、っせい!」
何とか人だかりを掻い潜りやっと外の様子が見られる最前列に出る事が出来た。
「・・・道が・・・」
北門を出て1メートルぐらいで道がなくなっており、水平線の向こうまで草原が広がっていた。
次話投稿不明




