第21話・転移の影響Ⅰ
大分、遅くなって申し訳ない。
前半、説明回
創世暦0001年8月
異世界転移、ただ単に人と街が異なる世界へと転移した訳ではない。
それをボク達は、ヴェユスから隣街に着くまでの間に体験する事になる。
その一つ目が後に『限定災害』または『極地災害』と呼ばれる事になる自然界において不自然極まる現象だ。
ボクが遭遇したのはその中でも『煉獄盆地』と称される事になる山火事で、周囲の燃える物全てを焼き尽くして尚燃え続け火元と思われるがない。
まぁ、火元まで熱すぎて近づけなかったので実際に見た訳ではないのだけど、それでも周囲がその状態で火元に燃える物が残っている可能性は低いと思う。
また、噴石や灰、溶岩を確認出来なかった事から火山の可能性も低い。
そして、その現象はいつ頃から発生したのか、また、その前兆があったのかどうか。
その事については、山の陰となっておりヴェユスから完全に見えなかったし、焼け跡に残っていた死体などから前兆がなかったもしくは気付かない程度だった可能性がある。
死体についてはほとんどが動物もしくは魔獣で人は比較的少なかった。 そして、死体全ては完全に炭化した状態だったと付け加えておこう。
もし、前兆があったならヴェユスに逃げてきた人は少数ながらいる筈だし、ボク達は山を登っている最中に逃げ出した動物や魔獣に遭遇する筈だ。
ちなみに火元がある場所は、町だった様でその規模からプレイヤータウンと思われ、人口は百人足らずと思われる。
でだ。 それを踏まえるとボク達が見つけた人の死体は二十人前後だったので、八十人近い人の行方が分らないままと言える。
ボクとしてはうまく逃げおおせてどこかの街にいると思いたい。
さて、その『限定災害』だが、ネタばれすると、この『煉獄盆地』を含め全部で九つ発見される事になる。
『煉獄盆地』
『砂上吹雪』
『奈落海底』
『冥闇草原』
『天空群島』
『雷雲都市』
『暴食洞窟』
『天上楽園』
『切裂水道』
この九つに共通しているのは――。
”何かしらの属性が関与している”
”広い範囲ではない”
”元の地形に関係しない”
”範囲外には(直接的な)影響がない”
”発生源・原因が不明”
”入って帰った者はいない”
”発現した時期が不明”
これが何なのかボクはその答えを知っているけれど、後々これらが関係する話をするのでそれまでは伏せておく事にする。
次、二つ目は、街の転移だ。
ボクの住んでいたヴェユスは無事(?)に転移出来たけど、無事ではない街も当然存在していた。
それが今からする話で『煉獄盆地』の原因究明を断念し、ボク達はまた北へと進路を取った後の事だ。
『煉獄盆地』から北へ渓谷をひたすら歩き三時間ほど経った時、少し標高の高い道なき道の先に街らしき物を発見した。
でも、街とするには余りにも荒廃していた。
建物の九割は半壊し、人々には活気がなく歩いている者も皆下を見ていた。
という事もあり、街に来訪したボク達三人に気付く者はいない。
目の前を下を向きブツブツと何か独り言を言っている老人にイカロスさんが声を掛ける。
「失礼、ご老人。 この街に何があったのですか?」
「・・・あ?」
独り言を中断しゆっくりと声のした方へ顔を向ける老人。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。 あんた達は、・・・傭兵かね」
最初にイカロスさんを見て、続いてアイリーンさん、ボクと視線を向けて格好から判断した様だ。
「ええ」
「はぁ・・・。 何があったのかワシ達にも分らんよ。 目が覚めたらこの有様じゃった。
見ろ・・・。 かつては宿場町として栄え何十軒もの宿屋がメインストリートを埋め尽くしていたのにっ!!
メインストリートどころか宿屋のほとんどが谷底、唯一残った宿屋も半壊状態、ワシ達の住む住居も谷底か半壊じゃ・・・。
もう、どうしたらええのか分らん。 活力のある若者はほとんど街を出おった。 残ってるのはワシの様な老人や女子供だけじゃ」
老人は嘆き涙を流しながらこの街に起こった事を全て吐露した。
「・・・」
ボク達もどう老人に声を返したら良いか分らず沈黙してしまう。
「残念ながら、もうこの街には何も残っておらんし、相手をしておる余裕もない。 あそこにある教会なら誰もおらんし好きに使うと良いじゃろ」
老人が指し示したのは渓谷を挟んだ反対側、今にも切れそうな簡素な橋を渡った先にある。
「ああ、橋は一人ずつな・・・。 アレでもワシ達の命を賭けて架けたんじゃ・・・」
老人の忠告を素直に受け入れボク達は一人ずつ橋を渡った。
まぁ、アイリーンさんが渡った時、橋を固定していた縄が限界まで伸びていたけれど何とか渡りきれた。
その時の老人の口から時折「ああっ!!」「ああ!?」と言った声が漏れていた。
何とか橋は耐えた様だけどやはりアイリーンさんでは重過ぎた様だ。
「ここも半壊していますわね」
アイリーンさんがそう言った様に、教会もまた半壊しており剥き出しの山肌と合体した様に建っている。
「まぁ、屋根は崩れて無さそうだし雨風は凌げるんじゃないですか?」
「ここでは屋根があるだけ贅沢でしょうし、文句は言えませんね」
転移の影響だろうか若干傾いた扉を開け中に入る。
教会の中は、外から差し込む光以外の光源なく薄暗い、また外から見た通り山肌が教会の中を貫いていた。
老人は中に誰もいないと言っていた様だが、先客らしき女性が並べられた長椅子の一番前に座っている。
それはそうだ。 屋根もあるか疑わしい半壊だらけの家屋ばかりの中、この教会は屋根があるのだから誰もいない筈がない。
「お邪魔します」
「先客がいましたか。 では、私達はあちらに行きましょう」
「誰かいますの??」
「「え?」」
ボクとイカロスさんは後ろへ振り向きアイリーンさんを見る。
そして、もう一度先客の女性の方を見る。
「いますよね?」
「ええ」
ボク達の見間違いではない。 その女性は確かにいる。
薄暗くはっきりとした姿を見る事は出来ないし、そもそもまじまじと見るものではない。
それでも間違いなくこのシルエットは女性のものだ。
「あら? 私が見えるのかしら」
ボク達の視線もしくは会話で気付いたのか、件の女性が後ろを振り向く。
そして、ボク達は気付く。
「人、じゃない。 精霊?」
「はじめまして、|我ら(精霊)の友よ」
椅子からふわりと浮く様に飛びボク達の前に黒いシルエットが降り立ち窓から差し込む光にて彼女の姿がはっきりと見て取れた。
その姿は特徴的で折り畳まれた片翼の黒い翼、服らしき物は何も着ておらず大事な所を布一枚で奇跡的に隠し切っている。
また、目元は黒い布で目隠しされており、舌には黒い魔方陣の様なものが描かれている。
もし片翼でなければ、その姿は天使と呼ばれる者に酷似している。
イカロスさんは女性なれしているのか真っ直ぐ彼女を見ている。
ボクは生物学上女の子であるが、直視し辛い格好だ。
「私は精霊使いでないですし、お嬢様とあちらへ行っておきますね」
「え、イカロスさん?」
イカロスさんは「後は任せます」と口パクで伝え、アイリーンさんと共に奥の方へ歩いていった。
「私は、闇の精霊アーグラ、と言っても今は私しかいないけれど。 お嬢ちゃんは?」
「アキラ・ローグライト、傭兵です」
「そう。 気になったのだけど、貴方珍しい血が混ざっているわね」
「母が古代エルフ族です」
「やはりね。 尾嬢ちゃん、精霊使いでしょ。 どう? 私と契約しない?」
「まぁ、初心者マークですけど。 それよりも良いのですか? 契約には精霊に関係する対価が必要だった筈」
対価は、最初に一回だけで良い場合と随時召喚時に必要な場合の二種類がある。
ザキラの場合は、ゴミ溜めもとい裏路地からの脱出の事なので最初の一回だけで良く以降の対価が必要ない。
信頼関係または信頼度の強化、召喚回数やら精霊たちの好みやらが関係していて、それは精霊ごとに違う。
ま、契約してから数度ザキラを呼び出しているが信頼関係が良くなった感じが微塵もない。
やはり、ほとんど活躍しないまま|呼び戻し(強制送還)しているのが原因なのかも知れない。
そもそも、直線的に突撃し過ぎなのよね。
「そうね。 私は人肌が恋しいのよ」
「はぁ」
「召喚する毎に抱かせて貰えれば良いわ」
「は、い!?」
「勿論、性的な意味はないわよ。 そうねぇ」
目の前の精霊アーグラは、突然闇に溶けるように姿を消し、ボクに纏わり付く様に背後から黒い靄が現れそれが精霊アーグラとなる。
「こんな感じ」
精霊アーグラの声が耳元から聞こえた。
ちなみに右手は右肩から左胸に掛けてのび、左手は腰上に巻き付いている。
当然、今はエルフにしか見えない霊体状態なので重さが全くなく何かが巻き付いている気配があるだけ。
「どう? これだけで契約出来るのよ。 お買い得じゃないかしら」
「まぁ・・・、そうですね?」
「じゃ、契約しましょ?」
精霊アーグラはいつの間にか背後からボクの正面に立ち、真剣な表情でボクを見下ろした。
「ふぅ・・・、古の誓約に基づき闇の精霊アーグラと契約を結ばん。汝の名は・・・フロイデ。 我が名はアキラ・ローグライト」
「嗚呼、お嬢ちゃんとの繋がりを感じるぅ~」
フロイデと名付けた精霊アーグラは、恍惚とした表情で悶えながら闇へと姿を消していき、最終的にはボクの影へと吸い込まれていった。
目を閉じればフロイデがボクの中にいる事を感じられる。
ザキラ「おっ、新入りかよ。 よろしくな」
フロイデ「・・・チッ(蛆虫を見る様な眼差し)」
※契約前の精霊は、エルフ系にしか見えません。




