第19話・1stエピローグ
創世暦1208年4月
「ふぅ~、ここで一旦休憩を挟もう・・・って、寝てるし」
両脇と向かい側に座っている四人のメイドは、すでに熟睡していた。
「ハイッ、あたしは聞いてますデス」
「ふぁあ・・・、国王様、話長すぎぃ」
奥のテーブルに座っていた四人の内二人もすでに寝ているが、残りの二人は起きている様だ。
その内の一人アイラは、目をキラキラさせまだまだ聞き足りない様子。
もう一人ミリアニアは、眠たそうな目で欠伸をしながら今にも寝てしまいそうである。
「長すぎって・・・、長くなるって言ったじゃん」
「もう深夜の一時ですよ?」
「え? もうそんな時間?」
「ハイッ」
元気すぎる彼女アイラは、赤い髪に大きめの瞳、背はボクより若干低め、他のメイド達とお揃いのメイド服に身を包んでいる
彼女は、幼少の頃より暗殺者として育てられ八十歳過ぎた頃、ボクの暗殺命令で一昨年この国へ来た。
まぁ、来たは良いけどボクの周りにはすでに三百人近い護衛のメイド達がおり、暗殺する機会が訪れる事はなく焦った彼女はドジを踏み無事ボクらの仲間となった。
この国にいるメイドの暗殺者の六割は、元々ボクへ差し向けられた暗殺者達だ。 同じ匂いを持った者など一目で分る。
で、ハーフエルフとはいえ八十歳にもなればそれなりに大人としての自覚があるものだが、彼女は暗殺以外は本当に無垢な少女だった。
この二年、ボクとメイド達で洗脳を解き大切に育て大分教養が身に付き行儀正しい良い子に育った。
何かしら意見や主張する時は、必ず手をあげて「ハイッ」と言う癖が付いている。
その姿が何とも可愛らしくつい甘やかしたくなる。
「えっと、何? アイラちゃん」
「質問イイデスか?」
「質問? いいよ」
「う”ぁ~ちゃるえむえむお~とかよく分らない単語いっぱい出てきたデス」
「はぁい、私も分らないで~す」
ミリアニアの方は、すでに半分寝ており顔を伏せたまま手首だけを上げる。
百十三歳とエルフ族としては若手であるが、紅銀色の髪と細長い目が彼女を大人びて見せている。
ミリアニアは元々傭兵だったのをボクがスカウトをして今に至る。
ボクは時々・・・結構な頻度で五大老の隙を見つけては城を抜け出し傭兵として活動している。
まぁ、活動と言っても新人教育がメインだけど・・・。
それに彼女はボクの友人であるエミリアの孫であり、覚えていないだろうけど幼少期に何度も会っている。
祖母譲りの見事な二刀流剣士だ。
「あ~、これ答えようがないから気にしなくて良いよ」
「ハイッ、気にしないデス」
「え~。 じゃぁ、私からも質問いいですか?」
「ん、良いよ」
「勇者イカロスと聖女アイリーンってもしかして・・・」
「うん。 白の王国ことブリストン・アスター神王国の初代国王と聖王の事だよ」
「御伽噺だと思っていました・・・」
アイラやミリアニアなど若い世代にとって建国当時の話など御伽噺や神話に近い。
実際、当時を面白おかしくした数多くの作り話が存在し、建国前や建国当時などの実話も同程度のものに思われている。
また、ヴォルトら『八迅』の事やボクら『八色』なども絵本で描かれており寝物語としてよく語られている。
「初代聖女様って絶世の美女で描かれていますけど嘘なんですね・・・。 残念です」
「まぁ、作り話としては、見目的に漢女よりも美女の方が良いからねぇ。
勇者の方もチャラ男でハーレムを侍らせていたっていう話あるけど、これも嘘だよ」
「良かったぁ。 嘘だと信じていました」
勇者や聖女は、今も昔も少年少女の憧れである。
何故か分らないが今代の勇者・聖女が国王と聖王になるとブリストン・アスター神王国内から新たに次代の勇者と聖女が選出される。
血は関係なくどういう選定方法なのか分らないが、その二つ名を受け継いだ彼ら彼女らは後に次代の国王と聖王となる。
まぁ、今や勇者と聖女は、形骸化されており神王国以外では何の意味も持たず、多くの人にとってあくまでも御伽噺のヒーローとヒロインなのだ。
「『八迅』って作り話じゃなかったんですね」
「そもそも、雷迅のヴォルトはボクの父様だし、聖迅のアヤカは宰相の事だしね」
「名前が同じだって薄々は思っていましたが、宰相様が『八迅』だったんですね」
「ここはエルフの国だからね。 結構、御伽噺に出てくる登場人物は身近にいるものでキミの祖母だってその一人だよ」
「祖母も?」
「『紅髪の双鬼』って結構面白い読み物だったよね」
「はい、私のお気に入りです」
「事実から大分脚色されているけど、あれはエミリアの話なんだよ」
「ハイッ、アレ面白かったデス」
「ふふ、そうだね」
ミリアニアは、自分の祖母が物語の主人公だった事が嬉しい様で、それが面白かったというアイラを感謝を込めて頭を撫で回す。
アイラは、気持ち良さそうに目を細めた。
「あの・・・、最後に出てきたザキラって・・・」
「演習で結構呼び出している精霊だね」
「ぷっ、俺様参上って本当に言ったんですか?」
「うん」
「それで瞬殺とか・・・、凄くバカっぽいですね」
「ま、実際バカだからねぇ」
「・・・幻滅、デス」
『やめてっ。 俺のイメージ壊さないで』
精霊使いと精霊の関係は、より深く親交する事でお互いを理解し信頼関係が生まれる。
その過程で最初少ししか力を貸してくれなかった精霊も最終的に実力以上の力を貸してくれるようになる。
それに伴い精霊らしい威厳のある姿に変化していく。
つまり、アイラ達の前に姿を現したザキラは尊敬に値する姿をしており、ましてやリーゼントに特攻服などバカらしい格好をしていない。
ちなみに、今のボクに対する呼び名は「お嬢」で自称は「俺」になっている。
「まぁ、この先の話にザキラが度々登場するし、彼がどう変化していくのか楽しみにすると良いよ」
「ハイッ」
アイラが元気よく手を挙げる。
「ん、何?」
「眠いデスッ」
「そっか。 じゃ、話の続きは明日にしよっか。 って、ミリアニア寝てるし・・・」
「zzZZ」
この話で再構成終了と共に第一章の終了とします。
次章からこの章と同じ様にプロローグとエピローグを現代、本編を過去という様な感じで投稿していきたいと思います。
また、幕間として現代篇の短編を投稿する予定(未定)です。