第18話・俺様参上!
この前のチンピラとは違い腐っても彼らは傭兵だ。
でも、手加減をしていたとは言え、イカロスさんから一太刀を入れる事が出来た。
やって出来ない事はないだろう。
チラリと二人の方を見る。
すでにアイリーンさんがメイスで一人を潰していた。
イカロスさんは、アイリーンさんの死角を補う様に戦っている。
ただし、こちら側にいる傭兵には見向きもしていない。
となると、あちらへ傭兵を一人たりとも行かせる訳にはいかない。
責任重大だ。
『俺様の力を貸してやろうか?』
(ええ~!?)
初めて契約した精霊ザキラの声がボクの脳内に響く。
契約をしたが今まで使う機会がなかった為、すっかりと存在を忘れていた。
『ちょっ、ええ~って何だよ。
俺様は精霊だぜ? 性根の腐った傭兵なんて俺様の足元にも及ばねぇぜ』
(ほんとに出来るの?)
『ああ、任せな』
どうしようかと迷う。
相手の力量を少しでも分れば良いのだけど、ゲームの様にそういう情報が一切存在しない。
勿論、ボクの月守夢想流には自信があるけれど、ヴォルト時代の様な絶対的な自信ではない。
だから、斬り洩らしがないとも言い切れない。
少しでもその可能性を低くするならザキラの力を利用しない訳にはいかないだろう。
(仕方ないな)
「我は望む。我が親愛なる風の精霊ソードレス」
「あん、なんだぁ?」
ボクを中心に風を巻き起こる。
風が下から上へと舞い上がっている為、ボクの髪が逆立っている。
「我の呼びかけに応えよ。 我の名はアキラ」
「あ、まずいっす。 これ精霊魔法っすよ」
風の力が強まっていき、本来視認する事すら出来ない筈の風が淡い緑色に発光していく。
「汝の名はザキラ」
「な!? ちぃ」
風が弾ける。
ボクの目の前にザキラが立っている。
「俺様、参上!!」
召喚と同時に彼はそう言いながら両手の親指で背中を指す。
その指先を辿っていくと彼が着ている特攻服の背中にも何故か「俺様惨状」と赤い糸で刺繍がされていた。
漢字が少し違う様に見えるけど、多分、意味を知らないで難しい漢字にすれば良いんじゃね的なノリなんだと思う。
傭兵らの前まで蟹股で歩き30センチ以上も前に張り出したリーゼントを上下に揺らして威嚇する。
「オゥ、オゥ、オゥ? やんのかコラッ!!」
威嚇しているつもりの様だが、場の雰囲気は微妙な空気が漂っている。
緊張感なんてものは一切ない。
なんせ本人以外吹き出しそうになるのを耐えてるからだ。
「んだ、てめぇ。チンピラ風情が舐めんじゃねーぞ。 オラァ!」
お前がそれを言うか・・・と、誰もが思っているだろう。
ボクもその一人だ。
「プフッ」
あ、やばい。
ザキラが顔を上下する度に揺れるリーゼントを見てつい吹き出してしまった。
「ん誰だ? 笑った野郎はぁっ!!」
ボクです。
「おい、チンピラ」
「ああん!? チンピラはテメェだろう!」
傭兵らの挑発で簡単に乗ってしまうザキラ。
ボクから見れば、どんぐりの背比べでしかなく、どちらがチンピラであろうと構わない。
「やるのかやらないのか、早く掛かって来い」
「ぷっち~ん。 俺様キレちまったぜ。 もう、誰にも止められねぇ。 土下座しても許さねぇ」
傭兵の方はかなり冷静の様だ。
逆にザキラは、煽りに弱すぎる。
なんでそれだけのやり取りでキレてしまうのだろう。
「はいはい。 ほら、来いよ」
「上等だぁーー!!」
ザキラは、サラシに差していたドスを抜き両手で柄を持ち構える。
相手は腐っても傭兵、持っている武器も長剣だ。
果たしてあのドスで届くのだろうか・・・。
「死に晒せぇぇぇぇぇぇ、ぁ、ぷげらっ!?」
ドスを構え一直線に傭兵へと突撃したザキラは、後数センチで届く前に長剣によって上へとドスを巻き上げられ、
あっさりと袈裟懸けにより一撃で斬り伏せられ消えるようにザキラはこの場から退場した。
『今日は、このぐらいにしてやらぁ!!』
ザキラの声は、ボクにしか聞こえないにも関わらず捨てゼリフを吐く。
「・・・」
正に静寂、あまりにもヒドイ出オチの所為で場は白けてしまった。
ザキラにあまり期待はしていなかったとはいえ、流石に召喚してから退場まで一分も満たないとはボクも予想が出来なかった。
ボクは後ろで戦っているアイリーンさんの方を見ると、二人だけでなく賞金首達も動きが止まり唖然としている。
「えっと・・・、ほら、余興って大事だよね」
「必要ありませんわ」
◆◆◆
ボクと対峙するのは八名の傭兵。
実力として中堅といったところだろう。
長々と戦闘を続けるのはボクの性に合わないでの、殺るなら最短時間を目指す。
朧龍天照の鞘を左手で掴み、右手を柄に添える様に置く。
そして、腰を落とし右脚を前にして腰を捻る。
ボクの十八番である抜刀術の構えだ。
それを見た傭兵達は警戒する。
E/Oの時もそうであったが、刀という武器自体を使っているプレイヤーは多くない。
そもそも、E/Oにはかなり武器の種類が豊富なのでオーソドックスな武器以外を使っているプレイヤーは必然的に少数となる。
というより、刀がE/Oの一般的な名称としてイスカ刀と呼ばれているとおり、イスカ王国が起源となる武器である。
イスカ王国は、陸の孤島とも呼ばれており、半島ながら大陸との間に高い山が聳えたっていて流通で陸路を用いる事がない。
その所為もあってイスカ刀自体、世界中の市場に出回ったとしても流派が世界に広まる事がなかった。
まぁ、それもE/Oであった頃の話で異世界転移により街の位置がランダム化してしまった今は関係のない話かも知れない。
つまり、何を言いたいかというと彼らにとって未知な流派という事である。
前時代の戦争に参加しヴォルトを見ていたとしても、そこからボクに繋げられるとは思えない。
八人の傭兵は、密集隊形から扇隊形へと位置を変更する。
ボクの流派は、相手が密集であろうと扇であろうと大して変わらない。
強いて言うなら散開状態の敵が苦手である。
・・・苦手であって不得意という事ではなく、めんどくさいというぐらいだ。
右手を添えていた柄を軽く掴み少し手前へ引く。
『肆乃太刀』
縮地法によって一瞬で間合いを詰め回転抜刀術を繰り出す。
前方にいた二人を纏めて斬り伏せ、左右に広がった六人をランダム軌道で跳ぶ三枚の光波で斬り刻む。
すぐに傭兵達の状態を確認して両端の二人が傷の浅い事を確認する。
そして、素早く納刀し、左へ一歩前進して左端の傭兵へ『伍乃太刀』で鳩尾に柄を叩き込む。
さらに縮地法へ右端の傭兵へと間合いを詰め『壱乃太刀』で斬り伏せる。
最後に血振りをし鞘へと刀を納める。
計三回の攻撃を繰り出した訳だが、この間の時間は僅か二秒しか経っていない。
端から見るとボクの姿が掻き消えたと思った瞬間、光波が周囲を凪ぎ傭兵達が倒れた様に見えるだろう。
ある者は上半身と下半身がお別れし、ある者は何か細いもので切り刻まれ、ある者は右脇腹から左肩まで両断されている。
「ひぃっ」
後ろの方へ短い悲鳴が聞こ後ろへ振り返る。
当然、あちらはまだ終わっていない。
しかし、アイリーンさんとイカロスさんの容赦のない攻撃は、確実に賞金首の戦意を削ぎ落としていた。
数名が彼らから逃げる為にボクの方面へと駆け出した様だが、傭兵達が一瞬で死に巻き添えで先頭で逃げていた賞金首の首から上が地面へ落ちたのを直視してしまい腰を抜かした様だ。
そこへ頭に血が上ったアイリーンさんが、腰を抜かした賞金首の後ろから一人ずつ確実にメイスで挽肉へと変えていく。
まさに彼らにとって地獄と言える様だ。
「た、たしゅぶフッ」
涙目になりながら命乞いをした傭兵もアイリーンさんのメイスで頭から腰に掛けて潰れる。
アイリーンさんのメイスは賞金首達の血肉がこびり付き、ピンク色の法衣も裾がドス黒い色に染まっている。
背が高く身体も厳つい為かまるでオーガにしか見えないと思いながら、もうすぐ決着が付きそうな一方的な虐殺を眺めた。
◆◆◆
戦闘が終わりボクら三人の格好を見比べる。
おかしい、聖女(自称)がいなくなり殺人鬼(他称)が生まれている。
勿論、ボクとイカロスさんは返り血一つない状態だ。
どこにあるかまだ分らない街へ入る為にアイリーンさんの格好をどうにかしなければならない。
元から街を出るまでの予定だったので一章はここまでにします。
ですが、戦闘回が少なかったので今回の話を入れました。
そして、この後ですが、二章に入る前にE/O同様に設定の公開(一章分)
改稿および大幅修正をするつもりです。
大幅と言っても話の本流は変えません。
構成の変更という感じです。
Re/Oの話を回想録として未来の話をプロローグとエピローグと幕間にします。
まぁ、いつになるか分らないRe/O完結後の後日談を前倒しするという事です。
構成変更に伴い0話から2話を削除、新プロローグに置き換えとエピローグ追加する予定です。