第15話・ボクの出来る事
(明日は)メリークリスマス!
2016/02/14・・・設定に基づいて砥石の値段を変更
「店の外見は素朴でしたけど、味はまぁまぁですわね」
「美味しいですね。 お嬢様」
馴染みの店に入り奥さんおすすめの料理を三人分とサイドメニューをいくつか頼んだ。
そして、最初不安な表情をしていたアイリーンさんは、一口食べると不安な表情が一変し美味しそうに食べている。
アイリーンさんは、身体に似合わず非常に上品かつ優雅に食べており一口で食べる量も少量だ。
また、ソースの掛かっている料理を口にする度に口元を拭いている。
余りにも自然なのでリアルのアイリーンさんは、本当にお嬢様なのかも知れない。
イカロスさんは、普通に食べていたが予想以上だった様でアイリーンさん同様に美味しそうな表情をしている。
アイリーンさんと違いボク達と同じ様に食べている。
「はい、お待ちどうさん。 安い酒だけど我慢しておくれ」
奥さんは、テーブルの前に来ると二人分の酒とミルクを一人分テーブルに置く。
当然、残念ながらボクの前にはミルクが置かれる。
一応この世界では十五歳で成人なんだけど何故かボクにはミルクしか来ない。
どうも、父様が何か余計な事を言った様だ。
奥さんと談笑していると騒がしい一団が店内に入ってくる。
服装からして傭兵だろうか、見た事のない顔ばかりだ。
顔が赤い者もいる事から店を梯子しており、この店も何軒目かなのだろう。
「よう、店主。 この店で一番高い料理を人数分と酒を用意してくれ。 金は十分あるからよ」
ズシリと重そうな革袋をカウンターに置く。
大衆食堂と言っても良い店だが、値の張る料理も当然あり一番高い料理となるとそれなりの値段となる。
大見得をきった事だし恐らく中身は金貨だろう。
おっちゃんは、一瞬眉を歪めたがいつも通りの口調で「あいよ」と返事をし料理に集中する。
「なんか騒がしくなっちまったねぇ。 で、話は変わるけどそこの男前さんは、もしかして勇者様かい?」
「・・・ええ、そうですよ。 お美しいお姉さん」
「あらやだ。 美しいだなんて・・・。 あたしがもう十歳若かったら惚れちまいそうだよ」
年甲斐も無く奥さんは顔を赤らめて体をくねくねと動かす。
おっちゃんが「チッ」と舌打をしたのは内緒である。
また、酔っ払いの傭兵達も聞いていた様で「ぎゃはは、勇者だってよ」等と爆笑している。
「で、そっちの神官様は、聖女様かい?」
「ええ、そうでしてよ」
おっちゃんは、チラッとこちらを見ただけでまた料理に集中しだす。
それとは逆に酔っ払い傭兵達は「ぎゃはは、冗談だろ」等とこれまた爆笑しているが、アイリーンさんの一睨みでシュンと静かになった。
「お酒を出しちゃまずかったかねぇ?」
神官は世間一般的に禁酒をしている事が知られている。
「お気になさらず。 私は、一般的な神官ではないですわ。 ただの衣装と思って下さいまし」
法術使いのプレイヤーは、本来の職業に関わらず法力にプラス効果のある神官服(修道服)を着る事が多い。
傭兵をしている法術使いは、ほとんどがなんちゃって神官だったりするのでアイリーンさんも恐らくその部類に入る。
勿論、神官服や修道服以外にも法力にプラス効果のある服や装飾品もある。
ただ、一番手に入りやすく効果が高いのが神官服や修道服で、セット効果でさらに倍増なんて事もざらにある。
アイリーンさんの服装が下から上まで修道服なのも、その辺が理由だろう。
実際、本当の神官なんて各地を旅する事はなく、大体、各町の教会にいる。
ましてや、一般人と一緒に食堂で飲み食いする者はいない。
さて、奥さんと酔っ払い傭兵との間にアイリーンさんとイカロスさんに対する反応の温度差があるのには訳がある。
端的に言えば元NPCか元プレイヤーかの違いだろう。
逆に言えば、この反応の仕方で見分ける事が出来る。
基本的に二つ名持ちのプレイヤーに対するNPCの反応は、プレイヤーからすれば過剰と言える。
良い方向の二つ名持ちに対するNPCの好感度は、無条件で高く設定されており、ましてや勇者や聖女だと崇拝にすらなってしまう。
逆に悪い方向の二つ名だとNPCの好感度は、無条件で低く設定されており、虐殺者や悪逆など如何にも悪党といった感じだと畏怖や恐怖となる。
対してプレイヤーの場合、良くて尊敬や憧れかもしくは嘲笑で、悪くて嫌悪や精々近付かないでおこう程度だ。
しかも、プレイヤーそれぞれで感じ方も違う。
「そりゃ、良かった。 大した料理は出せないけど楽しんでいっておくれよ」
奥さんは一言言った後、カウンターの奥へ戻っていった。
◆◆◆
現実になってもやはりこの食堂は美味しかった。
二人も満足してくれたので何よりだ。
ただ、帰り際の酔っ払い傭兵達の厭らしい視線が気になったが、後をつけてくるという様な事はなく無事に自宅へ着きその日はそのまま寝た。
翌日は明日に備えての準備となる。
二人は、早朝から出掛けており、現在自宅にはボク一人しかいない。
で、今回、アイリーンさん達のパーティに加わる事になったのだが、ボクの出来る事を考える。
メインになるのは、勿論アイリーンさんの護衛なので考えるのはそれ以外だ。
まず、料理が出来ない。
いや、出来るけど料理で人を殺せそうな予感がするのでしない。
というか、家事全般?は、イカロスさんが出来そうな気がする。
「バトラーマスター」とか自称していたし・・・。
そう言えば、旅の間、武器のメンテをろくに出来なかったとイカロスさんが言っていたな。
ボクとしては、将来的に「分解」と「組立」を覚えたいし、「修理」を担当するというのも悪くないはずだ。
それ以外は・・・、何も思い付かない。
いや、むしろない。
取り合えず、地下に行って修理道具を探そう。
ここ四世代は、修理に関わっていないので完全に度忘れしている。
捨ててはいない筈なので、絶対どこかにある筈だ。
一番ありそうな所は、やはり鍛冶道具が設置してある場所で、その中には壁沿いに小道具などは専用の机の引き出しや背の低い棚が置いてある。
手当たり次第に引き出しを開けていくと一番下段に革製の丈夫な鞄に入った修理道具が出てきた。
開けてみると定番の砥石や分解および組立用の小道具が入っており、四世代放置していたにも関わらず状態が良いように思える。
鞄の中には、砥石が一個しか入っていないので予備として数個を道具屋で購入し追加しておこう。
「こんにちは。オッさん」
「ぉ、久しぶりじゃないか。 ヴォ・・・じゃねぇな、アキラちゃん」
「最近どうですか?」
「どうもこうもねぇよ。 転移してから全く商品が入荷しねぇから困ったもんだ」
居住区から少し歩いた外れにある道具屋、ここを拠点にしている傭兵の御用達でヴォルト時代にお世話になった商人プレイヤーの一人だ。
フルネームがオッサン=ブルーティンなのでオッサンさんと呼ぶのが煩わしく皆からオッさんと呼ばれている。
「で、今日は何がいるんだ? って言っても大体の物は売り切れだがな」
「砥石ありますか?」
「あ~、それならあるぜ。 何個欲しい?」
「え~と、そうですね。 五いえ六個ほど売って貰えますか?」
砥石一個で一回しか研げないという事はなく、数回から十数回使用出来る。
一回の戦闘したからと言って必ず研がないといけないという事もなく、五・六個買えば一ヶ月ほど大丈夫だと思う。
また、砥石自体の大きさも大きくないので他の荷物を圧迫するという事もない。
強いて欠点を挙げるとすれば、本格的な刃毀れなどには対処できず応急処置以上の事が出来ないぐらいだろう。
ただ、今のボクの技術ではそれで十分であり、元々応急処置以上の事は望んでいない。
「おぅ、んじゃ、砥石六個で60シルバー、だが50シルバーで良い」
皮袋に砥石を六個入れカウンターの上に置く。
その横に1ゴールドを置き、砥石の詰まった皮袋を手に取り腰へ繋ぎ止める。
「ほれ、お釣りで50シルバーだ。 まいどっ!」
1ゴールド(小金貨一枚)をカウンター裏に入れ代わりに50シルバー(大銀貨一枚)を取り出す。
ボクはそれを受け取りポーチの中へ押し込む。
「ありがと」
「おぅ、また来てくれよ」
多分、今年最後の投稿となります。
年末にもう一回ぐらい投稿したいけど多分ムリでしょう。