表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/58

大和と久遠 3

 

 大和の後を付いて、久遠は山の中を歩く。

 暫くすると、一軒の家が見えてきた。

『……ここは……』

 久遠は立ち止まって、その家を見詰める。

 大和は無言で家の戸を開けた。

「…………」

 部屋を覗くが――中には誰も居ない。

 どうやら二人で出掛けているようだ。

 買い物にでも出ているのだろう。

「……ちょうど良い」

 大和は家の中へ入ると、久遠に手招きする。

「ほら。入れ」

『……でも……ここ……』

 躊躇いがちに久遠はその家に足を踏み入れ、

『……人間臭い……』

「そりゃ人間の住んでる家だからな」

 顔をしかめる久遠は放っておいて、大和は鬼の刀を部屋の隅に立て掛けた。

『…………』

 久遠は落ち着かない様子で、キョロキョロと辺りを見回す。

 その久遠の目の前に、大和は細長い桐の箱を差し出した。

「やる」

『……何だ……? これ……』

「開けてみろ」

『…………』

 久遠は言われた通り、箱を開ける。

 恐る恐る中を見ると、白い布で丁寧に包まれた何かが入っていた。

 包みを解くと、そこにあったのは――

『これ……鬼様の角……?』

 久遠が訊くと、大和は頷いた。

「それならお前でも持って行けるだろ。刀は俺が預かってやるよ。あの刀で斬る事はしないし、手入れもしといてやる」

『…………』

 久遠は呆然と大和を見詰める。

 渡された角を見詰め――久遠は大和にそれを押し返した。

『これは……鬼様がお前にって渡された物だ……これは受け取れない』

「……渡された物をその後どうするかなんて……そんなの俺の勝手だろう。それに……あの鬼がそんな事気にするか」

『でも……っ! これは鬼様がお前に渡したんだっ!』

「…………」


 

 激しくかぶりを振って叫ぶ久遠に、大和は肩をすくめる。

 久遠は俯いて、くぐもった声音で呟く。

『……でも……ありがとう。気持ちだけは貰っておいてやる』

 顔を上げ、壁に立て掛けられた刀を見やる。

『あの刀も……お前が持っててくれるなら、きっと鬼様も喜ぶ。俺が持ってても……どうせ他のヤツに取られるだけだし……』

「…………」

『だから……鬼様は……俺には何も渡さなかったんだ……』

 それを聞いて、大和は深々と嘆息した。

「……それはどうだろうな……」

『……何?』

 久遠は怪訝な表情で大和を見る。

 大和は腕組みして、

「俺はあの鬼の事はよく知らない。あの鬼について知ってる事と言えば、恐ろしく強いって事だけだ」

『…………』

「あの鬼は強かった。お前が憧れるのも分かる。俺だってあの強さには恐れを感じた……でもそれ以上に強く惹かれるモノがあった。俺が妖で……今も一人なら……俺もあの鬼に付いて行ったかもな」

『…………』

 大和は自分の刀に手を触れさせ、

「……あの鬼は自分の死の間際に、そいつが弱いから形見は渡せないとか……そんなつまらない事は言わないだろ。本当に信頼出来る者なら……強いか弱いかは関係無い」

『……俺は……信頼されてなかったって事か……?』


 

 涙を浮かべ、訊いてくる久遠に、大和はかぶりを振った。

「そうじゃない。あの鬼は……お前に、もっと別のモノを遺したんじゃないのか?」

『……別のモノ……?』

「例えば……もし、鬼がお前に何か渡したとして……お前はそれからどうする? 形見を眺めて昔を思い出して……ずっと泣いてるんじゃないのか?」

『…………! そっ……そんな事……!』

 久遠は立ち上がって反論しかけたが、いざ想像してみると、『そうではない』とは言い切れない。

 もし、手元に鬼を偲ばせる物があったら――それを眺めない日は無いだろう。

 昔を思い出して、涙を流さない日は無いだろう。

『…………』

 黙り込む久遠に、大和は続ける。

「……そうやっていつまでも過去に縛られて、お前はちっとも先へ進めない」

 鬼の角を包み直し、

「だからあの鬼は、敢えてお前に“形”のあるモノは渡さなかったんだろう」

 大和は包み終えた角を箱に収め、蓋をする。

「忘れない事と、それを引き摺る事は違う……」

『…………』

「鬼は最後に……何か言ってなかったか?」

『……何か……?』

 久遠は口元を押さえた。

 鬼が最後に言っていた事。

 ――好きに生きろ。

『……あ』

「……鬼がお前に何を言ったか知らない。でも……あの鬼はきっと……お前に最も必要なモノを遺したはずだ。お前が先へ進めるよう……お前が“生きられる”ように……」


 

『……鬼様……』

 久遠は俯いた。

 そこまで言って、大和はぽつりと漏らす。

「……真実、鬼が何を考えてたのかは分からない。あの鬼なら、単に角を両方折ったら見て呉れが悪いとか言いそうだし」

『そっ……それはちょっと言いそうかも……』

 言われて、久遠はかぶりを振った。

 顔を上げて、

『……やっぱり……角も刀もお前が持ってろ。鬼様が……本当に“そう思って”俺に渡さなかったのだとしたら……ここで受け取ったら、鬼様の気持ちを無駄にする事になる』

「…………」

『俺は……鬼様の事は絶対に忘れない。ずっと……ずっと忘れない』

 久遠は大和の目を見据える。

『お前の事も……鬼様はお前を恨むなって言ってた。だから、お前の事は好きになれないけど……恨まないように努力する』

「良いんじゃないか。それで」

 大和は箱を仕舞う。

 それを見て、久遠がモジモジしながら呟いた。

『でも……あの。ひとつだけ……』

「何だ?」

『その……時々……刀とか……見に……来てもいいか?』

「……好きにすればいい」

 大和がそう言うと、久遠はパッと表情を明るくする。

 大和はひとつ付け加えた。

「でも……ここに住んでる奴は、自分の家に妖魔が出入りすると口煩いから、見付からないように……」

「誰が口煩いって?」

「……あ。お帰り」

 大和の言葉を遮るように戸が開き、大和はそちらに視線を向ける。

 見ると、買い物袋を提げた斬影が、戸口に凭れ掛かっていた。

 斬影は呆れたように、こめかみに人差し指を当てて呻く。

「……大和……お前って奴は……」

『にっ……人間!?』

 久遠は斬影の姿を見ると、ササッと大和の後ろに隠れる。


 

「…………」

 それを見た斬影は、頬を引き攣らせた。

「狐が喋っ……」

 背後に隠れる久遠に、大和は嘆息する。

「……お前……いきなり喋るなよ。黙っとけばただの狐で通ったかもしれないのに」

『だっ……だって!』

「大和ぉぉぉぉぉっ!」

「……何だよ」

 斬影は、突然叫び声をあげた。

 大和は煩そうに、そちらに顔を向ける。

「お前……昔っから妖魔を連れ込むなって言ってんのに、何で連れて来るんだよ!? お前は何で言う事聞かないの!?」

「……昔っから害のあるモノは連れて来てないって言ってる」

「害の有る無しじゃなくて!」

 と、次の瞬間。

『うるさいっ! この人間!』

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」

「…………」

 怒鳴り散らす斬影の腕に、久遠が噛み付いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ