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目指すものの先に 2

 

 それから菊助達は、毎日のように町の見回りをするようになった。

 “妖魔退治”で手に入れた妖魔の羽を胸元に差し、意気揚々と町を歩く。

「今日も町に妖魔は来てないな」

「大和も来てないね」

「……綾那。あいつの事は“ついで”だからな!?」

 何故か自分達を見ては笑いながら通り過ぎていく大人を怪訝に思いながら、菊助は歩調を速める。

「でもさ。これだけ毎日見回りしてるのに、大和にも妖魔にも会わないなんて……」

「うん。大和……どうしたのかなぁ……」

「だから……あいつの事はついで……」

 シュンと項垂れる綾那に、菊助が複雑な思いで溜め息をつく。

 ――と。

 沙月がポンと手を打ち、

「ねぇ。ちょっと町の人に話聞いてみない?」

「……えっ?」

 沙月の提案に、三人が顔を上げる。

「ほら。他の人が見てるって事もあるでしょう? 大和のお父さんって町の人と仲良そうだし」

 ――そう。

 大和は兎も角、父親の方は町の人々と親しい関係にあるようだった。

 駄菓子屋のおばあちゃんとも、茶屋の店員とも、雑貨屋のおじさんとも。

「そっか! 大和のお父さんの事が分かったら大和の事も分かるよね」

「でしょ?」

「…………」

 ぱっと表情を明るくする綾那に――と言うより、その笑顔が向けられる者に対して――菊助は不満を覚えた。

 しかし、言っている事には一理ある。

「……そうだな。ちょっと聞き込みもしてみるか」

 菊助がそう言うと、子供達は大仰に頷き、

「じゃあ、まずはあそこのお茶屋さんで聞いてみよう!」


 

 言うが早いか、子供達は茶屋に向けて駆け出す。

 菊助は渋々その後を付いて行った。


「あの~……すみません」

「はい?」

「ちょっと人を捜してるんですけど」

 子供達に声を掛けられ、茶屋の店員が振り返る。

「人捜し? どんな人?」

「えっと……」

 訊かれて、子供達はそれぞれの顔を見合わせた。

「なんて名前だっけ?」

「分かんない」

「あの……長い黒髪で、おっきくて……」

「こんな髪型で……」

「…………」

 と、子供達は身振り手振りで尋ね人の特徴を伝えようと試みる。

 店員はそれを困った顔で見詰めた。

 小首を傾げ、溜め息混じりに、

「黒髪の人って言われてもねぇ……」

 そんな人間は町にいくらでもいる。

 子供達は何やら必死な様子で、力になれるものならば手を貸してやりたいところだが――……

「あなた達の尋ね人に心当たりはない」――そう、彼女が言おうとした時だ。

「目……そう! 目を片っぽ……こんな風に隠してる人!」

 と、手前に居た少女が声をあげた。

「……えっ?」

「そうそう! 目を隠してる人!」

「目を隠してる人って……ああ!」

 子供達の言っている人物に思い当たって、店員は頷く。

 足元に落ちていた木切れで地面に絵を描き、

「……こんな感じの人でしょ? あなた達の捜してる人って」

「あっ! そう! この人!」

「お姉さん、絵上手!」

 瞳を輝かせる子供達に笑ってやって、店員は言った。

「ありがとう。この人なら斬影さんね」

「斬影さん! そうだ! 確かそんな名前だった!」


 

「お姉さんの知り合い?」

 訊かれて、店員は曖昧な様子で答える。

「知り合い……まあ、店にはよく足を運んでくれてたし。あの人、店ではあまり食べないんだけど、土産用にってウチでお団子買っていくのよ」

「その人、最近ここへ来てませんか?」

「そう言えば……ここ最近見てないわね。他に良い店でも見付けたのかしら?」

 軽く笑いながら、店員は立ち上がる。

「あの……じゃあ、白い髪をした男の子は見ませんでしたか?」

「えっ……さっ、さあ? 見てないわね」

 綾那の言葉を聞いた途端、急によそよそしくなった店員は踵を返す。

「ごめんなさい。私、仕事に戻らないと……斬影さんの事なら他の人にも訊いてご覧なさい。あの人……この町じゃ、ちょっとした有名人だから」

 そう言うと、店員はそそくさと店の奥に引っ込んで行った。

「…………」

「どうして大和の事訊くと大人の人はみんな“ああ”なんだろうね?」

 不思議そうな綾那の呟きを聞きながら、菊助はくるりと体の向きを変える。

「菊助?」

「ここに居ても、もう話聞けないだろ。他に回るぞ」

「あっ」

「待って! 菊助!」

 すたすたと歩き始めた菊助を見て、綾那達は慌てて後を追った。



「次はどこ行くの?」

「……そうだなぁ……」

 茶屋を離れ、菊助達が行く当ても無く町を歩いていると……

 ドンッ!――

「!」

 突然、角を曲がって来た男と菊助が衝突する。

 買い物袋を提げた男は、僅かによろめいただけだったが、菊助は思い切り尻餅をついた。

「いてっ!」

「菊助!」


 

 子供達は心配そうに菊助の側に駆け寄る。

 菊助とぶつかった男は短く舌打ちし、

「……ちっ。餓鬼が。ちゃんと前見て歩きやがれってんだ」

「なっ……」

「そんな言い方……!」

「俺ぁ、餓鬼は嫌いなんだよ。目の前うろちょろすんじゃねぇ」

 男は唾を吐き捨て、その場を立ち去ろとする。

 菊助は砂を払いながら立ち上がると、声をあげた。

「待てよ! ぶつかってきたのはそっちだろ!?」

「……ああ?」

 菊助の声に、男が振り返る。

「ちょ……菊助……!」

 気まずい雰囲気に、涼助が後ろから菊助の腕を引っ張る。しかし、菊助はその手を振り払った。

「あっちが悪いんだ! あっちが謝るのは当たり前だろ!?」

「威勢が良いなぁ。ええ? 糞餓鬼」

 男はぐいっと菊助の胸倉を掴み上げる。

「あっ……あの……ぶつかってごめんなさい。だから……菊助を怒らないで下さい」

 おろおろと頭を下げる子供達に、男は意地の悪い笑みを浮かべた。

「……友達思いだなぁ。お前らは。それに比べてこの糞餓鬼は……」

「なんだよ! 離せ!」

「躾がなってねぇ。こりゃあ、一発ガツンと……」

「…………!」

 男が拳を振り上げた――その時。

「んっ?……コイツは……」

 男は眉間に皺を寄せて、呻く。

 そして、男の手はスッと菊助の胸元に差してあった妖魔の羽に伸びた。

「あっ!」

「妖魔の羽か? こんなモン、どこで見付けてきた?」

 男の問いに、菊助はバタバタと手を振りながら叫ぶ。

「返せ! それは俺達が“妖魔退治”をして手に入れた羽なんだ!」


 

 叫ぶ菊助を、男は鼻で笑う。

「『妖魔を退治した』だぁ? 馬鹿な事言うんじゃねぇよ。お前らみてぇな餓鬼に倒せるワケねぇだろ」

「嘘じゃないっ! ホントに倒したんだっ!……俺と…………大和……が」

「……大和?」

 ボソボソと呟く菊助の言葉に、男は眉をひそめた。

「……おい。餓鬼」

「なんだよ! 離せ! 羽も返せ!」

 言われて――男はぱっと菊助と、奪った妖魔の羽から手を離す。

 菊助を見下ろし、

「今、大和っつったか? もしかして、そいつ……頭の真っ白いチビ助じゃねぇだろな?」

「えっ!?」

「おじさん……大和の事、知ってるの!?」

「おじ……」

 わらわらと寄って来る子供達(というか言われた言葉)に、男は顔しかめた。



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