目指すものの先に 1
気に入らなかった。
真っ白な髪の毛も、真っ赤な瞳も。
こちらが何を言っても聞き流して、取り合おうともしない無口で無愛想な態度も。
そして――
何より気に入らなかったのは、自分より強かった事。
そのくせ、それを鼻にかける事もなく、すましているところがなお気に入らない。
あんな奴、居なくてもどうってことない。
――そう思ってた。
◆◇◆◇◆
「みんなー」
「綾那」
菓子袋を手に、綾那がいつもの広場へと駆けてくる。
綾那はキョロキョロと辺りを見回し、
「なんだぁ……今日も大和居ないんだぁ……」
と、肩を落とす。
「最近、大和全然遊びに来ないね。町でも見ないし」
沙月が言うと、涼助も口を開く。
「大和のお父さんもだよ。少し前まで大和と茶店に居るの見掛けたのに」
「どうしたんだろうね?」
「あ~。大和と一緒に遊びたいなぁ」
「――……」
などと、子供達が話すのを聞いて、菊助は肩を震わせる。
そして――
「ああ~っ! もうっ! 居ない奴の話ばっかりするんじゃない!」
突然、大声を張り上げる菊助に、子供達は驚いて目を丸くした。
綾那は小首を傾げ、
「どうしたの? 菊助……なんで怒ってるの?」
「怒ってない!……怒ってないけど、お前らがあいつの話ばっかりしてるから……」
「だって……大和、もうずっと顔見てないんだよ? 菊助は大和のこと心配じゃないの?」
綾那に問われ、菊助は口ごもった。
視線を逸らし、もごもごと呟く。
「べ……別に心配なんか……」
「ねぇ。大和と最後に会ったのいつだっけ?」
「去年の秋頃じゃなかったかな? ほら、雑貨屋のおじさんが焚き火しててさ」
「お芋焼いてくれたよね」
「そうそう♪ 大和とお芋半分こにして……美味しかったな~♪」
「ちょ……」
菊助がまごついている間に、また話題がすり替わっている。
「――……! もう勝手にしろっ!」
「あっ!? 菊助!?」
菊助は一言怒鳴ると、そのまま広場を出て行ってしまう。
「……どうしちゃったのかな。菊助」
「いつもあんな感じじゃないか」
「私達が大和の事ばっかり話てるから拗ねちゃったんじゃない?」
三人は菊助が去った方を見やり、軽く肩をすくめた。
◆◇◆◇◆
広場を出て、菊助は適当に町を歩く。
(全く……どいつもこいつも大和大和って……)
胸中で毒づきながら小石を蹴る。
「…………」
少し歩いて――菊助はぽつりと漏らした。
「……でも、ホントに何やってんだろうな。あいつ」
彼はぼんやりと少年の姿を思い浮かべる。
白い髪に紅い目。
この町で、そんな目立つ頭をしている子供は他にいないから、一目見ればすぐ分かる。
遊ぶ約束などはした事が無い。
あの日もそうだ。
帰り際、「また来いよ」と皆が声を掛けても、大和がそれに応えた事は無い。
父親に連れられ――、一度だけ振り返って、それで終わり。
来るとも来ないとも言わない。
それでも、あの山登りの一件から、大和は三日に一度くらいは町に顔を出すようになった。
勿論、それに当てはまらない日もあるが。
大和が姿を見せなくなって半年。
新しく“妖魔退治”の計画を立てようとしても、先程のように大和の話ばかりで先へ進まない。
はじめは、「居ても居なくても変わらない」――そう思っていた。
だが、あの少年は自分が思っている以上に、自分達の輪の中に入り込んでいた。
本人にそのつもりがあるか無いかに関わらず。
そして、それをどこかで認めている自分がいる事に、菊助は苛立った。
「――――……」
菊助はガシガシと頭を掻き、
「ったく……下っぱのクセに何やってんだよ……!」
憤懣をぶつけて地面を蹴ると、彼は広場の方へ向けて歩き出した。
◆◇◆◇◆
「あっ! 菊助!」
菊助が広場に戻ると、子供達がこちらに駆け寄ってきた。
菊助はぽつりと一言、
「なんだ。まだ居たのか」
「何言ってるの。今日集まろうって言ったのは菊助でしょ?」
菊助の言葉に口を尖らせる沙月。
綾那は口元に手を当て、
「急にどうしたの?」
「…………」
綾那に問われ、何か言おうと口を開き掛けた菊助だが、その言葉は声に出さず、代わりに別の事を口にする。
「ホントは新しい“妖魔退治”の計画を立てるつもりだったけど……それは止めにする」
『えっ?』
それを聞いた子供達は、少し驚いた顔をした。
「止めるのか?」
「菊助、あんなに行きたがってたのに……」
それぞれが思い思いの事を呟く中、菊助は溜め息混じりに、
「お前らがそんな調子じゃ、行っても怪我するだけだ。だから……暫くは町の見回りをしようと思う」
「……町の見回り?」
涼助が訊き返すと、菊助は頷いた。
「そうだ。あの山火事があってから、この町の近くに危険な妖魔が下りて来てるって噂もあるし、俺達は妖魔を見てるからな。見付けたらやっつける」
――今から半年前。
かつて菊助達が分け入ったあの山は、大きな火事があり、山の殆どが焼けてしまった。
そのすぐ後だ。
町の住人が妖魔に襲われたという話を聞いたのは。
あの山に住んでいた妖魔が住処を失い、山から下りて来たのだと、町の大人は言う。
「でも……俺達だけで大丈夫かな……」
「今からそんな事でどうするんだ! それに、見回りしてれば……あいつに会うかもしれないだろ?」
「あいつ?」
「だから……大和」
菊助は小声で呟き、かぶりを振って言い直す。
「とにかく! あいつは俺達の知らない間に町に来てたかもしれないし、見回りしてたら、あいつを見たって話もどこかで聞けるかもしれないだろ!?」
「そうか!」
「あいつは下っぱだけど、一応……仲間だからな。下っぱだけど。計画はあいつが来てから――……」
「じゃあ、明日から町の見回りしよう」
「大和の事、知ってる人いると良いね♪」
「町の中なら、お父さんやお母さんもうるさく言わないだろうし」
「……って、ちょ……」
菊助の最後の呟きは無視して、子供達は町の見回り計画を立て始めた。