はろいん。
季節ネタ。
過去のお話です。
ある日。
珍しく早めに帰宅した斬影が、家に入って来るなりこう言った。
「大和! 今日は“はろいん”とか言う祭りの日らしいぞ!」
「……何だソレ」
耳慣れない単語に、大和は眉根を寄せる。
すると斬影が曖昧に説明した。
「余所の国で行われている行事のようだが……早い話、子供が仮装して菓子をねだる日のようだ」
「……ふーん……」
大して興味が湧かない大和は、適当に相槌を打つ。
斬影は、荷物を下ろして何やら取り出し、
「せっかくだし、何か面白そうだったからお前もやってみないか?」
そう言って、大和の前に、これまた見慣れない衣装を並べる。
「…………」
大和は用意されていた衣装の中から白い布を選び、それを頭から被ると、斬影の喉元に刀を突き付けた。
「……じゃあ菓子よこせ」
「……違う……大和君。それは……何か違う」
斬影は大和の刀を押し退けると、叫び声をあげた。
「違う違う違う! ちっがーうっ! お前、それじゃただの恐喝だろが!」
「…………」
言われて、大和は無言で刀を収める。
「そうじゃなくて!……もっとこー……可愛くおねだりするんだよ」
斬影は町で見た光景を思い浮かべながら、
「町の子供達はもっと可愛げがあったぞ!……いや……お前に可愛げとか何とか期待しちゃならんのだろうが……そーいや、町の子供達は何か言ってたな。何つってたか……あ」
話をする斬影の目を盗んで、大和は斬影が買ってきた菓子の袋を開けていた。
「…………」
「…………」
暫しの沈黙。
大和はガサガサと菓子袋に手を入れ、菓子を口に運ぶ。
それを見た斬影は、深々と嘆息した。
「大和……お前って奴は……」
「食っていいんだろ」
「もう食ってるだろうが」
斬影は額に手を当ててぼやく。
「……でも凄い日だな」
「ん?」
菓子を買った時に貰った冊子を見ていた大和が、ぽつりと呟いた。
「要は堂々と恐喝しても許される日って事だろう?」
「……いや……うん。良いから菓子食え」
行事そのものには馴染めなさそうだが、菓子は気に入ったようで――大和はもくもくと菓子を食べている。
菓子を頬張る大和を見ながら、斬影は胸中で深いため息をついた。
(ウチには向かん祭事だな)