興味
それはまだ、大和が三つの頃の事――
◆◇◆◇◆
「おう! 今帰ったぞーっ!……って。何やってんだ、お前」
「…………」
その日、仕事から帰って来るなり、斬影は目を丸くした。
雪駄を脱ぎ、荷物を置いて、大和の許に歩み寄る。
大和の傍には、本が積み重ねてあった。
勿論、子供が読んで楽しめるような絵巻物等ではなく(そもそも、そんな物は置いてないが)、剣術や薬学に関する書物だ。
それを見た斬影は、思わず半眼になって呻く。
「……どっから引っ張り出してきたんだよ。これ」
言いながら、寝床の隅にある棚の奥から見付け出したのだろうとは思う。
確かに、斬影が留守の間、他に暇潰しが出来るような物は無いが……
斬影の声が聞こえていないのか――大和は視線を書物に向けたまま、読み耽っている。
単に、挿絵を見て楽しんだり、ぺらぺらと紙を捲って遊んでいるという訳ではなさそうだ。
「…………」
大和は、これまで自分から何かに興味を示す事はなかった。
それが自発的に行動を起こした。
斬影は暫しその様子を眺め――
「……よし」
と、ひとつ頷くと、大和の傍に腰を下ろす。
そして、ひょいと大和を抱き上げ、膝の上に座らせた。
大和が持っていた本を示し、
「大和、俺が教えてやる」
そう言って、斬影は大和に本を読み聞かせた。
これが、大和の感情を引き出すきっかけになるかもしれないと思いながら……
しかし――
実際に大和が感情を示すようになるのは、もう少し先の話である。