お留守番 3
――その後。
「あっ。そうだ」
食事を終えて、小夜が思い付いたように手を打った。
「私、お土産買ってきたんです」
にこにこと笑顔で言う小夜。
大和と斬影は瞬き、同時に口を開く。
『土産?』
「はい♪」
小夜は頷いて、嬉しそうに袋を取り出した。
どうやら旅行中に買ってきたという土産物が中に入っているようだ。
「土産かぁ。何を買って来てくれたんだ?」
斬影は身を乗り出して袋の中を覗き見る。
小夜が買ってきた土産物を手に取り――斬影は複雑な表情を浮かべた。
「干物に……茶っ葉に……」
小夜が買ってきた物は干物などの乾物や、日持ちしそうな物ばかり。
それはそれで良いのだが……
「……そういえば、茶っ葉切れそうだったな」
「でしょう? だから要るかなって♪」
「う~ん」
二人のやり取りを聞いて、斬影は腕組みして唸る。
眉間に人差し指を当て、
「あのさ。小夜ちゃん」
「はい?」
呼ばれて、小夜は斬影の方へ向き直った。
「なんつぅか……もっとこー、その土地ならではの特産品とか名産品とかは見なかったの?」
「えっ?」
言われて、小夜はキョトンとする。
小夜の買ってきた土産物は、近くの町でも買えるような品物が多い。
旅行の土産というより、普通に買い出しに行った時のような感じだった。
小夜は少し不思議そうな顔をして、
「でも……日持ちする物の方が良いって大和が……」
「おまっ……そんな事言ったのか!?」
「な……」
何故か責めるような口調の斬影に、大和は反論した。
「俺は今回の事については何も言ってない!」
「……って事は……コレはお前と旅してた時の影響か……」
小夜の土産物を見ながら、斬影がため息をつく。
大和は低く呻いた。
「……仕方ないだろ。生物なんか持ち歩けないんだから」
「そりゃまあそうだが……旅行ってのはそういうのを見る楽しみもあるだろうが」
「旅行じゃないし」
「あの~」
二人が何やら揉めているように見えて、小夜はおずおずと手を挙げ、
「私の買ってきた物……何か駄目でしたか……?」
斬影ははっとして、
「いや。駄目って事ぁねぇよ。助かるのは助かるしな」
「はぁ……」
「まっ、小夜ちゃんが楽しんで来たんならそれが一番――……ん?」
と、斬影が言いかけた時。
袋の中から何かが転がり出て来た。
「何だこりゃ?」
布に包まれた丸っこい物体。
斬影がそれを手に取ると、小夜が口を開いた。
「あ。それは置物です」
「置物?」
「はい。何か可愛いなぁと思ったので」
斬影は手の中にあるそれを見詰める。
「へぇ。置物ねぇ……なかなか土産物っぽいじゃねぇか」
視線で問うと小夜は頷く。
斬影は置物を包んでいる布を取った。
「……これは……」
「……熊?」
「はい♪」
小夜が買ってきた置物――それは木彫りの熊。
鋭い牙や爪、毛の一本一本まで精巧に造られており、今にも動き出しそうに見える。
確かに造りは見事だが――……
斬影は手のひらの上にある木彫りの熊を示し、
「……可愛いか?」
「…………」
訊かれて、大和はさっと目を逸らした。
斬影は苦笑いを浮かべる。
置物を棚の上に置き、
「……ま、とりあえず飾っとくか。んで。小夜ちゃん、旅行は楽しかったかい?」
「はい♪」
「そうかそうか。じゃ、今度は大和に連れてってもらえると良いな」
「はい!」
「…………」
ニコニコと嬉しそうな小夜と、意味ありげに笑う斬影を見て、大和は無言でため息をつく。
それぞれの旅行は様々な思い出を作り――こうして幕を閉じた。