表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/58

墓参り 5

 

 その島は、人の手が入っていないからだろう――当然と言うべきか――きちんと整えられた道は無く、ひたすら獣道のような場所を歩く。

 妖魔の数も少なく無い。

 島周辺の妖魔の数を考えれば、多過ぎる訳ではないが――いずれにしても、人が住むには少々難がある。

 しかし、そんな場所でも斬影には“道”が見えているのか――迷い無く歩を進めていく。

 草の根を踏み分け、妖魔を退けながら先へ進む。

 と――その時。

 唐突に視界が開けた。

「……ここは」

 大和の目に映ったのは、今までの密林が嘘のように何もない場所――草木の一本すら生えていない――ただの空き地だった。

 まるで、そこだけ定規で測って綺麗に切り取られたような――そんな場所……

 斬影は振り返り、

「ここはな。昔、この島で唯一の村があった場所だ」

「え……?」

「……そして……村のみんなが眠ってる場所だ」

「…………」

 そう言って、斬影はどこかへ向かって歩き出す。

 村があった形跡は一つもないが――斬影は嘗てあった道を辿るように進んでいく。

 大和はその後をついて行った。

 暫く歩いて、斬影は足を止める。

 そして、その場にしゃがみ込むと、持ってきた花を供えた。

「……ただいま。親父。お袋。雪乃。遅くなったけど、帰って来たぜ」


 

 斬影はそっと手を合わせ、静かに目を閉じた。

 それを見て、大和もその場で黙祷をする。

「……この島はな。元々妖魔の大人しい――人には住みやすい島だった」

「…………」

 斬影は目を開くと、語り始めた。

「――けど、数十年に一度……妖魔が大発生する時期があってな。そん時は、島の外から退治屋に妖魔退治を依頼すんだ。島には退治屋が居なかったから」

 風がそよぎ、斬影の供えた花も揺れる。

 斬影は立ち上がると、大和に手招きした。

「少し歩くか。ここはあんまり長く居ない方が良い」

 土を軽く蹴りながら、

「この場所は、妖魔が襲って来た時に出た濃い瘴気の影響が残ってるからな」

(ああ……それでか)

 斬影の言葉に、大和は納得したように胸中で呟く。

 何故、この場所には草木が一本も生えていないのかと思ったが――……

 妖魔の持つ瘴気は、大地をも死滅させる。

 あまりにも濃い瘴気は、人や生き物だけでなく、自然にも影響を及ぼすのだ。

 しかし――これほど長期間に亙り、影響を残すのもあまり例が無い。


 村の跡地から少し離れた海岸沿いを二人は歩く。

 歩きながら、斬影が話の続きをする。

「俺の親父は島の外の人間でな。当時は名のある退治屋だったそうだ。昔、島で妖魔が暴れてるって話を聞いて渡って来たらしい」

「何で島には退治屋が居ないんだ?」

 大和が訊くと、斬影は笑った。

「そりゃ、退治屋じゃ食っていけねぇからさ。妖魔は居ても、狐か狸か……島のガキでも追っ払える小物ばっかりだったからな。薬や武具の素材にもならねぇし」

「……けど、妖魔が暴れる時期があるんだろ?」

「ああ。それでも、島で生まれた奴がその人生を終えるまでに一回か二回……あるかどうかだからな。退治屋としては成り立たん」


 

 斬影は、足元にあった小石を蹴る。

「妖魔が暴れる時期が近付くと天候が荒れたり、大人しかった妖魔が凶暴になったり……何かしらの異変が必ず起こる。だから本格的に妖魔が増える前に対応出来た」

 空を見上げ、

「親父が島へ渡って来た時もそうだったらしい」

 その年は特に荒れ方が酷かったようで、島には多くの退治屋が集まった。

 普段はいくら退治しても稼ぎにならない妖魔しか居ない島だが、この時期は貴重な角や牙を持つ妖魔が多く出没する。

 退治屋にとってはまさに稼ぎ時だった。

 と――その時。

 ポツリ。

 見上げた空から話を遮るように、雨粒が零れ落ちてきた。

 斬影は短く舌打ちし、

「雲が出て来たと思ったが……やっぱり降り出したか。おう、大和! こっちだ! 走れっ!」

 そう言うと、斬影は素早く方向転換し、すぐ近くの茂みの奥へ飛び込んで行く。

 大和は斬影を見失わないよう、その後を走る。

 雨足が強くなる中、暫く走ると、小さな洞穴が見えてきた。

 二人はその洞穴に駆け込む。

 濡れた肩を軽く払いながら、

「……ふぅ。危うくずぶ濡れになるところだった」

「……こんな場所があったのか……」

 大和の呟きに、斬影が答える。

「ああ。この島にゃ、こういう洞穴があちこちに点在しててな。子供達の遊び場だった」

 斬影は何か思い出したように笑い、

「中には潮が引いた時だけ現れる洞窟もあってな? 俺はそういう場所によく潜り込んで遊んだもんだ。ま、親父に見付かると、どやされるんだけどな」


 

(……斬影の……父親……)

 斬影の話を聞きながら、大和は胸中で呟く。

 外は雨足が強く、また風も出て来ていた。

 大和が無言で洞穴の外を眺めていると、

「……この調子だと……今日は帰れねぇかもしれねぇな」

「……そうだな」

 暫し無言で雨音を聴いていた大和は、斬影の方へ顔を向けた。

「なぁ」

「ん?」

「……その……斬影の父親って……どんな人なんだ?」

 訊かれて、斬影は虚空を見据える。

「親父か?……そうだなぁ……生真面目で堅物。何かと器用だったが、変に不器用なところがあって……ああ」

 と――大和の方へ視線を向け、

「お前に似た感じだな」

「…………」

「そういや話が途中だったか。丁度良い」

 斬影は顎に手を添え、

「暇潰しにひとつ。つまんねぇ昔話をしてやろう」

 そう言って、斬影は語り始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ