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墓参り 3

 

「…………」

 港から出て行く斬影と大和。

 それを黙って見ていた男は、顔を上げ、

「待て」

 再び二人を呼び止めた。

 斬影は肩越しに男を見やり、

「何だ? 別に船を盗んだりはしねぇぞ」

 と、軽口を叩く。

 しかし男は、それを無視して顎をしゃくり、

「来な」

「…………」

 そのままどこかへ歩いて行く。

 こちらが後をついて来ている事を確認する様子は無い。

「ふむ……」

 斬影は口元に手を当てて唸ると、男の後について行く。

「斬影」

 大和は静かに警告の声を発する。

 だが、斬影は肩をすくめ、

「来いって言ってるんだ。とっちめるんなら人を呼ぶだろ」

 気楽な様子で歩く斬影を見て、大和はため息をついた。

 ちらと斬影を見上げ、

「……噂が広まってるんだから、既に人が集められてる可能性もあるだろ」

 それを聞いて、斬影は相槌を打った。

「成る程。それもあり得るな」

 と――

「……安心しろ」

 それまで黙っていた男が口を開いた。

 こちらは見ないまま、

「お前らを締め上げる気はねぇよ」

 男の言葉に、斬影は大和の耳元でボソッと呟く。

「……聞こえてたみたいだぞ。大和」

「…………」

「聞こえるように話してたんだろうが」

 この時漸く、男がこちらに視線を向けた。

 斬影は薄く笑みを浮かべ、

「いや~、聞こえないよう声は落としてたんだがなぁ?」

「ちっ。ふざけた野郎だ」

 男は短く舌打ちして、歩調を速める。


 

「……それより、どこへ連れてくつもりだ?」

 男の後ろを歩きながら斬影が訊ねると、

「……あの島に行きたいんだろう」

「ああ」

 斬影が頷く。

 すると、男は訊き返す。

「本気か?」

「ああ。船があれば行きたいねぇ。その為に来たんだし」

「……あの島は妖魔の巣窟だと言われている。実際、行った船はあっても帰って来た船は無い」

「それなら心配いらねぇ」

 男はどうやら、島へ行く事を思いとどまらせたいようだ。

 斬影はニッと笑って、大和を引き寄せた。

「何せ、腕利きの退治屋が護衛についてるからな♪――なっ? 大和」

 大和は斬影の顔を見る。

 肩に回された斬影の腕に軽く触れて、

「……ひょっとして……その為に連れて来たのか?」

「頼りにしてんだぜ? それに……一人で留守番なんかつまんねぇだろ」

「退治屋? そのガキがか?」

「…………」

 男の言葉に、大和はピクリと眉を動かす。

 斬影は大和の手を押さえ、

「……抜くなよ。こんな所で」

 大和の手から力が抜けるのを感じ、斬影も手を離す。

 斬影は男の方へ向き直り、

「ガキって……馬鹿にすんじゃねぇよ。こいつはこう見えても立派な退治屋だ。しかもそんじょそこらの三流退治屋とはワケが違う」

 斬影はひとつ息を吐くと、大仰な身振りを加えて語り出した。

一度(ひとたび)刀を抜けば、瞬く間に妖魔の群れを斬り裂き、疾風の如く戦場を駆けるその姿はまさに白き鬼! 鬼神の異名を持つ少年退治屋・大和とはこいつの事だ!」

「恥ずかしげも無く、そんな事言うな!」

 大和は、斬影の服を引っ張って怒鳴る。

 斬影は僅かに体勢を崩したが、すぐ持ち直し、

「馬鹿だな。こういうのは勢いが大事なんだぞ?」

「知るかっ!」


 

「少年退治屋って……そいつが……あの……?」

「……おっ?」

 大和と掴み合いをしていた斬影は、男の呟きに反応する。

「冗談で言ってみたが……何? お前、結構有名人?」

「――――……」

 大和は唇を噛み、喉の奥で低く唸ると、顔を背けた。

「そっかぁ~。いやぁ……なんか嬉しいモンだなぁ。こういうの」

 斬影はまるで自分の事のように喜ぶ。

 ――が、

「……でもよ。俺だってな? 昔はそれなりに有名だったんだぞ?」

「……ああ。うん。まぁ……」

 急にしょげる斬影に、大和は適当に相槌を打つ。

「何だ。アンタも退治屋なのか」

 男は、興味が無さそうではあったが――訊いてきた。

 斬影は顔を上げ、

「まあ……一応な。今は殆ど隠居状態だけどよ」

 と、大和の頭に手を置き、

「こいつが稼いで来てくれるから」

「……親子……なのか?」

 斬影の言葉に、男は怪訝な表情を浮かべる。

 やがて、大和の方へ視線を向け、

「親父に似なくて良かったな」

「失礼な事言うんじゃねぇ!」

 瞬間――斬影が怒鳴り声をあげる。

 しかしその隣で、

「……ああ」

 と、大和が無表情で頷く。

「お前も頷くなーっ!」

「……ま、何にせよ……多少腕に覚えがあるようだな」

 男は足を止めた。

 斬影の叫び声は無視して、

「船を貸してやる」

「……何?」

 突然の言葉に憤りも忘れ、斬影は真顔で訊ねた。

「どういうこった」

「どうもこうも無い。あの島へ行く為の船を俺が貸してやると言ってるんだ」

 男は、斬影と大和を交互に見て、

「使ってない船が一隻ある。それを使うと良い」


 

「…………」

 斬影は眉根を寄せ、

「……なんで俺達に船を貸す気になった?」

 男の申し出は有り難いが――見ず知らずの相手に、帰って来るかどうかも分からないのに船を貸すと言うのは、不自然な事のように思う。

「……お前さんらがただの命知らずなら船を貸す気にはならんかったさ」

 男は目を閉じて、

「あの島にはもう何十年も人の出入りが無い。暫くの間は、化け物の住処だと騒がれていたが……いつの頃からか……あの島には財宝が眠ってるなんて噂がたってな。海に出るヤツが増えた」

「財宝?」

 それを聞いて、斬影は笑った。

「あの島に財宝なんてあったか?……まぁ自然の宝庫って意味なら宝の山かも知れねぇが」

 斬影の言葉に、男も笑う。

「一攫千金ってな。馬鹿な奴らが海へ出て行くのさ。しかも、ロクな準備もしないまま。船の残骸や死体ばかり揚がっちゃ漁にならんだろ」

「しかし……アンタら漁師から見たら、宝探しにしろ墓参りにしろ……海へ出て行く馬鹿野郎には変わりねぇんじゃねぇのか?」

(確かに……)

 と、大和は思う。

 目的はどうあれ、海へ出るという事自体が迷惑な話だろう。

 少なくとも、この港で話を訊いた限りではそのように感じた。

 男は鼻の下を擦りながら、

「……まあな。けど……アンタ……あの島の出身なんだろ?」

「ああ」

「俺もさ。昔……あの島に住んでた」

 思わぬ事実を明かされて、斬影は目を見開いた。


 

「そう……なのか?」

 男は頷いた。

「昔、騒ぎが起きる前に島を出てな。今じゃ仕事もあるし……護るモンも出来た。島の様子が気になっても帰るに帰れねぇ」

「そうか……」

 斬影は胸中で呟く。

(成る程……あの船はいつか島へ戻る為に用意してたモンか)

「船は貸してやる。だからその代わり……戻ったら島がどんな様子だったか教えて欲しい」

「分かった」

 斬影は頷き、

「ウチは山暮らしだからな。船貰っても置き場が無い」

「いや。やるとは言ってない。貸してやるって言ってんだ」

 キッパリと言ってくる男は無視して、

「船は返しに来るさ。ついでに土産話も持ってな。その代わり、旨い酒とツマミ用意しといてくれよ」

「!」

 男は瞠目した。

 斬影は船に乗り込み、

「おしっ! 行くぞ、大和!」

「ああ」

 大和も船に乗って――二人は港を後にした。



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