役割 3
◆◇◆◇◆
その日の夕暮れ。
「……ん?」
大和は顔を上げる。
視線の先には、小夜が頬杖を付いて、家の前に座り込んでいるのが見えた。
「あっ!」
小夜はこちらに気付くと、パッと立ち上がり、声をあげながら走ってくる。
「大和ーっ!」
小夜は大和の目の前まで来ると、ギュッと大和の手を握り、
「大和……私はずっと大和と一緒にいるからね!」
と、瞳を潤ませて大和の顔を見詰める。
「……は?」
大和は半眼になって呻いた。
「いきなり……何言ってるんだ」
小夜はぶんぶんとかぶりを振り、
「いいの! 何も言わないで! ただ私はずっと大和と一緒にいるから!」
「…………」
会話が噛み合わず、大和は訝しげな眼差しを小夜に向ける。
と――
「おっ。帰ってきたか」
「斬影」
家の中から斬影が出てくる。
斬影は、気楽な様子で手を挙げ、
「お疲れさん」
「……斬影。小夜に何か言ったか?」
「お前な……『ただいま』くらいは言えよ」
「…………」
大和は無言で斬影を見据える。
斬影は軽く肩をすくめ、
「別に何も。ちょっと昔話をしただけ」
「昔話?」
「お前のな」
それを聞いた瞬間、大和は眉間に皺を寄せた。
「……何を話した」
「さぁてな?」
斬影は大和の頭をくしゃっと撫でる。
「大和! 晩御飯はね、私も手伝ったの!」
「……え」
あからさまに嫌そうな顔をする大和に、斬影が口を開いた。
「心配すんな。野菜洗ってもらっただけだ」
「まぁ……それなら……」
安堵の吐息を漏らす大和に、斬影はふと思い出して、声をあげた。
「そうだ! そんな事より……大和! お前、何で黙ってたんだよ!?」
「……何を?」
大和が訊くと、斬影は小夜の肩を抱き、
「小夜ちゃん! 昼間俺が指切った時、何かパッと治してくれたぞ! あんなすげぇ事が出来るなら最初からそう言えば良いじゃねぇか!」
言われて、大和はぽつりと呟く。
「……ああ。そういえば……そんな事も出来たんだっけな」
「えへへ。でも……千切れちゃったらくっ付けられないんだけどね♪」
「……お前が選んだだけあって……言う事がたまに怖いな」
「…………」
「まぁでも、小夜ちゃんの役割は決まったな。治療係だ」
斬影が断言する。
彼は、大和と小夜の背中を押しやりながら笑った。
「それはそうと、早いとこ家に入れ。飯にしようぜ」