1話 べからず
「フォグ、時間だ!何をやっている!」
外のロビーからフォグを呼んだのは同じ班の女上司。少し短気な彼女の機嫌がこれ以上悪くならないうちに、と水盆から目を離し、すでに着ていた仕事着の上からコートをはおり、自分の部屋から出ることにした。
フォグたち“死神”の多くは寮に住んでおり、二階以上が部屋で一階はロビー兼受付になっている。
「やぁフォグ、今日はいつもより遅かったね。カメリア先輩、もう待ちきれないって受付に行ったよ」
そう声をかけて来たのは同じ班で同期のイーヴァで、この男とは研修時代からなにかと腐れ縁なのだ。
「よし、全員揃ったな」
そうこうしているうちに戻って来たカメリアに渡されたのは今週の死亡予定者リスト。
その週に死ぬ予定の人や動物のプロフィールがずらりと載せられている。
「いつも通り、私たちの担当にはマークをしておいたから、それに沿って下界に降りたら別行動。何かあったら連携が取れるよう、すぐに連絡すること」
それから…と、カメリアは付け足す。
(ハイハイ、わかってますよ…)
フォグはため息をつき、イーヴァは苦笑いする。
“死神、みだりに触れるべからず
また、不意にも目を合わせることなかれ”
“死神”の肌に直接触れると精気が吸い取られてしまう。目が合えば失神してしまうこともある。
全く、馬鹿げたアイデンティティだ、とフォグはいつも思っていた。