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もしもーし?会議を始めたのに、誰も会議してません

掲載日:2026/08/01

前書き


世の中には、話し合えば解決する問題というものがある。


……本来なら。


しかし。


集まった人間が全員、自分の正しさだけを信じていた場合。


会議はどうなるのか。


答えは簡単。


ただの「自分の言い分発表会」になる。


今回集まったのは、そんな三人。


職人の誇りを守るために怒鳴り散らす女。


納期と注文を盾に無理難題を押し付ける男。


そして、優雅な笑顔の裏で責任から逃げ続ける交渉役。


三人とも、言っていることは一部正しい。


だからこそ、余計に面倒くさい。


誰か一人が完全な悪者なら話は早い。


でも現実はそう簡単ではない。


自分が正しいと思っている人間ほど、自分の間違いには気づかないものだ。


そんな三人の前に現れるのが、真実を映し出す機能――Silent。


果たしてSilentは、この混乱した会議を解決へ導くのか。


それとも。


見たくなかった本当の問題を、全員の前に突きつけるのか。


これは、会議を始めたはずなのに。


最後まで誰も会議をしていなかった、ある三人のお話。

「納期に間に合わない?」


その一言で、部屋の空気が凍った。


「どういうことだ!!」


アレクセイ・ヴァルハルトの怒声が響く。


「僕は!!」


「必要な数を!!」


「決められた期限で注文した!!」


「なのに、なぜ完成しない!?」


部屋の端にいたアレクセイの部下たちは、静かに顔を伏せた。


(また始まった……)


(声、大きすぎる……)


誰も口には出さない。


言えば、もっと大きな声が返ってくるからだ。


アレクセイは、見た目だけなら完璧な貴公子だった。


整った顔。


高価な服。


堂々とした態度。


しかし。


一緒に働いた者は知っている。


この男は、とにかく声が大きい。


そして。


自分が正しいと思った瞬間、相手の話を聞かない。



「いや。」


ヴィクトリア・ヴォルコヴァが腕を組む。


「そもそも材料が来てへん。」


「材料?」


アレクセイが眉をひそめる。


「だから、材料。」


「作るための素材。」


「それがないのに作れって言われても無理やろ。」


「だが納期は決まっている!」


「だから材料!!」


「だから納期だ!!」


二人の声がぶつかる。



その横で。


リリアーナ・フォン・クロイツは優雅に紅茶を飲んでいた。


「お二人とも。」


「少し落ち着いてくださいませ。」


二人が振り返る。


「今回の問題は、複数の要因がありますわ。」


リリアーナは微笑む。


「まず、材料費の高騰。」


「そして、人件費。」


「さらに輸送費。」


ヴィクトリアが首を傾げる。


「……。」


「いや。」


「材料届いてない原因、お前の国やろ。」


リリアーナは笑顔を崩さない。


「まあ。」


「責任の所在を探すより、前向きな話をしましょう。」


ヴィクトリア。


「逃げた。」


「逃げてませんわ。」


「整理しているだけです。」



リリアーナの国は、材料調達を担当していた。


本来なら。


必要な材料を集める。


確認する。


期限までに納品する。


それだけの仕事だった。


しかし。


リリアーナは面倒なことを嫌った。


「現場の確認は部下に任せればいいですわ。」


「細かい報告書も不要です。」


「結果だけ持ってきてくださいませ。」


そう言い続けた。


その結果。


国の担当者たちは疲れていた。


「またリリアーナ様の無茶振りか……。」


「問題が起きたら、こちらの責任になるんだろ。」


誰も積極的に動かなくなった。


そして。


材料は遅れた。



「つまり。」


アレクセイが叫ぶ。


「僕が困っている理由は!!」


「誰かが仕事をしていないからだ!!」


ヴィクトリア。


「お前も大概やぞ。」


アレクセイ。


「何!?」


「途中まで作った材料費も払わん言うたやん。」


「完成していないものに払う必要はない!」


「こすいな。」


「商売だ。」


「便利な言葉やなぁ。」



リリアーナは静かに口を開く。


「では。」


「価格を上げる必要がありますわね。」


ヴィクトリア。


「は?」


「材料費が増えていますもの。」


「いやいや。」


「材料遅れてんの、お前の国やろ。」


「ですが、必要経費ですわ。」


アレクセイ。


「値上げは認めない!!」


「僕は決められた金額で注文している!!」


リリアーナ。


「困りましたわ。」


「では、納期は維持してくださいませ。」


ヴィクトリア。


「……。」


「お前ら二人、ほんま自分のことしか考えてへんな。」



結局。


会議は三時間続いた。


決まったこと。


なし。


ヴィクトリアは職人の話。


アレクセイは納期の話。


リリアーナは利益の話。


誰も相手の話を聞いていない。



「仕方ありませんわね。」


リリアーナが立ち上がる。


「Silentを使います。」


「この状況を最適化しましょう。」


彼女は自信満々だった。


「問題を正しく分配すれば、全て解決しますわ。」



Silent起動。


表示。


【現在状況】


材料供給


担当:クロイツ国


達成率


35%


生産負担


担当:ヴォルコヴァ工房


負担率


180%


要求圧力


担当:ヴァルハルト商会


圧力値


200%



リリアーナは操作する。


「では。」


「調整しますわ。」


指を動かす。


【変更】


クロイツ国


責任:軽減


アレクセイ


要求:維持


ヴィクトリア工房


生産対応:増加


報酬


変更なし



「完璧ですわ。」


リリアーナは笑った。


「これで皆様、納得できますでしょう。」


その瞬間。


Silentが更新される。



【予測結果】


材料供給率


0%


職人離脱率


85%


取引信用


低下


【原因】


・責任者が責任を回避

・現場負担の一方的増加

・利益優先による信頼低下



リリアーナの笑顔が消える。


「……。」


さらに表示。



【対象】


クロイツ国


財産


★★★★★



0



「……。」


ヴィクトリアが覗き込む。


「え。」


「お前の国、なくなりかけてるやん。」


リリアーナ。


「そんなはずありませんわ。」


「私は最適化を……。」


Silent。


最後の表示。



【最適化されたもの】


リリアーナの利益



一時的に増加


【失われたもの】


信用


人材


国庫



沈黙。


アレクセイが言う。


「つまり!!」


「自分が楽になるよう設定した結果!!」


「自分が一番困る結果になったということだな!!」


リリアーナ。


「声が大きいですわ!!」


ヴィクトリア。


「そこ気にするんや。」



翌日。


ヴィクトリアは工房で叫ぶ。


「材料まだかー!!」


アレクセイは叫ぶ。


「納期はどうなっている!!」


リリアーナは叫ぶ。


「誰か私を助けなさい!!」


三人の声が響く。


そして。


部下が小さく呟いた。


「……。」


「会議って。」


「普通、解決するためにするものですよね。」


誰も答えなかった。


なぜなら。


この三人にとって会議とは。


問題を解決する場所ではなく。


自分が正しいと証明する場所だったから。

後書き


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


今回のお話は、三人とも「自分が正しい」と信じている人たちの話でした。


ヴィクトリアは、職人や現場を守ろうとしている。


アレクセイは、注文したものを期限通り手に入れたいと思っている。


リリアーナは、国を効率よく動かしているつもりでいる。


一人ひとりの言い分だけを見ると、完全に間違っているわけではありません。


だからこそ、話はややこしくなる。


問題なのは、自分の正しさを証明することばかりに夢中になって、相手が何に困っているのかを見る余裕がなくなっていたこと。


そして今回のSilentは、誰かを責めるためではなく。


「本当は何が起きているのか」


を映し出すために使われました。


……まあ。


結果として、一番見たくなかったものを見せられたのはリリアーナでしたが(笑)


自分が楽になるように整えたつもりの仕組みが、巡り巡って自分自身を苦しめる。


人に押し付けた負担は、いつか別の形で返ってくる。


そんな少し皮肉な結末にしてみました。


それでも、この三人はきっと懲りません。


次の日にはまた、


「材料がない!」


「納期はどうする!」


「価格を見直しますわ!」


と、同じように言い合っていることでしょう。


ただ。


ほんの少しだけ。


Silentが映した数字を思い出す瞬間があればいい。


そんな、どこか憎めない三人のお話でした。


最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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