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竜のいる森  作者: 在処


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3/3

後編:僕の想い、彼女の想い

 夜になって僕は荷物を抱えて村を出た。


 マリエルさんのところに行く前に騎士様たちに見つかるわけにはいかないから灯りはつけていない。

 月明かりも届かない真っ暗な森を歩く。


 本当なら今すぐに肉体強化魔術を使ってマリエルさんのところに行きたいけど、僕の魔力(マナ)量じゃそれだけで力尽きてしまいそう。

 それじゃあもし騎士様と戦うことになっても何もできなくなってしまう。


「……よし、あった。」


 今日置いた場所にそのままになっていた斧を手に取る。

 これで武器は確保した。


 ……もし本当に騎士様と戦うことになったらと思うと、怖い。

 持ち慣れたはずの斧が妙に重く感じる。


「でも、やらなくちゃ……。」


 今、マリエルさんの味方は僕しかいないんだから。


 とにかく、マリエルさんと別れたいつもの場所に向かう。

 もうすぐそこまで来た時、奥に明かりが見えた。

 まずい、もう騎士様たちに見つかってる!


「肉体強化!」


 頭の中で決められた魔術式を編み、そこに魔力を流し込む。

 そのまま強く踏み込んで明かりに向かって飛び出し、マリエルさんの前に立って騎士様たちに斧を向けた。


「やめてください!」


 騎士様たちはすでに剣を抜いていて、黒騎士様なんか大きな盾と身の丈の倍はある突撃槍(ランス)を持っている。


「あなた、どうして……!」


 背後からはマリエルさんの声が聞こえる。

 ちらっと確認する限りケガしてる様子はない。良かった。


「マリエルさん、これ。」


 僕は持っていた包みをほどく。


「これは……。」


「食べてください。……お腹空いてたんですよね?ごめんなさい、気付かなくて。」


 包みの中からたくさんのサンドイッチが現れた。


「ジークさん。どういうことか説明してもらえますか?」


 黒騎士様が聞いてくる。


「このドラゴンは……マリエルさんは人間なんです!悪いドラゴンじゃない!」


「人間が……ドラゴンに……?」


 黒騎士様の声音に迷いが混ざった。

 話せばわかってくれるかもしれない。


「マリエルさんは人を襲ったりしません。僕が保証します。」


「…………やめて。」


 僕を制止したのはマリエルさんだ。


「今朝の事忘れたの?私はあなたを襲ったじゃない!」


「僕は良いんですよ。」


「良くないっ!私は退治されるべき悪いドラゴンよ!さぁ騎士たち、私を退治なさい!」


「んなっ——!」


 こ、この(ひと)は~!


「マリエルさんはそれを食べて逃げてください!お腹が満たされれば空を飛べるでしょう!?」


「こんなのじゃ全然足りないわよ!あなたは村に帰りなさい!これはあなたには関係ない——!」


「足りないなら!」


 マリエルさんには悪いけど、騎士様に刃を向けた時点で僕の覚悟は決まってるんだ。


「足りないなら、僕を食べてください。」


「っ!あなた…………。」


 後ろに向き直り、斧を捨てて両手を伸ばす。


「それでマリエルさんが元気になるなら、僕はマリエルさんの力になりたい。」


「どうして、そこまで…………。」


 マリエルさんが顔を寄せてくる。

 僕はその瞳をまっすぐ見つめて宣言した。



「マリエルさんが、好きだからです。」



「!……本気、なの……?」


 もちろんだよ。


「あなたのその綺麗な瞳に、白銀の鱗に、気高い心に、僕を心配してくれる優しさに惚れました。愛しています、マリエル・ミラ・セントウルさん。」


 僕が言い終わるやいなや、マリエルさんの瞳から涙があふれた。

 初めて見るマリエルさんの涙。それは彼女が人間である何よりの証だ……。


「私も……私もよ、ジーク……。あなたのその優しさが、人間じゃなくなった私に向けてくれる偽りのない笑顔が好き……!愛してるわ…………。」


 すりすりと顔を寄せてくるマリエルさん。

 そんな姿がとても愛おしい。


「えぇっと、これは…………?」


「情熱的な告白でドキドキしちゃいますね、アミリア?」


 戸惑う黒騎士様に話しかける少女の声。


「っ!陛下!?」


 そして驚く黒騎士様の声に思わず振り向くと、膝をつく騎士様たちとその先に立つ少女の姿が見えた。

 ——陛下、って……。


「陛下!お一人でこのようなところに来られては危ないではありませんか!」


「あなたが私の話を聞かずに行くからでしょう?私も彼女に会いたいと言ったのに。」


 あの少女が女王陛下?どう見ても普通の女の子だけど……。

 僕が戸惑っていると、少女——女王陛下がこちらに歩いてくる。


「陛下!危険です!」


 そして、黒騎士様の制止を無視してマリエルさんと向かい合った。


「ようやく会えましたね、マリエル・ミラ・セントウル。現国王、アーシャ=リュミエールです。」


「女王陛下……“やっと会えた”とはどういう……?」


 マリエルさんも戸惑ってるみたい。


「他の『王位継承者候補』に会うのは初めてですから、とても嬉しいです。」


「えっ……!」


 マリエルさんが王様候補?


「私が……?」


 あ、マリエルさんも知らないんだ。


「当代の王が死んだとき、強い光の魔力を持つ者は王位を継承する候補者になります。そしてその中から精霊龍ア=ウ=ロラ様が選んだただ一人が、次代の王になるんです。」


 すごい……マリエルさんは本当にすごい人だったんだ。

 でも……。


「あ、あの……マリエルさんを人間に……。元の姿に戻せないでしょうか?」


 女王陛下は僕の不躾(ぶしつけ)な横やりに嫌な顔はしなかったが、悲しそうに首を振った。


「……これは病でも呪いでもありません。いわばア=ウ=ロラ様からの祝福なんです。ですから、変異した体が元に戻ることはありません。」


「——祝福?」


 なんだよそれ……!


「勝手に選んで、勝手に体を作り変えて、人の人生をめちゃくちゃにしておいて祝福だって?冗談じゃない!」


 こんな姿になっていなければ、マリエルさんは人として生きられたはずなのに!


「やめなさいジーク。陛下は事実を言っただけよ。何も悪くないわ。」


「…………申し訳ありません。」


 マリエルさんの言う通りだ。女王陛下がマリエルさんに直接何かしたわけじゃないのに……。


「いいえ。あなたの言う通り、今のは配慮に欠けた物言いでした。ごめんなさい。」


「謝らないで下さい。元に戻れないのはわかっていましたから……。」


 女王陛下を宥めるマリエルさん。

 こういう気品が王様候補らしさを(かも)し出している。かっこいい。


 ——待てよ。

 王位継承者候補って言ってたけど、女王陛下が王位を継いだのは6()0()()()()の話だ。

 ということは、マリエルさんはそのころから生きてるから——。


「あなた、今失礼なことを考えているわね?」


「……また黙っていましたね、マリエルさん?」


「年齢のこと?あれは私が人間だった時の話と言ったはずよ。」


 騙された!実年齢79歳なんておばあ——!


「なに?」


「ナンデモナイデス……。」


「ふふふっ……!」


 僕たちのやり取りを見ていた陛下が笑った。


「なんだか楽しそうですね。……王位の継承はア=ウ=ロラ様に選ばれた一人が龍の力を授かるというものです。その際、他の候補者たちにもその力の一部が流れ込み、大抵の者はそれに耐えられず死んでしまいます……。」


 ア=ウ=ロラ様、選ばれなかった継承者候補に厳しくない!?


「あなたはその強すぎる魔力のおかげで命をつないだようですが、体の方は耐えきれずに力に引っ張られ、龍に似た姿に変異してしまったのでしょう……。」


 女王陛下がマリエルさんの顔を撫でる。


「残酷かもしれないけれど、あなたには生きてほしい。……なんて、あなたを愛する人がいるのですから、私が願うことでもありませんね。」


 そう言って僕を見た。

 ——やばい、ものすごく恥ずかしい。

 女王陛下だけじゃない。騎士様たちも僕の告白を見てたんだよなぁ……。


「ジーク……。」


「……あれはその場の出まかせじゃありませんよ。僕は本当に、マリエルさんを愛しています。」


 恥ずかしいけど、この気持ちは本物だ。嘘なんてかけらもない。

 ドラゴンだろうとおばあちゃんだろうと、マリエルさんはマリエルさんだから。


「ありがとう……。」


「……さて、話はこれで一件落着ですね!」


 マリエルさんとしばらく見つめあっていると、陛下がパンッと手を叩いた。


「帰りますよ、アミリア。」


「ですが……。」


「私を護衛もなしに帰らせるつもりかしら?」


「…………。」


 黒騎士様はしばらく考えるとため息をついた。

 それと同時に持っていた盾と突撃槍(ランス)が煙のように消えていく。


「……あなた達に、(さち)多からんことを。」


 そしてこちらを一瞥(いちべつ)することもなくそう言うと、他の騎士様たちを引き連れて陛下と共に森の外へと消えていくのだった……。



 それから僕たちは、これからのことを話し合った。


 その結果、マリエルさんの食事や寝床についてコノハナ村のみんなに相談しようってことになって、僕たちはすっかり夜が明けた森を出る。


「森を出るのは久しぶりだわ。」


 マリエルさんは朝の光を浴びて心地よさそうに目を細めるが、僕は胃が痛くてそれどころじゃない。

 森にいたドラゴンと仲良くなりました。できることならこれからも彼女と共に生きていきたいです。なんて村長は許してくれるかな。

 最悪、僕はマリエルさんと一緒に村を離れることになるかもしれない。


 ……まぁ、後は野となれ山となれだ。

 そんな決意を胸に村長のところに行くと、僕が何か言う前にマリエルさんのことを聞かれた。

 なんでも昨日の夜に女王陛下が来て説明してくれた、と。すごい行動力だぁ……。


 そのおかげか村長はマリエルさんに非常に好意的で交渉はあっさり通り、マリエルさんは森に住むことを許された。女王陛下万歳!




 

 それから数日後、僕は森に建てられた小屋の前で体を伸ばしていた。

 村の男衆があっという間に小屋を建ててくれて、あっという間に僕が住むことになって。

 女性たちから「素敵~」とか「お幸せに~」とか言われて。

 あげくに両親から、マリエルさんを大切にするように言われた。


 女王陛下はみんなになんて説明したんだ?


「おはよう、ジーク。」


「おはよう、マリエルさん。」


 ……まぁいいや。

 マリエルさんの食費は国が出してくれるみたいだし、住処(すみか)として森を提供する代わりにコノハナ村を守るという約束を交わして一緒に暮らすことを許されたし。


「なにか考えごと?」


「いえ、毎日マリエルさんと一緒に居られて幸せだなぁって。」


「…………ばか。」


 僕はこれからも、この森で生きていく。


 大切な(ひと)の隣で。


 健やかなる時も、病める時も、ずっと一緒だ。


 少しでも面白いと思っていただけたなら、評価、リアクションをいただけると嬉しいです。


 ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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