待っていろ、必ず……
「……あたしも聖女だし、できるらしいんだけど。ほら、あたしってこの国の未来に必要な正聖女で王妃様だから? 命は無駄にできないっていうか……皆からあたしは必要とされてるのよ。あんたと違って……ね?」
リナフィアだけに聞こえる声で囁かれた言葉は、いつもの甘ったるい喋り方ではなかった。
(ふざけないで、マリア!)
そう叫べども、口からは「んー!」としか出せない。
マリアが噴き出すようにして嗤った。
「アハハッ、元王妃様なのに芋虫みたいであっわれ~。ねえねえ、王宮から追い出された後、どうやって生きてたの? 領民に嫌われて領地まで追い出されたんでしょ?」
マリアはリナフィアの髪を一房手に取る。
「汚ったな……王宮ではあんなに綺麗だった髪も地に落ちればこのざまなのね。良かった、あたしは王宮にいられて。ああ、そうそう。この件について国民へは、あたしの祝福の力で災厄は去ったって言うことになってるから。こうして人身御供になってもあんたの名前は一生、か弱く心優しき正聖女をいじめた悪女って伝えられるわけ。良かったわね、名前だけでも残って」
悪女としてだけど、とマリアはリナフィアの耳元で憎たらしい声で言った。
(この女……もしかして今までのか弱さも全て……っ!?)
リナフィアはマリアという女が自分の想像以上に黒いことを知り愕然とした。
「ねえ、ここに連れて来られたとき服を着替えさせられたでしょう。なんでか分かる?」
確かにここに連れて来られる直前、リナフィアは教会の一室で用意されたドレスに着替えるよう指示された。かつて王妃時代に着ていたような、豪華な深紅のドレス。
「そのドレス……あたしのお・下・が・り」
耳の横でケラケラと喉を鳴らし笑う声に、不快さと怒りと憎悪が込み上げた。
猿ぐつわを噛まされていなかったら、その喉笛を噛み千切っていただろう。
「どお? かつてのあんたがあたしに施してあげていた立場が逆転して。すっごい惨めでしょう? ……あたし、あんたが嫌いだったのよ。最初っからね」
目からは涙が溢れて止まらない。「ふーっ、ふーっ」と込み上げる激情を肩で息をして逃がす。
するとマリアはうってかわって、周囲に聞こえるくらいの大きな声で嘆き始めた。
「あぁ、リナフィア様良いんですよぅ! そのように泣いて過去のことを謝られなくても。故意でなかったとしても、私がルーベント様の愛を奪ってしまったのは事実ですから」
きっと今、周囲には己の過ちに後悔し涙するみすぼらしい女と、自分をいじめた女に慈悲を向ける心優しき女が映っているのだろう。
案の定、すっかりマリアに騙されたかつての夫であるルーベントが、マリアとリナフィアを引き離した。腕にしっかりとマリアを抱き、リナフィアを冷めた目で見下ろすルーベント。
「やっとその役立たずの身を役立てられるんだ。役目を与えてくれたここにいる者達全てに感謝して……逝け」
「――っ!!」
彼の言葉が合図だったかのように、リナフィアは断頭台に頭を押さえつけられた。
(こんな男の為に……っ! こいつ等のせいで私は……っ!)
目を見開き、自分を眺める者達の顔をしっかりと焼き付ける。
(許さない……絶対に……忘れないから)
頭上でカタン、と音がした。
(お前達全員を破滅させるために必ず蘇ってやる)
ドンッという衝撃と共に世界は白くなった。
待っていろ……。
◆
「――っあああああああああああああああぁ!!」
「どうかなさいましたか、妃殿下!?」
絶叫と共に跳ね起きたリナフィアの部屋へ、慌ただしく侍女が駆け込んできた。




