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悪女はあなたの破滅が見たいだけ〜死に戻り王妃は、夫と愛人聖女に最高の離婚をプレゼントする〜  作者: 巻村 螢


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王妃を舐めるんじゃないわよ



 

 先ほどから条件書を睨んだまま、グレイグは動かなくなってしまった。


「そちらにも書いてありますが、ベルハイク領についての補足をいくつか。立地ですが、国の北端に位置し、ノーディレイ王国との国境線を有しています。確かに国土の端ではありますが、他国との取引もあるウォーカス商会にとっては、この立地はありがたいのでは? ノーディレイ王国は鉄鋼産業が発達しており、工業製品は当国でも高い需要がありますよね。今までは他国より仕入れた物を、一旦ここマルヤム領まで運んで検品して再び卸していたかと思います。ですが、ベルハイク領に本部を置いた場合、マルヤム領まで運ぶ分の輸送費が浮きます」

「分かりました……ベルハイク領が今の僕にとって、とても魅力的なのはよーく分かりました」


 しかし、グレイグは言葉に反して、リナフィアにはまだ猜疑の目を向けている。


「ただ、ベルハイク領というと、度々ノーディレイ側が越境してきて、小競り合いが続いている場所ですよね。そのような場所では、安心して商売などできませんよ」


 好条件をこれだけ示してもすぐに飛びついてこないあたり、やはり相当に頭が切れる。しかも、遠い北部の状況も把握しているのも流石だ。


「ごもっともです。実は、この免税措置には条件がありまして」


 やはり、とばかりにグレイグの片眉が下がった。


「誤解なさらないでください。当然、この条件も提示した上で回答をいただくつもりでしたよ。ただ、あまりに商会長が優秀であられましたので、私の悪戯心が疼いてしまいました」


 お許しください、と言えば、グレイグは「美人は得ですよ」と肩をすくめた。

 リナフィアが「ミレーネ」と後ろに立つミレーネに手を出せば、一通の封筒が乗せられる。


「こちら、ベルハイク伯爵様からグレイグ様へと預かって参りました」

「僕へ、伯爵様直々の手紙ですか!」


 グレイグは手にすると、すぐに中の手紙を読みはじめた。

 手紙には、免税の条件として商会を置く場所が、国境線付近の緩衝地帯であること。確かに小競り合いはあるが、相手方が一般民を傷つけたことはないこと。商会をおくことになった際は、伯爵が抱える兵を護衛兵として、無償で商会の輸送馬車につけることが書かれてある。


「北部の王が、たった一個人の商会に護衛兵を貸し出してくださるんですか……」


 手紙を持つグレイグの手が小刻みに震えている。

 輸送馬車につける護衛の代金も馬鹿にならないはずだ。それを無償で、しかも北部の王の兵。その精強さはそんじょそこらの民兵の比ではない。


「現在、緩衝地帯にはすでに娼館や酒場などがありますし、この緩衝地帯においては、サウザード王国とノーディレイ王国両方の民が利用できますから、うんと商売の幅も広がるかと」

「――っそんな、あり得ない!」


 グレイグが大きな声を上げた。それは、彼が初めて見せる大きな感情の揺れ。


「いくら伯爵領と言えど、所詮は国からの貸与地です! そこに勝手に他国の者を招き入れるなど……伯爵が許しても国が許しませんよ」

「いいえ、許しますよ。だって、私が許しましたから」


 グレイグは鼻で笑った。


「婦人になんの権限があって……っ」


 リナフィアは立ち上がると一緒に、目深に被っていた帽子を脱いだ。

 腰まである長い赤髪が流れ落ち、宝石のように硬質的な輝きを持った紫の瞳が現れる。


「この、リナフィア・サウザードが」

「サ、サウザ……っ……え……」


 グレイグは見下ろしてくるリナフィアを、かつてない驚愕の表情でもって見上げていた。口は小刻みに震え、ソファの上で腰を抜かしている。


「ご理解いただけたのなら、サインをいただいてもよろしいかしら?」


 グレイグの力の抜けた手に、リナフィアはテーブルに置いてあったペンを握らせた。





「全て上手くいきましたね、妃殿下! 商会もそうですし、マルヤム伯爵も。伯爵邸を訪ねたときのあの方の顔ったら……っふふ」


 帰りの馬車の中。ミレーネが喜びながら、預かった()()()契約書を眺めていた。


「ええ。しかも、予想以上に賢い商人だったのは良かったわ。きっと緩衝地帯でも、上手く経済を回してくれるはずだわ。伯爵もどちらの方が分が悪いか、すぐに分かってくれたようで助かったし」


 ウォーカス商会の緩衝地帯への誘致は、舞踏会の日にあらかじめ伯爵に了解をもらっていた。今、彼は一旦領地へと戻り、その受け入れ体勢を整えている頃だろう。

 リナフィアは持ってきていた領地図を広げ、丸がついていたマルヤム伯爵領にバツを力強く描いた。


「さあ、どんどん行きましょう!」


(これがあなたと私の違いよ、小娘)


 同じ神力を持っているから?

 先に出会っていれば、自分の方が王妃になっていた?

 リナフィアは、ハッと呆れた笑いを窓の外に向けた。


「王妃を舐めるんじゃないわよ」



 

        ◆




 一方その頃の王宮。

 ルーベントは離宮を訪ねていた。


「マリア、入るぞ」


 マリアの部屋の前でそう声を掛けたルーベントの顔は、暗い影を落としていた。


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