9話 パンとジャム
キーン コーン、カーン コーン
何時ものように鐘が鳴る。
今はお昼時、生徒が思い思いにお昼ご飯を食べるランチタイム。
教室でお弁当を食べる生徒もいれば、購買でお昼ご飯を買いに行く生徒もいる。
金髪ハーフツインの宇ノ中さんは中庭に向かう。
中庭のベンチには銀髪でセミロングの伊勢川さんが居る。
宇ノ中さんは伊勢川さんと同じベンチに座り話し始める。
「いや〜、今日の朝は大変だったよ〜」
「今日も遅刻ギリギリだったね」
「また夜更かし?」
伊勢川さんが問いかける。
「いや、今日は睡眠バッチリ」
そう言って謎のガッツポーズをする。
「じゃあ何故に」
伊勢川さんが横目で質問する。
「今日の朝はパンだったんだ」
宇ノ中さんが話し始める。
「ジャムをたっぷり塗って」
「美味しく頂こうとしたんだけど」
「遅刻しそうになったよ〜」
宇ノ中さんは腕組みしながら唸る。
「……どゆこと?」
伊勢川さんは腑に落ちない顔で宇ノ中さんを見る。
「それがね〜」
「なかなかジャムの蓋が開かなくて」
「結局遅刻ギリギリで素の食パン咥えて走って来たんだよ〜」
宇ノ中さんが身振り手振りで説明する。
「食パン咥えて走るって、またベタな展開だね」
伊勢川さんが冷ややかな目で宇ノ中さんを見る。
「……なので」
宇ノ中さんが亜空間収納に手を突っ込んで
「ジャムのリベンジだよ!」
蓋の開いていない瓶ジャムを取り出し、伊勢川さんに見せつける。
「食パンもあるよ!」
そう言って瓶ジャムと食パン一袋を持ったままドヤ顔をする。
「よっぽどジャムが食べたいんだ」
伊勢川さんが冷静に返す。
「ニヒっ」
「そだよ!」
宇ノ中さんが素直に答える。
「それじゃあリベンジ」
「いくよぉ〜」
宇ノ中さんはそう言いながら、瓶ジャムを持って中腰になり力を込める。
「ふぬぬぬぬぬ」
「ふぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」
宇ノ中さんが
顔を真っ赤にして瓶ジャムの蓋を開けようとする。
「ふぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぅうぅぁあぁあ!!!」
「ぁぁぁあ………」
声が徐々に小さくなり、宇ノ中さんは伊勢川さんを見る。
「ぁぁあ……開かないよぉ(涙」
「そんなに固いんだ」
伊勢川さんが宇ノ中さんを見ながら話す。
「伊勢川さん、やってみてよ〜」
「めっちゃ固いんだよ〜」
ションボリした宇ノ中さんが伊勢川さんに瓶ジャムを渡す。
瓶ジャムを受け取った伊勢川さんが少し考え込んだ後、宇ノ中さんに話しかける。
「こういう場合、温めると開けやすくなると文献で読んだことがある」
伊勢川さんはそう言いながら宇ノ中さんにちょっぴりドヤ顔をする。
「ぉお〜、流石伊勢川さん」
感心する宇ノ中さん。
「おじいちゃんの◯玉袋ってやつか〜」
「おばあちゃんの知恵袋だよ!」
宇ノ中さんのギリギリの会話にすかさずツッコむ伊勢川さん。
「では、まずは温めて」
伊勢川さんが右手の人さし指を前に出すと
ボゥ
指先から小さな炎が出てきた。
「ぉお〜、魔法みたい」
宇ノ中さんが喜んでいると、
「いや、魔法だから」
伊勢川さんが軽くツッコむり
伊勢川さんは左手に持った瓶ジャムの蓋に右手から出した炎を当てる。
「……これ位かな」
程よく温まったのを見計らい、伊勢川さんは両手で瓶ジャムを持ち、力を込める。
「ん~~」
「ん~~〜〜っ」
「はぁはぁ」
「……開かない」
伊勢川さんがつぶやく。
「でしょ〜、全然開かないんだよ」
「伊勢川さんでもダメかぁ」
宇ノ中さんがそう言うと、
「そんなことはない」
「開けるから」
ちょっぴりムキになって来た伊勢川さん。
「火力をもっと上げる!」
伊勢川さんは魔法的な何かで瓶ジャムを宙に浮かせて呪文を唱える。
「ファイヤーボール!」
伊勢川さんが唱えると同時に火の玉が飛び出し、瓶ジャムを直撃する。
メラメラと燃える瓶ジャムを見つめ、さらに伊勢川さんが呪文を唱える。
「炎耐性強化に身体強化」
ほのかに輝く伊勢川さんを見て驚く宇ノ中さん。
「ぉお〜、完全に魔法だ」
「ココまでやればいけるでしょう」
そう言って伊勢川さんが瓶ジャムの蓋を開けにかかる。
「ん~~〜〜っ!」
「ん~~〜〜〜〜〜〜〜〜〜っぁ!」
「……」
「……開かない?」
身体強化でほのかに輝いていた伊勢川さんの光が収まり、静かに瓶ジャムを見つめる。
「やっぱり無理かな〜」
宇ノ中さんがそうつぶやくと伊勢川さんの謎のスイッチが入る。
「へぇ~、なかなか生意気じゃないの、この瓶ジャム」
目が座ってきてちょっと声のトーンも変わってきた伊勢川さん。
「後悔させて上げるわ!」
伊勢川さんがアイテムボックスから杖を取り出す。
「……漆黒の闇から生まれし地獄の炎よ、我が呼び掛けに答え彼の者を焼き尽くしたまえ」
伊勢川さんがなにやら尋常じゃ無い詠唱を始めた所で宇ノ中さんが、
「……なにやら、マズイ気配が」
「ちょっと認識阻害機能をMAXに……」
そう言って何かを操作する。
「出でよ!地獄の業火」
ズゴォォォァアアァァァァァァァア!!!
禍々しい漆黒の炎が瓶ジャムを包む。
「さらに魔力解放、限定解除1」
伊勢川さんの凄みが増して腰から小さな黒い羽根まで生え始める。
「大丈夫かな……これ(笑」
宇ノ中さんが伊勢川さんを見ながら苦笑いする。
「うぉおぉおぉお〜」
「ゔぉおおおおおおおおおおお〜っ!!」
ぷしゅぅうぅ〜
「……」
地獄の業火?が収まり、伊勢川さんの凄みもおさまる。
「ど、どう?開いた?」
宇ノ中さんが伊勢川さんさんに問いかける。
「……」
「な、なにこれ!ココまでしても開かないなんて!」
ちょっと涙目になっている伊勢川さんが可愛らしいな、と思いつつ宇ノ中さんは伊勢川さんに近寄る。
「ホントだ開いていない」
瓶ジャムを受け取る宇ノ中さん。
「しかもアレだけやって瓶すら割れてないってどういう事?」
ションボリした伊勢川さんが宇ノ中さんに問いかける。
「ぁ〜、多分超宇宙的な耐熱ガラス?だからなのかな」
そう言って瓶ジャムを眺める。
「一体宇宙人はどうやって開けているのよ!」
伊勢川さんが地団駄を踏みながら叫ぶ。
すると、瓶ジャムを眺めていた宇ノ中さんが、
カチャ
「ぁ、開いた」
そうつぶやく。
「ぇえぇえ!」
伊勢川さんがテンション高めなせいか、珍しく驚く。
「どうやって?」
そう言って宇ノ中さんに問い詰める。
「ぁ〜、えとね」
「この瓶ジャム」
「左利き用のジャムだったから、回す方向反対だった」
「ごめ〜ん、ニヒっ」
笑って誤魔化そうとする宇ノ中さん。
「はぁぁあ?」
「左利き用のジャムって何?」
目を丸くしながら驚く伊勢川さん。
「まったくもぉ~」
テンション上がりすぎに気づいた伊勢川さんが、冷静さを装い始める。
「それで、どんなジャムなのそれは」
伊勢川さんが宇ノ中さんに質問する。
「えとね〜」
「エイリアンのヨダレ」
そう宇ノ中さんが答える。
「はぁぁあ?」
「食べれるの?それ?」
冷静さを取り戻そうとしたが再び驚く伊勢川さん。
「ぁ〜、名前が独特なだけで」
「中はメロン味のジャムだよ〜」
宇ノ中さんはそう言って笑う。
「なんじゃそりゃ!」
キャラ崩壊気味の伊勢川さんのツッコミが空に響き渡った。




