8話 泥水とカエルの卵
キーン コーン、カーン コーン
終業の鐘が鳴り響き、ホームルームも終わり生徒が下校を始める。
金髪のハーフツインをなびかせながら、いつものように中庭へと向かう宇ノ中さん。
中庭にあるベンチには遠目から見てもわかる銀髪の女の子、伊勢川さんが座っている。
宇ノ中さんは伊勢川さんと同じベンチに座り、話し始める。
「突然だけど伊勢川さん」
「ん?」
珍しく真剣な宇ノ中さんに返事する伊勢川さん。
「この後、暇?」
宇ノ中さんはそう言って伊勢川さんを見る。
「……」
「なんだかナンパみたいになっているけど」
「デートのお誘いかな?」
伊勢川さんがちょっぴり悪戯っぽく聞き返す。
「うん!そう」
そう言って素直に笑って返事する宇ノ中さん。
「そ、そなんだ」
「まぁ暇だけど」
宇ノ中さんにピュアにグイグイ来られてちょっと照れている伊勢川さん。
「じゃあ一緒にお茶しよ〜」
宇ノ中さんは満面の笑みで話す。
「完全にナンパですよね」
伊勢川さんが冷ややかな目で宇ノ中さんを見る。
「ニヒっ」
いつものように笑う宇ノ中さん。
スッと伊勢川さんがベンチから立ち上がり、
「いいよ、どこに行くの?」
そう言って宇ノ中さんに問いかける。
「えとね〜、商店街にある喫茶店かな」
宇ノ中さんもベンチから立ち上がり、伊勢川さんに返事する。
校門を出て商店街に向かって歩く二人。
「それで、喫茶店で何をするの」
伊勢川さんが横目で宇ノ中さんを見ながら話す。
「お茶だよ〜」
宇ノ中さんは嬉しそうに答える。
「いや、そうなんだけど」
「なんでまた急に」
伊勢川さんは再び宇ノ中さんに問いかける。
「飲みたいものがあってさ〜」
宇ノ中さんも前を見ながら話す。
「ほぅ」
伊勢川さんが相槌を打つ。
「ちょっと一人じゃ勇気出なくて」
「伊勢川さんと一緒に行きたいな〜と」
そう言って宇ノ中さんは伊勢川さんを見る。
「勇気出ない……って」
「どんな飲み物なの」
伊勢川さんが少し不安げな顔で話す。
「ぁ〜、でも女子高生が大好きな飲み物らしくて」
「凄く美味しいらしいよ」
宇ノ中さんはそう説明する。
「ふ〜ん」
不安を悟られないよう相槌を打つ伊勢川さん。
そうこうする内に商店街へと着く。
暫く歩くと目的の喫茶店へと辿り着いた。
カランカラン
「いらっしゃい」
女性のマスターらしき人が声をかける。
案内されるまま席に着く二人。
「それで何を飲みたいの?」
伊勢川さんはメニューを広げながら宇ノ中さんに問いかける。
「えとね〜」
「これ!」
宇ノ中さんがメニューを指差す。
「……」
「……?」
「……!?」
伊勢川さんはそのメニュー名を確認した後、宇ノ中さんを見つめる。
「泥水とカエルの卵」
宇ノ中さんが伊勢川さんにニッコリ微笑む。
「ぇ、本当に?」
伊勢川さんが宇ノ中さんを見ながら再度問いかける。
「ぁ、この喫茶店メニュー名は独特だけど」
「味は間違い無いらしいから大丈夫」
「……だよ多分」
「受け売りだけど!」
宇ノ中さんが謎の自信溢れる宣言をする。
「ご注文はお決まりですか」
そう問いかけられ
「これを二つ!」
即答で注文した宇ノ中さん。
「……」
じ〜っと宇ノ中さんを見つめる伊勢川さん。
「大丈夫だよ〜」
「一応調べてきてるから」
宇ノ中さんは楽天的に答える。
「ほぅ」
クールに相槌を打つ伊勢川さん。
「メニュー名はなんだか凄そうだけど」
「タピオカミルクティーっていう飲み物なんだって」
宇ノ中さんは一夜漬けで調べた知識を総動員して話す。
「ミルクティー」
ちょっと安心した顔で返事する伊勢川さん。
「ミルクティーなら私の居た異世界にもあるから」
「大丈夫そうだけれど」
「……タピオカ」
そう言いながら考え込む伊勢川さん。
「原料は、キャッサバ?らしいよ」
宇ノ中さんが薄い知識で説明する。
「……キャッサバ、とは?」
伊勢川さんさんが再び問いかける。
「ん〜、わかんにゃい」
可愛らしく言って誤魔化そうとする宇ノ中さん。
「多分、色合い的にミルクティーが泥水に相当するから」
「カエルの卵ってのがタピオカ?になるのかな」
頑張って解読しようとする伊勢川さん。
「それで原料が……キャッサバ」
「そうか」
何か閃く伊勢川さん。
「キャッサバってのが親カエルの名前で」
「その卵の名前がタピオカ!」
「きっとそうだね」
伊勢川さんさんは何か解読して満足気に話す。
「おまたせしました」
そんな話をしている内に泥水とカエルの卵が運ばれてくる。
「ごゆっくり」
そう言って女性のマスターらしき人は戻っていった。
「これが泥水とカエルの卵」
二人で目の前の飲み物を見つめる。
「確かに丸くて弾力のある物が中に入っているね」
ストローを動かしながら内容物を確認する伊勢川さん。
「この大きさ……ジャイアントトードの卵、かな」
タピオカを見ながら話す伊勢川さん。
同じ様にタピオカを確認する宇ノ中さん。
「キャッサバ……」
「宇宙怪獣キャッサバの卵か!」
そう叫ぶ宇ノ中さん。
「え、知ってるの?」
「その宇宙怪獣、キャッサバ?っての」
伊勢川さんが宇ノ中さんに問いかける。
「ん?」
「ぁあ、なんだか響きが宇宙怪獣っぽいな〜って思っただけ〜」
宇ノ中さんがあっけらかんとして笑う。
「紛らわしぃわ」
そう言ってツッコむ伊勢川さん。
「まぁ、とりあえず……」
「……飲んでみる?」
二人は目を合わせた後、一緒に飲み始める。
ズコココココココ
ズココココココ
モグモグ
モグモグ
ごくん
「うまぁ〜」
「なにこれ、モチモチしているのにモチモチしていて、モチモチしているよ!」
そう叫ぶ宇ノ中さん。
「モチモチしか言ってないし」
冷静にツッコむ伊勢川さん。
「それにしても美味しいね」
「これは女子高生大好きな筈だよ」
そう言って飲み物を見つめる伊勢川さん。
「でしょ〜」
謎に自信満々な宇ノ中さん。
「ふふふっ」
そんな宇ノ中さんを見て微笑む伊勢川さん。
「あははっ」
それに返事する様に笑う宇ノ中さん。
ズココココココココココココ
こうして店内に笑い声とズコココが響き渡っていた。




