第八話 異世界転移の研究者(1)
第七話の冒険者登録料を小銀貨三枚→小金貨三枚に変更しました。
家に帰ると、アークと誰かが話している声が聞こえた。
「なぁアーク様〜。エラーラさんは本当に今日帰ってくるのか?街に泊まってくるんじゃねぇの? 」
『知らん』
「えぇー。もう日が暮れてるし、俺帰っていい? 」
ん?この声どこかで聞いたことあるような……。
家の前でアークと長い赤髪を後ろで三つ編みにした青年が座っている。そういえば、人を呼んでたんだった。
「カマルくん! 」
「あ!エラーラさん! 」
『遅いぞ』
カマルくんはお帰りなさい、と笑って手を振ってくれた。私も小さく振り返す。
「えっと……そちらの方は? 」
「手紙に書いてた異世界人さん。サオリっていうの。とりあえず、中に入りましょ」
そう言って鍵を開ける。ガチャリという音を聞いてドアノブを回した。……が、開かなかった。
『開けっぱなしだったぞ』
「防犯しっかりしましょうね、エラーラさん」
前足を舐めているアークに報告され、カマルくんからは注意されてしまった。うぅ、私の方が先輩なのに……。宮廷魔法使いの時からずっとカマルくんにはお世話になりっぱなしだわ。
「気をつけてます……さ、どうぞ。」
今度こそ鍵を開けて、みんなを中にいれた。
「改めて紹介するね。この子が手紙て伝えた異世界人。名前はサオリ。サオリ、この子はカマルくん。さっき言ってた異世界転移を研究してる子なの」
二人は初めまして、と軽い挨拶を交わした。そこからはカマルくんの質問攻めが始まった。多分私は邪魔になるだろうから、お茶を淹れることにした。
「えっと、色々聞きたいことがあるんだけど、異世界から来たって話は本当?証拠はあるの?空から降ってきたって手紙には書いてあったけど……」
「あ、はい。異世界から来ました。証拠は……私が着てた服でいいですか?空から降ってきた?のも本当です」
サオリは私と出会った時の服を見せて、異世界のものだと説明している。カマルくんもそれで納得したみたい。
「なるほど……。サオリさんが異世界から来たことはわかった。その服はどうしたの?これがサオリさんの着ていた服なら、その服はどこで手に入れたの? 」
「これは、その、エラーラさんが買ってくれました……。服がないと困るだろうって……」
サオリは申し訳なさそうに言った。カマルくんは、ちょっと驚いた顔をしている。
「エラーラさん」
「は、はい……? 」
「初対面の人に服を買ったんですか? 」
「え、うん。だって異世界の服装だったら困るじゃない……ひっ」
カマルくんの顔が怖い。口元は笑ってるけど、目が笑ってない。な、なんで……?
「お金に余裕があるからといって、初対面の人に使っちゃダメでしょ!詐欺だったらどうするんですか!? 」
ひぃぃぃ。カマルくん、怒らせると怖いんだよね。
でも確かに、詐欺だった可能性もあるんだよね。カマルくんに言われるまで気が付かなかった。
「サオリさん!あなたも!人にホイホイついて行って、殺されたりしたらどうするんですか! 」
「うっ……確かに……」
カマルくんのお説教は、しばらく続いた。まだ、夕方と言える空の明るさだったのが、完全に夜になるくらいまで。
「はぁ……。二人とも何事もなかったようなので、まあ良しとしましょう。結局、エラーラさんはサオリさんにいくら使ったんですか? 」
「えっと……。言っても怒らない? 」
言っても言わなくても怒られそうな気がする。多分そんなに使ってないと思うんだよね。多分。
「それは額によりますね。言わないのであれば、高額とみなします」
ちゃんと計算して言おう……。うん。
「門を通るのに銀貨五枚、ご飯は……半分で割って小金貨一枚と銀貨四枚、服も私のローブも合わせた金額で金貨二枚と小金貨五枚、冒険者ギルドの登録に小金貨三枚だったかな。合計は……」
「金貨二枚と小金貨七枚、銀貨が二枚ですか。エラーラさんのローブを差し引いても大体金貨二枚と小金貨二枚は使ってますね。まぁ、そのくらいならいいか……。金貨十枚とかじゃなくてよかった」
ほっ。許してもらえたみたい。
「サオリさん。エラーラさんの出したお金、どうするつもり?」
「あ、それは……」
「エラーラさん?今俺はサオリさんに聞いてます」
「あ、はい……」
怒ってた時よりさらに口角が上がっていたのを見たら、何もいえない。サオリ、がんばれ。
「ぼ、冒険者として依頼をこなして返すつもりです……」
「本当にやるんですね? 」
「はい」
「いいでしょう。ちゃんと全額返すんですよ。返さずに逃げたら、追いかけて殺しますからね?楽に死ねると思わないでくださいね? 」
「ひっ……」
サオリは涙目で首を縦に振っている。それを見たカマルくんは、良し、と言って立ち上がった。
「この話は終わりにして、ご飯にしましょう。夜になっちゃいましたし。エラーラさん、台所借りていいですか?俺、ポトフ作ってきたんですよ。もちろんアーク様の分も」
『ほう。お前の作る飯だけは評価してやる。エラーラの作る飯は不味いからな』
お説教の間、本棚の上で寝ていたアークは、自分の分もあると聞いてスッと座り直した。一言多いけど、料理が下手なのは事実だから何も言い返せない。
カマルくんが台所に立って異空間収納からポトフを出したのを見て、私はサオリにコソッと耳打ちした。
「最初に言ってた通り、入場料と冒険者ギルドの登録料だけでいいからね」
「い、いえ……」
「エラーラさん?その子に甘すぎますよ。全額です」
ひっ、という声がサオリと重なった。カマルくんに聞こえないように言ったつもりだったのに。




