第三話 オーニシの正体
お茶を沸かしながら、アークに再度さとした。
「アーク、あんな言い方ダメだよ。オーニシがしゅんとしてたじゃない」
『フン。我を変な名で呼ぶからだ。……だがしかし、無礼とは……少し言いすぎたやもしれぬ……』
はぁ。めんどくさい猫だわ。怒る気も失せてくる。当のアークは尻尾をゆらゆらと動かしている。認めたくないのね。
「あのー、着替え終わりました」
オーニシが扉から顔を出していた。
「あ!ごめんね。服の大きさはどう? 」
「少し……小さめですが、大丈夫そうです、はい」
そう言って出てきたオーニシは少し窮屈そうだ。そうだよね、私より身長高いもんね……。
一応、家にある1番大きな服を出したんだけど、それでもちょっと小さいのか。……特に、胸の辺り。羨ましいなぁ。ていうか、私が着ると裾が床についちゃうのに、オーニシが着るとふくらはぎの真ん中あたりの丈になってるじゃない。袖も変な丈になってるし。こりゃダメだわ。
「後で街に服買いに行こっか」
大変申し訳ないからちゃんと買ってあげよう。
え、そんなそんな!申し訳ない!お金、ここのお金も持ってないのに!ってオーニシは慌てているけど。
「いいんだよ。連れ込んだみたいなかたちになっちゃったし。とりあえず座って。ここにくるまであんまり喋ってなかったから、いっぱいお話ししたいな。地図も見せなきゃだし」
「ほんとに何から何まで申し訳ない……。あ、私の着てた服と荷物、どこかに置いていいですか? 」
「うん。そこの棚の上に置いていいよ」
「ありがとうございます」
オーニシが服を棚に置いて、椅子に座ったのをみてから、お茶を淹れてオーニシの前に出した。私も席について、地図を広げた。
「これが周辺国々の地図ね。真ん中がこの国、フレンシア王国」
片付けをした時に地図をすぐに出せるところに置いておいて良かった。ていうか、片付けの時に見つけられて良かった。
オーニシはほうほう、と興味深々で地図を見ている。それに、よくわからない単語も口にしている。
「地形的にはヨーロッパに近いな」とか、「やっぱ異世界転移系か……? 」みたいな。
異世界転移はかろうじてわかるかな。文献は少ないけど、研究してる魔法使いもいるし。見たことのない服装に、知らない単語。オーニシはもしかしたら異世界人なのかもしれないなぁ。
「なんとなくわかりました。ありがとうございます」
オーニシは地図に満足してくれたみたい。良かった。
今度は私の番だ。オーニシに聞きたいことは山ほどある。とりあえず、1番気になることから聞いてみよう。
「オーニシはなんで空から降ってきたの? 」
オーニシはうーん、と少し考えたあと、口を開いた。
「私も急なことすぎてあんまり覚えてないんですけど……。確か、大学に遅刻しそうで走ってたところにぽっかり穴が空いて……落ちたんだったと思います。気がついたら空だったというか」
ふむ。なるほど?走ってたら穴に落ちて、空だったと……?
「多分、異世界転移なんだと思います。地図を見て、私の知ってる国は一つもなかったし、私のいたところには魔法はなかったですから。多分……ていうか絶対、使ってる言語も、ここと私のいたところだと全然違うだろうけど、エラーラさんと普通に話せてるし、地図の文字も難なく読めましたし」
オーニシはそう続けた。
やっぱりオーニシは異世界人なのね。それにしても、魔法がない世界……。一体どうやって生活するんだろう。ていうか、私と話せることとか、地図の文字が難なく読めることって異世界転移と何の関係があるの?
「でも、やっぱり信じられません。いろんな小説を読んで、憧れてはいたけど、まさか自分がって」
オーニシはにへっと笑った。そんな小説あるんだ。
そういえば、簡易的な鑑定ができる魔道具がうちにあった気がする。鑑定してみると何かわかるかもしれない。
「なんか……聞きたいことが増えちゃったんだけど、まぁいいや。確かうちに簡単に鑑定ができる魔道具があったと思うんだけど、鑑定してみる? オーニシが転移してきたのかどうかわかるかも」
ほんとですか!?とオーニシは椅子から勢いよく立ち上がった。
わお。食いつきがいいね。
あ、すみません、とオーニシは顔を赤らめて座り直した。可愛くてつい顔が綻んでしまう。
「そんなに食いつくとは思わなかった。ちょっと待ってね。確かどこかの棚にしまったと思うんだけど……」
『本棚の横の棚の右側、1番上だ』
どこだっけな、と私が席を立った途端、アークが口を開いた。
アークの言うところを探すと、本当に鑑定の魔道具が出てきた。棚から下ろして、アークにお礼を言った。
「ありがとうアーク。おかげで見つかったよ」
『お主、自分が置いたところくらい覚えておれ。今回は我がたまたま場所を覚えておったが、我も場所を覚えておらぬものが必要になった時どうするつもりだ』
「すみませーん」
多分アークはほとんどのものの場所を把握してる。大丈夫。
そんな考えを見透かしたのか、不出来な主人を持つと大変よのう、とアークがぼやいている。えへ。
「これが鑑定の魔道具だよ」
「意外と小さいんですね。もっと大きいのかと」
「宮廷魔法使いをやめるときにもらった簡易版だからね。教会とかに置いてある本物はもっと大きいよ。詳しく調べるならそっちの方がいいんだけどね」
「元宮廷魔法使いなんだ……」
あ、さらっと言っちゃった。まぁ、いいか。別に隠してないし。えへへ、と曖昧に笑っておいた。
オーニシの前に鑑定の魔道具を置くと、アークが本棚から降りてきて、鑑定の魔道具の横にちょこんと座った。
『我もオーニシとやらのステータスが見たい』
アークも気になるんだ。
「手をかざしたら鑑定が開始するよ。10秒くらいで自分の名前とか、色々ステータスが出てくる」
なるほど、とオーニシは手をかざした。
色々がなんだったかは覚えてない。自分のステータスを逐一確認することなんてないし、そんなに興味ない。たしか教会とかに置いてある大きいものだと属性とかも見れた気がする。これでも見れるんだっけ?
色々考えているうちに結果が出たらしい。出ました!出ましたよ!とオーニシがはしゃいでいる。
どれどれ、と三人で覗き込む。
オーニシのステータスはこんな感じだった。
【名前】 サオリ・オーニシ
【年齢】 19
【種族】 異世界人
【体力】 1069
【魔力】 5000
「あぁ、ほんとに異世界に来たんだ……」
オーニシはは少しホッとしたような顔だ。ちょっと嬉しそうでもある。
「夢じゃなかったね。ていうか、オーニシの方が苗字だったのね……」
ずっとサオリの方が苗字だと思ってたわ……。当の本人はあ、そうなんですよ、とケロッとしている。
「大西でも、沙織でも、呼びやすい方で呼んでください」とのこと。
ずっと苗字を呼び続けるのも申し訳ないし、サオリと呼ぶことで合意した。
『それよりも、お主魔力と体力が釣り合わんの』
名前についての話がまとまると、じっとステータスを見つめていたアークが口を開いた。
「確かに。魔力は平均の十倍くらいあるけど、体力は少なめだね。それでも男の人の平均くらいあるけど。まぁ、問題はないかな。釣り合いが取れてなくたって、どうってことないし」
普通は体力も魔力も大体均等に増えていくんだけどね。どちらも増減あるし、どこかで釣り合うでしょ。
こうして、オーニシのステータスのお披露目は終わった。




