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9/13

過去の想い

 私が生まれた時、母は死んだ。そして、父親は私のことを嫌っていた。それが理解できた。自分の居場所はほとんどなかった。だからこそ、私は居場所を作るために、魔法を見出した。魔法が強ければ、きっと見直してくれると思った。


 だけど、ある日私がみんなの前で魔法を披露した日、私の居場所はさらになくなった。まるで腫れ物を扱うのごとく、誰も必要以上に近寄ってこなくなったものがそれがさらに悪化した。私はどうして?と思い、理由を聞いた。誰も答えてくれなかった。だけど、ある日ロドリグが私に教えてくれた。


 『破滅の魔女』のことを。私はそれを聞いて、その理由が分かったと同時に、自分と周りを恨んだ。


 どうして自分は闇魔法という力を持ってしまったのだろうか、と。


 どうして、それだけでさらに嫌われてしまうのだろうと。


 私は何もしていない、誰も傷つけていない、ただ闇魔法という力を持ってしまっただけなのに。誰も何も言わずに、私を嫌うのだろう。


 だけど、その気持ちは最初それほど大きなものではなかった。なぜなら、ロドリグはいつも通りに接してくれた。それに、その時ごろに私のお付きのメイドとなったミシェルも普通に接してくれたから。


 ロドリグとミシェルは私の力を怖がらずに、普通に接してくれた。だから、私は信じていたのに。特にずっといつも通りに接してくれたロドリグのことを。


 生まれてからずっと私のそばにいてくれたロドリグ。私の近くにロドリグがいないことはほとんどなかった。一緒に遊んでくれて、一緒に勉強して、一緒に色々なことを行った。ほとんど会わないお父様よりも私にとってはロドリグが父に等しかった。私の唯一の家族のように思えていた。


それにロドリグは言ってくれた。


『ここだけの話ですが私はあなたのことを実の娘のように思っていますよ』と。


私は無邪気に返した。


『私もロドリグはお父さんだと思ってる』


 ある日、私は夜中に突然目覚めて、ベッドから起き上がり、自分の部屋を出てロドリグの部屋を目指した。物凄く嫌な夢を見て、ロドリグのところに行きたくなったのだった。

 その途中、誰かの話し声がした。それはロドリグとお父様の声だった。


『クリスティアを森の屋敷へ送る。ここにいると何かと面倒だ』

『お待ち下さい、旦那様。クリスティア様は長女です。それに男児がいないうちでは、彼女の婚約者こそが次期当主となります』


 私は森の屋敷へと送られるという話だけで恐怖していた。どうして、そんなところに行かなければならないのだろう、と。なぜここにいてはいけないのだろう、とも思った。そして、同時にロドリグがきっとそれを止めてくれると信じていた。


『モニカが最悪いるし、結婚して子どもだけでも作ってくれれば十分だ。ロドリグ、わかるだろ?』

『しかし』

『黙れ、貴様の主人は私だ、主人の決定に従うのが、貴様の役目だろうが』


 お父様はロドリグに怒鳴った。ロドリグは何も言わないでいた。どうして、何も言わないのだろうと思った。なぜ私のためにもっと言ってくれないのだろう。


 それに、ロドリグは前に言ってくれたのに。私がどうして、ロドリグはみんなと違って普通に接してくれるの?と聞いた時答えてくれたのに。


『お嬢様のことを大切に思っているからです。私の主人はお嬢様ですし、それにここだけの話ですがお嬢様のことは私の娘のように思っています』


 そう言ってくれたのはうれしかったのに。どんなことがあっても私の味方で、娘のように思ってくれているのではないか、と思っていたのに。


『わかりました、旦那様』


 ロドリグはそう答えた。私よりもお父様を優先した。それが当たり前かのように。私はロドリグのことを信じていたのに。裏切られたように感じられた。私はその場で泣き出しそうだった。だが、泣けばここにいるのがばれてしまう、話を聞いたのがばれてしまう。そうなれば何が起こるかはわからない。自分の部屋へとすぐに戻ろうとしたが、体は動かなかった。ここに来なければよかった、と何度も思った。何度も去ろうと思ったが、逃げれなかった。


『では、ロドリグ、監視を頼むぞ。それにいつか彼女が不要になれば、お前が殺せ。お前ならクリスティアを簡単に殺せるだろう。あんなに好かれているのだから』


 父は笑うように言っていた。私は恐怖でいっぱいだった。だけど、ロドリグはそれだけは了承しないだろうと思った。


 だが、ロドリグの返事が聞こえた。聞こえてしまった。


『はい』


 たった二文字。短い言葉。だが、それで十分だ。それは了承の言葉だ。私を殺すことを承諾した返事だ。


 私の体はもう動き出していた。自分の部屋のへと。もう聞いていられなかった、涙をこらえ、声を抑えながら私は自分の部屋へと戻った。私は部屋に戻ると、布団をかぶり声を抑えて泣いた。


 ロドリグは私をずっとだましていた。私のことをいずれ殺すために、あのように普通に接してくれたのだ。そう思うと、涙が止まらなかった。

 

 信じていたのに。

 好きだったのに。

 愛していたのに。

 本当の父だと思っていたのに。


 ロドリグは私を殺そうとしている。その考えだけで、ロドリグとの今までが嘘のように思えた。


 翌日になっても私は泣いたままであった。その日、ちょうど私を起こしに来たミシェルは驚き、慌てながら私が泣いている理由を聞いた。私は理由を答えられなかった。答えたくなかった。ミシェルは困ったような表情をすると、突如私の手を取り、こう言ってくれた。


『何があったかはわかりませんが、私はお嬢様の味方です』


 私は本当に?と問う。ミシェルは本当です、と言った。私はもう一度尋ねた。


『何があってもずっと一緒にいてくれる?』

『ええ、ずっと一緒です。私はお嬢様のメイドですから』


 ミシェルは笑顔でそう言ってくれた。だけど、怖かった。だって、ロドリグのようになるかもしれない、と思った。だから、私はミシェルにお願いをした。


『私の友達になってくれる?』


 友達なら裏切らないだろう、と子どもながらに思った。だから、私はミシェルにお願いをした。ミシェルは一瞬困ったような表情をする。それはメイドとしての逡巡だったのだろうと思う。でもすぐにミシェルは笑顔で頷く。


『はい、それがお嬢様のお望みなら。私とお嬢様は友達です。何があってもずっと』


 私はうれしかった。これでミシェルは裏切らないと思った。私はミシェルに抱き着いた。ミシェルは一瞬ふらつくが、私を受け止め私の頭をなでてくれた。


 その後、数日して、私は森の屋敷へと送られた。ミシェルとロドリグを含む十数人の使用人と共に。使用人の数は徐々に減っていた。だけど、私はそれを悲しいとも何も思わなかった。だって、ミシェルさえいれば私には十分だった。


 森での生活でやることは基本的に勉強だけであった。教えてくれたのはロドリグだった。私はロドリグをずっと疑っていた。だから、できる限り接することを減らし、ミシェルについて回った。ミシェルはそれを疑問に思ったようであったが、何も言わずにいてくれた。

 

 ロドリグと接しているとき、彼は苦悩しているように感じられた。だから、私は実はロドリグは私を愛しているのではないか、と少し思っていた。だけど、それが違った場合が怖くて、私は何も言えなかった。もし本当に私をだましていたと直接言われたら私は壊れてしまいそうだった。だから、私はロドリグが何かを言ってくれるのを待っていた。今でもずっと。

 

 ある日、ミシェルは私に本をくれた。退屈なことが多いだろう、と小説をくれた。私はそこから小説を読み、物語を読むのにはまった。だって、物語の結末はほとんどみんな幸せになるし、物語の人物に裏切られても何も思わないからだ。


 でもある日、突如気づいた。私はずっと物語の主人公のつもりだった。いずれ誰かが救ってくれる、と。でも違う、私は悪役だ、と。私がいなくなることでみんなが幸せになるのだ、と。

 その日からだろう、私は死を望み始めた。だけど、自分で死ぬ覚悟も度胸もなく、ずるずるとそれを先延ばしにして生きのこった。ロドリグに殺してもらうのは嫌だった。だって、ロドリグに殺されたら、本当に騙されていたとわかってしまうから。


 だから、生きることにした。父と継母を恨み、妹を妬み、この国のすべてを恨み、妬むように復讐を望むかのように自身で思いこんだ。そうすることで私は生きた。生きてきた。ミシェルはそれを辛そうにしていた。だけど、ミシェルの存在だけでは私は生きられなかったのだ。

 ミシェルのことが好きだった。大好きだ。愛している。でもそれでも、私の生きる理由のすべてにはならなかった。それ以上に私の死を望む心が勝っていた。


 私の復讐心と死を望む心、それはいつも同じくらいであった。私の周りの状況もほとんど変化なかった。


 だからこそ、この現状を、変えてくる何かの存在の出現を信じ続けていた。私を救ってくれる人物が現れると。


 そして、レインが屋敷の前で倒れていたのを発見した。私はレインを助けて、話を聞いた。レインは私が望んでいた人物であるかのように感じられた。だから、カーヒルの名を与えた。


 いずれ、私のことを想い、私をだますことなく殺してくれると信じ、願って。


 そんなカーヒルの選択は驚くべきものだった。


 私の死を望む心を否定し、私の心の奥深くの本当の望みを言わせてくれた。

 私と共にいてくれると言ってくれた。愛に飢えた私にとって願ったかのようなことを言ってくれた。それも本心から。


 カーヒルは私を救ってくれた。彼は恩を返すためと言っているが、私のほうが彼に恩をもらっていると感じる。どうすればこの恩は返せるのだろうか?どうすれば彼は喜んでくれるのだろうか?


 そして、どうしていれば裏切らずに一緒にいてくれるのだろうか?もうロドリグの時のような気持ちは味わいたくない。私はもう誰にも裏切られたくない。


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