真実の想いと嘘
クリスティアはカーヒルの部屋を訪れ、自分の部屋に戻る途中、ミシェルに会う。ミシェルはこれからカーヒルに食事を届けるようであった。ミシェルはクリスティアがカーヒルの部屋を訪れたようだったので、注意をする。
「お嬢様、一人であの男と会われたのですか?危険です、私かロドリグさんを連れてください」
「問題ありませんよ、カーヒルはそういう男ではありません」
クリスティアがそのように苦笑交じりに言うと、ミシェルはすぐに首を振って返答する。
「何があるかわかりませんので、それにあの男は事情はどうあれ騎士殺しの裏切りものですよ」
「そうですね、でも彼は安全ですよ」
クリスティアのどこからかあふれ出てくる自信にミシェルはため息をつく。ミシェルはクリスティアがかなり彼のことを信じているようだと判断し、これはどうにもならないと思う。だが、それでも彼女にはクリスティアの身を守るために再度注意をする。クリスティアがミシェルにとってのすべてなのだから。
「とにかくお嬢様、あの男と会う時は私かロドリグさんと一緒に行くことよろしいですか?」
「わかりました、これ以上心配はかけませんよ」
クリスティアはミシェルのことを理解しているので、ミシェルが心配しているだけなのは知っている。だからミシェルの注意に従うようにする。ミシェルはクリスティアにとって大事なメイドであり、最初で最後の友人なのだと思っているからである。自分のことを思ってくれている唯一の仲間。
ミシェルは絶対ですよ、と言った後、カーヒルの部屋へと向かった。その間にクリスティアは自分の部屋へと戻った。
自分の部屋に戻ってしばらくしてロドリグはクリスティアの部屋を訪ねていた。
「お嬢様、旦那様からの手紙です。色々と忙しく今更になってしまっていましたが」
「呼んでくれる?、内容は大体わかるけど」
クリスティアは苦笑交じりにそう言うと、ロドリグは頷く。クリスティアは父からの手紙を一人で読もうともしない。そんなきはとうに失せていた。それに、この手紙をロドリグに読ませることでその反応を見るようにしていた。彼がどう思っているのかの内心を少しでも知ろうとした。
ロドリグはいつものようにゆっくりと手紙を読み始めた。内容はクリスティアが思っていた通りのことであった。いつもと変わらない、まるで心配しているかのように体調を気遣うかのようなものであった。だが、そこに込められている意味がどういうものかは知っている。そして、これを読むロドリグの雰囲気も一切変わらなかった。いつもと同じ、気味が悪いほどに同じであった。ただ淡々と言葉をなぞるだけであった。
「お父様はまだ私に価値があると思ってくれてくれているみたいね?ロドリグ」
クリスティアはロドリグに意地悪そうに尋ねる。ロドリグは「旦那様はお嬢様を思っています」といつもこのような質問のときに返してくる答えを言う。ロドリグはクリスティアからの嫌味を理解しながらも、それに乗ることもせず、いつも通りの答えを返す。二人のいつもの会話。ただ表面上だけの会話。
クリスティアはもういいと言いたげに、何も言わずにロドリグに退出するよう促す。ロドリグは彼女の机に手紙を置いて「失礼いたします」と言って退出する。
クリスティアはロドリグが遠くに行ったであろうタイミングでつぶやく。
「ロドリグ、嘘と誤魔化しをいつまで続けるの」
クリスティアの眼は悲しみと寂しさで彩られていた。彼女はロドリグの立場を知っている。そして、ロドリグがどれだけ私のために尽くしてくれたのか、いえ今も尽くしてくれているのかは知っている。だからこそ、彼の本音を今彼女は知りたかった。
(あなたはどうしたいの?私のことを)
彼女は父からの手紙を破った。いつものように。